第28話 まずは及第点と言った所だな
「ふむ、なかなか様になって来たな。剣を初めて握ってから8日目としては、まずまず及第点と言った所だな。」
「ありがとうございます!」
初めてのギルドの仕事はなんとか成功に終わったものの、やはり俺としては新たな課題が出来ていた。
新たな・・・と言うよりは最初から分かっていた事なんだが。
そう、剣の扱いだ。
当たり前の事だが、この36年間生きて来て『本物の剣』を振るったのはこの異世界に来てからが初めてだ。
初めてのギルドの依頼仕事の際に2匹目のダガーウルフを1人で倒せたのは、やはり俺としてはまぐれとしか思えず、今にして思えば中々無茶をしたなと思う。
とはいえ、あの状況で逃げるなんて選択肢は冒険者としても男としてもあり得ない訳だが。
なので今後、ギルドの冒険者として生計を立てて行く為にも戦いを避けて通る事は出来ない訳で、日々の空いた時間や依頼仕事完了後の夜の時間を利用して、この村の警備隊長ザウルに剣技の特訓をお願いしたと言う訳だ。
ザウルも仕事で疲れているのは承知で無理なお願いとは理解しながら申し出たのだが、ザウルは「お前ならきっとそう来ると思っていた。」と、二つ返事で剣技の講師を引き受けてくれた。
勿論ザウルにも色々と都合は有るので、なるべく俺がザウルの予定に合せる形として、警備隊の詰め所前の広場で行う事となった。
今日で初めての仕事を受けた日から8日目となる。
つまりこの世界に来てから9日目になるのだが、毎日が新しい事だらけだと時間が過ぎるのが早く感じる。
遊んで暮らすなんてのは社会人としてもっての外なわけで、初仕事の次の日からも日々ギルドに通っては、俺のクラスでもこなせる依頼を引き受けては達成し、着実に生活費と僅かながらのギルドポイントを稼いで行っていた。
ダガーウルフと遭遇したザラ山脈の森での薬草採取や、街道に出没するモンスターの討伐など、村の外に出てモンスターと戦う必要が有る依頼仕事の時は、マリリとマリスも一緒に行動をしている。
やはりプラチナクラスの2人にブロンズクラスの俺の依頼を一緒に受けて貰うのはやはり申し訳なく思うのだが、2人とも嫌な顔一つせず、というか喜んでくれている?辺り、心を救われる。
森で初めてであった時に思った通り、マリリとマリスは俺にとっての女神だと思い感謝の極みだ。
今のところ村の外での以来仕事でもダガーウルフやそれ同等のモンスターと出くわす事は無く、ゴブリンやフィアース・ラビット等の低級モンスターが殆どだった。
日々ザウルから教わった事を復習を兼ねて実践するという意味では低級モンスターは格好の相手なのだが、鍛練と言う意味では少し物足りなさを感じていた。
やはり俺としてはマリリやマリスと同程度、やがては俺がマリリとマリスを守る側に立ちたいと思う。
その為にも日々の特訓は欠かせないと言う訳だ。
「よし、今日はこれくらいにしておくか。」
「はい、ありがとうございました!」
特訓を終えた俺達は警備隊詰め所前のベンチに腰を降ろし身体を休めていると、ギルドの依頼仕事を終えたマリリとマリスが手荷物を持ってやって来た。
「お二人ともお疲れ様です!」
「おつかれー大地、ザウル隊長。」
「マリリ、マリス、君たちもお疲れ様。」
ギルドの依頼仕事はモンスター討伐や路工人たちの護衛などと言った冒険者的なものばかりではなく、村の中での仕事も多くあり、日によっては俺達3人はそれぞれ別の依頼仕事を引き受けこなしている事もある。
今日の俺の仕事は、村の外壁の補修の手伝い・・言わば大工仕事の補佐みたいなものだった。
そもそもギルドは冒険者だけのものではなく、ギルドに登録する際に自分がどのジャンル・・・要はどの職業者として登録をするかを選ぶ事が出来る様になっており、冒険者以外では路工人、鍛冶職人、医療魔法士、狩猟士など他にも有るらしく、一人の人間が重複して他の職業で登録する事も可能となっている。
但し、全くの未経験で登録できるのはあくまでも『冒険者』のみで、その他の職業に登録するにはそれなりに実績や経験が必要となり、ギルド協会の承認を得た者が保障しない限り基本、登録は出来ない仕組みとなっている。
また年に数回だけ、ギルドがそれらの職業の登録試験を実施する事が有り、それに合格する事が出来れば晴れてその職業者としてのギルド員として認められ登録が行える。
例えるなら、現代における国家試験、資格試験の様なものだ。
例に漏れる事無く、マリリとマリスはそれぞれ冒険者以外にもギルド員として登録しており、それにより冒険者以外の仕事を引き受ける事が出来ると言う訳だ。
今日はマリリは医療魔法士としての依頼を、マリスは狩猟士としての依頼をこなして来ていた。
「今日は私たちのお仕事が早く終わったので、マリスと一緒にお弁当を作って来ました。ザウルさんの分も勿論ありますので、ここで夜ごはんにしましょうか。」
そう言いながらマリリとマリスは、警備隊詰め所前に設置されているテーブルの上にお弁当を広げていった。