第26話 男、西明寺大地、ここが踏ん張りどころだ!
ついに大地が・・・
戦いの結末は!?
『ドンッ』という重い衝撃と共に、ダガーウルフの首根本に振り下ろした剣が食い込む。
覚悟を決めていた・・・決めたつもりでいたが、やはり現代社会で生きて来た俺はまだ異世界生活2日目の初心者だ。
命を狙い襲い来るモンスターとはいえ動物を扱いの慣れていない『剣』と言う物で切り殺すには、自分の思いや決意とは別に深層心理の中で何処か躊躇が有ったのかも知れない。
ザウルには、どんなモンスターでも人型もしくは獣型で有る限り、一部の例外を除いては首が急所の一つで有ると昨晩教わった。
だが俺の振り下ろした剣はダガーウルフの首根本でも、どちらかと言うと肩に近い位置に命中した。
致命傷には違いないが、止めをさせるには至らなかった。
「くそっ!しくじった!!」
俺は慌てて再び攻撃を行うべくダガーウルフの首根本に食い込んだ剣を抜こうとするが、上手く抜く事が出来ない。
「ギュオォォォ!!!」
すると、ダガーウルフは断末魔にも近い鳴き声を上げ体を仰け反ろうとする。
その反動と俺が剣を抜こうと力を入れたタイミングが見事重なり、運良く剣を抜く事に成功した。
『今しかない!!』
俺は再び剣を握る両手に力を込めると、次はしっかりとダガーウルフの首に目掛けて構えた剣を一気に振り下ろした。
再び『ドンッ』という先程と似たような衝撃と共に、先程とは明らかに違う何かの塊を切り裂いた感触が剣を通して伝わる。
切り裂くというよりは叩き切ると言った感じに近かったが、俺はダガーウルフの首と胴体をなんとか両断にした。
首を切り飛ばされ頭を失ったそれは、力無くその場に倒れ動かなくなった。
正直なところ、僅かに手が震えている。
モンスターを自らの手で倒したのは、この森に初めて来た時にゴブリンを倒したのを含めれば2回目だ。
恐怖による震えなのか、モンスターとは言え生き物の命を奪った事に対しての震えなのか、それとも勝利に対しての震えなのか、自分でも良くは分からない。
腰を降し、少し体制を立て直したい気持ちも有る。
だがモンスターは・・・敵はまだ2匹居る。
俺は手の震えを押えるかのようにグっと手に力を込め剣を一振り、剣先についたダガーウルフの血を払い再び体の前で剣を構えた。
2匹目はマリスが仕留めた。
余りにも素早く無駄の無いその動きは、まるで『風』そのものだった。
若干14歳にして、姉のマリリ同様にプラチナクラスとして羨望の眼差しで見られているのも頷ける。
マリスが構えるその短刀は、先日武具屋ミトンで受け取っていた刃研ぎに出していたという短刀だった。
短刀とはいえ40センチ程長さが有るその刀身は、俺が装備している様な剣よりは細いが決して脆い訳では無く、流れる様に美しい流線型をしており刀身の根本と鍔の所に緑色の魔法石が埋め込まれている。
これにより以前、マリリが詠唱無しにアクア・ウォールという防御障壁のような魔法を発動させたのと同じように、瞬時に魔法を発動出来るらしい。
それにより発動させた風の刃を刀身に纏わせダガーウルフを縦に一刀両断させたのだった。
マリスさん、可愛い顔してやる事がなかなかエグイ。
一気に仲間を2匹やられた事に戸惑いを感じているのか、最後の1匹が俺の前方約15メートルの所で牙を剥き襲いかかるタイミングを計っている様だった。
マリスが短刀を構え身を低くする。
プラチナクラスのマリスなら、何の問題も無くもう1匹も一瞬で倒せるだろう。
『だけど、それでいいのか?』
俺は心の中で自分自身に問いかける。
答えは否だ。
いくらプラチナクラスのマリスなら何の問題も無く倒せる相手とはいえ、36歳のおっさんが14歳の女の子に助けられてばかりで良いハズが無い。
『男、西明寺大地、ここが踏ん張りどころだ!』
俺は自分にそう言い聞かせ、片手で剣を構えもう片方の手でマリスとマリリに『自分がやる』と合図を送った。
マリスは短刀を構えたまま、マリリも路工人達を守る為にアクア・ウォールを展開したまま、ロッドをダガーウルフに向けて構え警戒態勢のままだが頷き了承してくれた。
「良し、来い!」
俺が叫ぶと、それを皮切りにダガーウルフが俺目掛けて一直線に向かってくる。
僅か15メートル程の距離、ダガーウルフの俊敏性なら一瞬の距離だ。
普通に考えればアイアンクラスの普通の人間のおっさんが反応出来る速度では無い。
だが、俺は見切っていた。
こいつ等ダガーウルフは、ほぼ真正面から真っ直ぐ突っ込み、手前で獲物に飛びかかる習性が有る。
最初に俺に襲いかかってきたヤツも、マリスが倒したヤツも全く同じ動きをしていた。
「社会の荒波に揉まれ生きてきたサラリーマンを舐めるな!!」
俺は頭部目掛けて真正面から渾身の力で剣を振り下ろし、ダガーウルフの頭部を切り飛ばした。
若干、締りの無いセリフと共に。
マリスの様に綺麗に縦に真っ二つとまではいかなかったが、頭部から前足の付け根に掛けて見事に切り飛ばし、そのまま慣性に従いダガーウルフの体は俺の後方の地面に落下した。
「やったね!大地!カッコ良かったよ!」
「ありがとう、マリス。」
いつの間にか側に来ていたマリスが拳を付きだし、おれもそれに応え拳と拳を軽く合わせた。
マリリは、今度はより広範囲となる半径200メートルに渡りフィール・リアクションを再び展開させ、モンスターが居ないか安全を確認しアクア・ウォールを解除した。
「皆さん、大丈夫ですか?」
俺とマリスはマリリ達の元へ駆け寄り、全員の無事を確認した。
「おうよ!ワシらはマリリちゃんの魔法で守って貰ってたから大丈夫だ。こん位で驚いてちゃこの職業は務まんねーよ。それにしても兄ちゃん、見た目の割にやるじゃねぇか。」
「あ、ありがとうございます。」
ガハハ!と笑いながらドーザー親方にケツを一発叩かれた。
この腕力の強さ、路工人よりも戦士系の冒険者の方が合っているんじゃ無いだろうかと思う。
見た目の割には余計だが、褒められた事、なにより2人の手を借りてだがなんとかダガーウルフを倒しドーザー親方達を守る事が出来た事が嬉しく、ここ数年間の中で一番位の充実感を感じた。
調度、時間も頃合い、このまま俺達一行は馬車の側で昼食をとる事にした。
本日2話目の投稿となります。
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