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第27話 そのまま、そっと俺の手を包み込んだ

 「「「おおー!!」」」


 セリーが広げた昼食を見て、みんな感嘆の声を上げる。

 俺達は幌車の横にシートを広げ、日差し避けとして幌車を利用しタープを立てた。

 異世界ではこれが普通なのかもしれないが、俺からすればちょっとしたキャンプ気分でテンションが上がる。


 今回の様に昼飯もギルド協会持ちの場合はその街の食堂が作った弁当で有る事が大半なのだが、同伴するギルド職員によってはその人が手作りで持ってくることも有る。

 ちょっと意外な事にセリーはかなりの料理愛好家らしく、まれに複数のパーティー合同の大規模な依頼仕事の後のギルド酒場での打ち上げの時にセリーが腕を振るう事も有るらしく、冒険者達の間では人気なんだとか。


 そんなセリーが今回用意したのは直径20センチはあろうかふっくらと焼き上げたバンズに、これまた分厚いハンバーグの様な肉が挟んで有りレタスやトマトといった野菜に、ピリリとアクセントの利いたマスタードが絡みついた正しく巨大なハンバーガーだった。

 数も人数分×3個は用意されており、むしろこれ食いきれるのか!?と言った量だった。

 だが心配も余所にいざ食べ始めてみるとその美味しさから、あれよあれよと俺達3人とセリーは丸々2個をペロリと平らげ、路工人達は一気に3個を平らげた。

 食事の後は少し休息を取った後、午後の工程確認と護衛の配置確認をみんなで行ってから作業開始となった。


 昼飯前のダガーウルフの事を考慮し、マリリがフィール・リアクションの展開範囲を200メートルにまで広げたまま配置に着く事になった。

 マリリは特に苦戦する訳でも無く普通に行っていたが、セリー曰くこれを維持し続けいざという時にはそのまま別の魔法まで使えると言うのは、中々に驚異的な事らしい。

 何気に午前中の作業が予定より良いペースで進行していた為、午後の作業は片づけも含めて3時間ほどで片が付いた。


 途中ゴブリンが4匹ほど現れたが直ぐさまマリスが1匹、俺が2匹を倒し、マリリが1匹を倒し特に作業に支障は無かった。

 マリリが路工人達をアクア・フィールドで作業場所ごと防御障壁を展開し、路工人達はゴブリンを全く気にすることなくそのまま作業を続けるという、傍から見ると少し不思議なシチュエーションだった。


 「今日は安心して作業が出来たよ、また機会が有れば宜しくな!」


 「こちらこそ、ありがとうございました。」


 「皆様お疲れ様でした。報酬金はギルドにて受け渡しとなりますので、時間の都合の付く時にお越しください。」


 クムリ村に着いた俺達一行は正門を入った所で挨拶を交わし、俺達は今回の報酬金を受け取る為にそのままセリーと一緒にギルドへ、ドーザー親方達は先に道工具類を片づけに戻った。


 「では、こちらにパーティーの代表者として大地様のサインを。それと大地様のギルド員証をご提示願います。」


 『依頼業務、完了届』と書かれた(らしい)用紙をセリーがカウンターの上に置き、サイン欄に記入する。

 なんかもうまるで、工事を委託された業者の気分だ。

 ラングコンバーションの魔法により、日本語で記入したサインがこの世界の文字に変換されるが何度見ても不思議だ。

 記入した用紙をセリーが確認し俺のギルド員証と共にカウンター奥に入ると、報酬金が入った小袋を乗せた盆を持って現れた。

 

 「こちらが今回の報酬金になります。それと今回の戦いを拝見いたした結果、大地さまはブロンズクラスにランクアップとなります。」


 「はい、え?ええ!?ま、まじですか?」


 「はい。今回ダガーウルフと言う想定外のモンスターが出現しました。本来、日中に森の入口付近で出現するモンスターでは無いのですが、路工人の方々は勿論の事、自身のパーティーにも誰一人として負傷者を出すことなくそれを撃退されました。」


 「確かにそうかも知れませんが、それはマリリとマリスの助けが有ったからこそです。俺一人では確実にやられていました。」


 するとそれまで淡々と語っていたセリーが徐に瓶底の様なメガネを外し、カウンターの上に置くと柔らかな表情で俺を見つめる。

 あのゴツイぐりぐりメガネで分からなかったが、こうして見るととても整った顔立ちに少し切れ長の目は、マリリとはまた違った大人の女性の魅力を感じる。


 「そうご謙遜なさらずに。実は、あのダガーウルフはアイアンクラスの駆け出し冒険者が勝てる相手では無いのですよ。それをあの短い間に相手の攻撃の習性を見抜き、一撃で倒したのはお見事でした。それに、それだけでは御座いません。今回の様に合同で業務を行った路工人の方々を交えた護衛に関する計画性や、コミュニケーションなど、そういった点も評価対象として見させて頂きました。」


 「そ、そうですか、命を預け合って仕事をする上で当たり前の事だと思いますが。」


 すると、セリーは『ふふっ』と再び笑顔を見せた。


 「それが中々、自然に出来る冒険者ってそう多くは無いんですよ。大地様が以前どんなお仕事をされていたのかは存じ上げませんが、もっと大地様の活躍をお側で見てみたいですね。」


 そう言いながらセリーは左手で俺の右手をゆっくりと持ち上げると、右手で俺の手の平にギルド員証を置きそのまま俺の手をそっと包み込んだ。

 

 「へえっ、へあ、あわわ、セリーさん?」


 「ちょ、ちょっと、セ、セリーさん!?はぅぅ・・・」


 涙目のマリリが俺の右腕を掴む。


 「わーい、僕もー!」


 それに乗じてマリスが俺左腕に抱き着く。


 あぁ、男、西明寺大地36歳、このまま天に昇ってしまいそうなほど幸せです。

 

 「おっ!?なんや兄ちゃん偉いうらやましいのー。」


 聞き覚えの有る声に振り向くと、ドーザー親方とその部下たちが今回の報酬金を受け取りに来ていた。

 

 「いやこれはなんと言いますか、どうしていいものやら。」


 「ガハハ!ええがなええがな、若い証拠や。それより兄ちゃん今回がギルドでは初仕事やゆとったな。なら今日は兄ちゃんの初仕事成功を祝ってワシのおごりや!さあ飲むで!マリリちゃんたちも一緒にええやろ?」


 そう言いながらドーザー親方はまた俺のケツを平手でバシッと叩いた


 「ごふっ、あ、ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせて頂きます。」


 「ありがとうございます。」 「ありがとー!」


 俺に続きマリリとマリスも頭を下げる。


 「あ、じゃぁ私も今日はこれで上がりの日なので、ご一緒させて頂きますね。」


 セリーを含めた俺達4人とドーザー親方、その部下達で、ギルド併設の酒場でささやかな祝勝会となった。


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