第30話 俺が試していたある事
サブタイトルの話数が間違えていたので修正致しました。
今のこの説明もそうなのだが、たまに俺は会話の中で『ある事』を試していた。
結局、初めてのギルドの依頼仕事の道中で話のネタとなった『俺の言葉が普通に通じている件』については、未だに答えが出ないままになっていた。
最初のうちは、突然言葉が通じなくなった場合どうしようかという不安感が有ったのだが、なんやかんやで一週間以上たった今でも普通に言葉は通じている。
それについては、やはりマリリもマリスもセリーも彼女らの知識と経験上ではありえない事らしい。
一週間以上もワード・コンバーションの魔法が持続されるのは考えにくく、ここまで来るともうそれは魔法では無く一種の『呪い』なんじゃないかという推測まで出てきた。
呪いと言われると何か恐ろしいイメージしかないが、今の所は体にこれといった不調も無く、とあるアニメの主人公の様に飛び切り運が悪いといった様子も無い。
まぁ、訳も分からず異世界に飛ばされた事自体が有る意味不運かもしれないが、こうしてマリリやマリスの様な美少女と出会い、あまつさえ一つ屋根の下で一緒に暮らし、村長やザウル、セリーやミトン、ドーザー親方など心温かな人たちに出会えたことは俺の人生にとって幸運とも言えるだろう。
そして俺が試している事だが、それは『会話の中にあくまでも予想でだが、この世界には存在しないか知られていないであろう物の名称を混ぜる』事である。
俺が元居た世界と、この異世界とでは歩んでいる文明が明らかに違う。
特に魔法が当たり前のようにあるこの世界では、元居た世界よりも機械的な文明については明らかに進化に差が有る。
当然、この世界に存在しない物は山ほど有る。
では、それらはどう翻訳されるのか?と言う疑問が有った。
先ほど、マリリが『ステンレス』や『パッキン』を復唱していた辺り、どうやらちゃんと俺が発した通りの『言葉』として正しく聞き取れている事が、はっきりと分かった。
これはこれで余計に謎が深まった事は確実だが。
勿論もっと確実に存在しない物・・・例えばコンピューターだとか携帯電話だとか色々と有るが、取り敢えずは少しづつ段階を踏んで試していく事にしている。
とりあえず今は、マリリ達の疑問に答えるとしよう。
「じゃぁスープも冷めちゃうといけないから手短に・・・まず、一概に金属と言っても固かったり柔らかかったり、軽かったり重かったり、色々種類・性質が違うのがあるのは分かるかな?そういうのは材質が違うからこそなんだけど、そこまでは分かるかな?」
「はい、わかります。」 「僕もなんとなく。」
「うむ、詳しくは説明できんが、なんとなく。」
「で、一般的なステンレスってのは金属の材質の一つで、特徴としては腐食・錆びに強い性質を持っているんだ。錆びに強いと言っても何に対してでもって訳じゃ無く、硫酸や塩酸といった物には弱いんだ。あと、非常に硬いんだけど、剛性は低くから折れやすかったりもする。」
折角のマリリとマリスの作ってくれた食事に集中出来ないのが何とも申し訳ないのだが、3人とも熱心に聞いてくれているので、判りやすい様にジェスチャーを交えて続ける事にした。
「この水筒なんだけど、恐らくはそのステンレスと言う金属で出来ている。飲料水やスープなどを入れる水筒をステンレスで製作してるのは正解だね。ステンレスは、鉄にクロム・ニッケルなどの元素を加えた合金鋼なんだけど、その比率によっては性質も変わってくるから場合によっては繰り返し洗い何年も使ってる内に錆びてくる可能性も否定は出来ないけどね。」
どうやら2人は頭から煙が出かかっている様だが、とりあえず続ける。
なんとかマリリはギリギリ大丈夫な様だ。
「で、パッキンについてだけど主にゴムや樹脂など弾力性のある物で出来ていて、水筒で言えばこの蓋の方にこんな感じではめ込んで有る物なんだ。で、蓋を回して締めこんだ時に本体の淵がそこに抑えつけられて、隙間なく密閉される事により水の様な液体でも漏れなくなるんだ。密閉するにはやはり先に説明した『ネジ山』がしっかりしていないと簡単に緩んだり締め込みが甘くなり、やはり漏れてくるんだね。」
「つまり、どちらかが一方が良くてもダメ。両方がきっちりバランスが取れてないといけないのですね?」
「そ、マリリさん、正解です!」
「じゃぁ戦いにおける、僕とおねーちゃんみたいなもんだね!」
「おお、マリスさん上手い事、言いますね!」
「えへへ、褒められた。」
「大地、もし良かったらまた色々と教えてくれないか?非常に興味深い。」
「勿論です。私の知識の範囲でしたら何でもお聞き下さい。この世界に来てからと言うもの、いつも皆さんに助けて頂いているばかりですから、なにか私でお役に立てる事が有りましたら何なりと。」
「うむ、感謝する。では、そろそろ頂くとするか。俺はもう腹が減って死にそうだ。それにこのままじゃマリスに全部食われそうだしな。」
「そうですね!頂きましょう!」
俺達はマリリとマリスの作ってくれた食事を一つ残さず平らげ、帰路に着いた。