第25話 襲撃
いよいよアラフォーおっさん、大地の戦いが始まります。
『うーん、暇だ・・・』
なんて事を考えながらも、あくびを噛み殺す。
相変わらず路工人たちはサボる事も無くせっせと作業を熟しており、その横で呑気にあくびをする様な失礼な事は出来ない。
腕時計を確認すると、時刻は11時を過ぎていた。
今の所モンスターは1匹も現れず、当然マリリの展開したフィール・リアクションにも何の反応も無いままだった。
そもそも初っ端からそんなに頻繁にモンスターが現れたんじゃそれこそ仕事にならないし、平和が何より一番だな。
若ければなんて事は無いかも知れないが、この歳でずっと立ちっぱなしに加えて緊迫しっぱなしだったので中々足腰がだるくなってきていた。
マリスの方を見れば、少し疲れたのか軽くストレッチをして体を解していた。
俺も少しだけ伸びをし軽く屈伸や肩を回したり等してストレッチをしながら、なんとなくマリリの方を見た時だった。
途端、マリリの傍らに立てられたロッドの先端の魔法石が、3回連続でフラッシュでも焚いたかのように激しく光った。
「モンスター襲来!!数は3体!大地さんの正面!!速い!気を付けて!」
マリリのその様子から尋常じゃないと感じた俺は、腰に携えた剣の柄に手を掛け抜こうとしたその時だった。
俺の前方、距離は大体20メートル程の所で黒い影の様な物が見えたかと思うと次の瞬間、牙を剥き出し大きく口を開いたオオカミにナイフの様に鋭利な角を生やしたようなモンスター、ダガーウルフが飛びかかって来ていた。
明らかに俺の油断だった。
マリリの張ったフィール・リアクションが有るから敵が現れれば事前に分かるだろうと、タカをくくっていたツケが出た。
剣を抜いた勢いのまま切り上げても間に合わない!!!と思ったその時!
『ドシュッッッッッツ!!』という鈍い音と共に、眼前に迫っていたダガーウルフが左に弾き飛ばされた。
「大地!大丈夫!?」
「すまない!油断した!大丈夫だ!皆さんは、マリリの方へ避難を!」
ダガーウルフの襲来に逸早く感づいたマリスが放った矢が、間一髪の所でダガーウルフを弾き飛ばしたのだった。
もしマリスの放った矢が通常の矢なら命中するよりも先に、俺がダガーウルフに一撃を喰らっていただろう。
それが分かっていたマリスは、自身の得意とする風系統の魔法を矢に絡ませ加速された矢を放ったのだった。
痛みによる嘆きと怒りの混ざったような唸り声をあげて立ち上がろうとするダガーウルフだが、マリスの放った矢が前足の付け根に深々と刺さっており上手く立ち上がれないでいた。
もしあの時の、この世界に来たばかりの時の俺だったらこの場で攻撃する事に躊躇しているか、場合によっては逃げる道を選んでいたかも知れない。
だが、今は違う。
俺は冒険者として依頼を受けてここにいる。
そして俺の背には・・・俺達3人の背には、路工人達の命が掛っている。
俺は両手で剣を握りしめると、未だ立ち上がれないでいるダガーウルフの側面に駆け寄り、昨晩ザウルに教わった型に忠実に素早く剣を振り下ろした。