第24話 さぁ、異世界での初仕事、本番開始と行こうか!
あれからも特にモンスターに出くわす事も無く、俺達一行は目的地である森の入口に到着した。
到着するや否や、路工人達は慣れた感じでテキパキと作業に取り掛かる。
馬を荷馬車から外しロープで予め設置されている杭と手綱をロープで繋ぎ、幌車とトレーラーに輪留めを噛ます。
ドーザー親方が予め知らされている修理範囲の確認と、そこから追加修理が必要な個所が無いかをセリーと共に確認し台帳に記入、その間に部下たちが道工具と柵材の荷卸しと段取りを行っていた。
親方の指示もさることながら、全員が今自分が何をすべきかというのをキッチリと理解し行動している。
「こんな部下ばかりなら、仕事も効率よく捗るよなぁ。」
ついつい日本での仕事の事を思い出し呟いた。
「大地さん、どうかしましたか?」
「大地、なんか寂しそうな目してるよー?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと日本での仕事を思い出しちゃって。さて、俺達も仕事しなきゃな。」
「はい!」
「お待たせしました、今回の施工範囲のご説明を致します。まずここ・・・」
セリーが台帳を片手に今回の施工範囲、つまりは俺達が護衛をするに当たっての必要となる範囲の説明を始めた。
森の奥の山道はシンプルに一定区間ごとに杭が打たれているだけなので、これらが破損したりする事はあまりない。
森の入口や山道の始まり部分から30メートル位入った所までは誰が見ても分かりやすい様に、高さ1メートル程の村長邸に有ったような柵が建てられて有り、ここが入口だという事を示す為の案内看板も設置されている。
また非常に大雑把ではあるが、山道ルートの簡略地図が描かれた案内表示看板も設置されている辺り、冒険者や旅人にとってなかなか親切設計と言えるだろう。
逆に言うと、一定間隔の杭が無ければそこは把握された山道では無い、つまりは獣道か迷子コースという事になる。
こういった柵や案内表示看板が稀にモンスターや一般の獣なんかに壊されたり、劣化し崩れたりする事があるのだ。
今回はこの柵の大方半分と案内表示が壊されていた。
セリーとドーザーの見解では、モンスターに壊されたのだろうという事だった。
「そういえば初めてマリリとマリスに出会い助けて貰い森を抜けここに出てきた時に、2人がこの壊れた柵をみてギルドがどうとか、話していたのはこの事だったんだね。」
「そだよー。10位日前にもギルドの仕事でお姉ちゃんとこの森に来たけど、その時は大丈夫だったから最近だね。」
「なるほど。よし、取り敢えず状況確認はこれで良いだろう。早速、打ち合わせ通り警戒を始めようか!」
今回マリリはいつものロッドに加えてもう1本追加で持って来ている。
青い拳大の魔法石が先端に取付けられ、魔法石を囲う様に僅かに金の装飾が施されたロッドだ。
俺はこれをマリリから受け取ると、山道の入口部分の路工人たちの仕事の邪魔にならない位置の地面を自分の剣先で軽く解し、受け取ったロッドを突き立てた。
そしてマリリがもう1本の自分のロッドを、地面に突き立てたロッドの魔法石に軽く当て魔法の詠唱を始める。
すると突き立てたロッドの魔法石の周りが淡い水色の光に包まれる。
「フィール・リアクション!」
するとその水色の光が細い一線となり上空へ真っ直ぐに立ち登ると、そこを中心とし全方位に薄い透明の水色の傘が広がりたちまち約50メートル四方をドーム状に包んだ。
「おお、すげえな。これなら俺達も安心して仕事が出来らあ!」
路工人の人たちが光のドームを見て感嘆の声を上げる。
確かに凄い。
打ち合わせの時にマリスとセリーの教えて貰ったのだが、このフィール・リアクションと言う魔法自体は、ある程度の魔法力を持った者なら特別習得が難しいと言う訳では無いそうだ。
だがマリリの場合、一般的な魔法士のそれと違うのはその有効範囲である。
ギルドランクがゴールドクラスの魔法士でもせいぜい半径20メートルのフィール・リアクションが出来れば御の字らしい。
だが今回マリリが行ったのは半径50メートルにも及び、これでもある程度その範囲を制限したのだと言う。
更には柵の修復工事が終わるまでの間、ずっとこれを維持し続けるのだと言うのだから驚きだ。
そしてもう一つ、決定的に違う点が有る。
マリリは2本のロッドを使い、地面に突き刺したロッドを中心にフィール・リアクションを展開させたと言う点だ。
本来フィール・リアクションの展開中は常に術者が魔法力を使い続けねば成らなく、当然ながらロッド・・・魔法の展開に必要な杖を手に持っている必要が有る。
つまり、術者を中心とするのが一般的なものだが、マリリは地面に突き立てたロッドの魔法石に自身の魔法力を注ぎ込み、それを基軸としてフィール・リアクションを展開させている。
言わば魔法力の充電池の様な物だ。
これはプラチナランクひいてはそれ以上の実力者、魔法のセンスを持ち合わせていないと出来ない芸当らしい。
「あの、みなさん過信はしないで下さいね。ご存知と思いますが、フィール・リアクションはあくまでも領域への侵入者を探知するだけの魔法なので、物理攻撃や魔法に対しての防御力がある訳ではありませんので・・。」
「その変わり領域に侵入してきたモンスターが居たら、速攻で僕たちが狩るから安心していいよ!」
マリリの説明にマリスが補足を咥える。
とはいえ、半径50メートル以内に敵が居るか居ないかが分かるだけでも、かなりの安心感が有る。
今回の作業範囲は、森の入口部分から約15メートル奥へ進んだ辺りまでとなる。
マリリがロッドの傍らで森に背を向け平原の方を監視、マリスが約25メートル進んだ辺り、そして俺がその中間位置となる約10メートル地点で配置に着いた。
今回ギルド職員として、立会い目的で同行して来たセリーはマリリの近くに居る。
完全に開けた場所なら路工人達を背で囲むように配置を行う所だが、木々の多い茂る山道で僅か3名ならば現状ではこの配置がベストでは無いかと思われる。
時折吹く風が木々の葉を揺らし、緩やかな風が頬を撫でる。
この森に転移させられるなり、訳が分からないままゴブリンに追い回され殺されそうになった時の事を思い出す。
鞘に添えた左手に思わず力が入る。
あの時、勝てたのは奇跡だった。
それも偶然に偶然が重なっての奇跡だ。
奇跡なんてものはそう何回も容易く起きる物じゃ無い。
だが、今回は違う。
プラチナクラスのマリリとマリスが居る。
そして、俺の手元には武器がある。
昨晩、無理を承知でザウルに頼み込み3時間程だが稽古を付けて貰った。
あの時とは違う。
さぁ、異世界での初仕事、本番開始と行こうか!
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