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第3章 65話 地下牢

 「待ってください。」

 

 ミールの声に扉に掛けた手を止め振り返る。

 

 「すみません。 皆さん少しだけこのまま物音を立てずにじっとする様お願い致します。」

 

 そういうとミールが何かに集中するようにそっと目を閉じる。

 フィーユもその横で同じ様に目を閉じ、2人とも猫科族特有のネコミミが僅かに動いている。

 

 30秒ほどだろうか、ミールに従い静かに待っているとミールとフィーユが目を開け2人向かい頷き合う。

 

 「この扉の向こう、人数までは分かりませんが僅かながら人の呼吸音と、僅かな物音が聞こえます。

  ただそれが、囚われている人なのかどうかまでは分かりません。」

 

 ミールの後にフィーユが続ける。

 

 「あと、それとは明らかに異質な物・・・何かは分かりかねますが獣の様な唸り声が微かに聞き取れます。」

 

 流石は猫科族、俺達には全く聞き取れないこの分厚い鉄の扉の向こうの音を聞き取れるらしい。

 ミールとフィーユの言葉にキヨミがマリリにアイコンタクトを行うと、マリリがアクアフィールで扉の向こうの様子を伺う。

 

 「ミールさんとフィーユさんの言う通り、数人の反応があります。 人数は・・恐らくですが20人程かと・・。

  ただその手前、この扉の直ぐ向こうにモンスターが・・・これも恐らくですが私達が森で戦ったアンデッドウルフに似た反応を2つ感じます。」

  

 「なるほど・・仮にその20人を囚われているこの村の本当の住人だとすると、アンデッドウルフは侵入者に対する門番と言ったところか。」

 

 「大地ちゃんに同意だわ・・としたらここは私が先頭に立つわ。 大地ちゃんは悪いけど、私の合図で扉を一気に開けてくれる?」

 

 「はい、分かりました。 マリス悪いけど身体強化の魔法を頼む。 この扉なかなか重そうだ。」

 

 「うん、分かった。」

 

 マリスに身体強化の魔法を施して貰い、扉の取っ手を握り全力で押す様に肩をドアに当てる。

 

 「大地ちゃん準備は良い?」

 

 「はい! いつでも!」

 

 キヨミの合図で一気に重い鉄のドアを押し開け、俺と入れ替わる様にキヨミが前へ出る。。

 

 次の瞬間、唸り声を上げながらアンデッドウルフ2体がキヨミに飛びかかる。

 俺は咄嗟に漆黒のグレイブを構えようとしたが、それを分かっているかのようにキヨミが左手で俺を制すると同時に、右手で目の前の宙をさっと撫でる。

 

 「アクアウォール・・」

 

 キヨミが一言呟くと、飛びかかってきた2体のアンデッドウルフが、青く光る壁に激突し地面にずり落ちる。

 直ぐに立ち上がり再び飛びかかろうとするもアクアウォールに阻まれ、それ以上は俺たちに近づく事が出来ない状態だ。

 

 「どうやら門番はこの2体だけの様だし、このまま片付けちゃいましょうか。 アクアウォール・グラヴィトン。」


 アクアウォールの派生魔法だろうか?

 普段マリリが使うアクアウォールは、青く光るドーム状のバリアーの様な物が術者を中心に展開されるものだ。

 だがキヨミが行使したアクアウォールは長方形の平面の壁といった感じで、1枚の巨大な盾の様にも見える。

 アクアウォールはマリリの十八番とも言える魔法だが、これは今まで一度も見た事が無い。


 キヨミが指先で弾くと、盾の様なアクアウォールがアンデッドウルフを包み込む様にドーム状へと変化し徐々に小さくなり、アンデッドウルフを抑え込んでいく。

 キヨミが前にのばした右手の平を握るとアクアウォールが一気に小さくなり、アンデッドウルフを地面に押しつける様に潰した。


 凄い・・・。

 涼しい顔をしたまま指先だけで、簡単にアンデッドウルフを一瞬の内に倒してしまったキヨミの強さに呆気に取られてしまった。

 キヨミの圧倒的強さに、次元の違いをハッキリと感じてしまう。


 「それにしてもアクアウォールって防御だけじゃなくて、攻撃魔法としても使えるんだな。

  マリリもさっきの、出来るの?」


 なんとなくマリリに質問をしてみたら、マリリが思いっきり首を横に振る。


 「あ、あんなの出来ませんよ。 お母さんの魔法のセンスというは、次元が違うにも程があります。

  さっきのはアクアウォールの発展系というか、他の魔法との組み合わせというか、お母さんが考えだした独自の魔法みたいなものですよ。

  独自の魔法を作り出すなんて物にも寄りますが、そうそう簡単には出来ないですよ。」


 マリスも同意見とらしく、うんうんと頷いている。


 「魔法はね、それなりに魔法力や適正もあるけど要はコツなのよ。 さっきの位なら、コツさえ掴めば誰だって出来るわよ。

  マリリちゃんもマリスちゃんも魔法に関しては人並み外れた力を持っているのだから、そう謙遜しなくても練習すれば簡単に出来るわよ。

  勿論それなりに鍛練と努力は必要になるけどね。 さあ、進むわよ。」


 キヨミに従い全員が扉の中に入ると、鉄の扉から更に5メートルほど奥に行った所に広めの牢屋が設置されていた。

 中には灯りが無く視界が悪いため、改めてマリリが光の魔法で空間全体を明るく照らすと牢屋の中の様子に俺たちは驚いた。

 

 俺たちの読み通りに、捕らえられたこの村の住民達がそこに居た。

 捕らわれた住民の数は18名。 皆が足枷を付けられ、各々に鎖で鉄球が繋がれていた。


 俺たちの呼び掛けに対し、僅かだがゆっくりと全員が顔を上げるのを確認し少し胸を撫で下ろす。

 鉄格子の扉は幸いな事に魔術等も掛けられていなかったので、キヨミが魔法で破壊し中に入る。

 ミールとフィーユは念の為、鉄扉の辺りで警戒を行う。


 広めとは言え18名もの人数が詰め込まれている為、スペースにさほどの余裕は無い。

 それでも俺たち4人が中に入り、回復魔法を全員に施す位の行動はとれる。

 

 キヨミとマリリが手分けし回復魔法を施し、俺とマリスが魔法強化を施した剣で足枷の鎖を破壊していく。

 足に掛けられた錠部分は、取り敢えずここを脱出してからだ。

 ちなみにもしクロタウロスを住民達が見たら無用なパニックを引き起こし兼ねないだろうと考え、再びゴム帷子の状態となり俺にくっついている。




 なんとか全員を地下牢から脱出させた俺達は、足枷の錠を破壊し取り外す。

 村人達は命に別状は無いものの、食事をまともに与えられていないのが明らかな状態だったため、奴らが塒にしていた所からパンや果物などの食料を集め配ると、少しだが安堵の色が見られた。

 

 皆が食事を終え少し休めた後に、この村で何が起きて居たのかを聞いた。

 

 

 

 まず、この村を占拠していたヤツらの正体は、『ネロ』と呼ばれる魔族崇拝を行う邪教徒集団の一部らしく、俺達に自ら村長だと名乗ったドータルと言う男の本当の名前は『ペッパード』と言い、この村を占拠していた族共の頭目らしい。

 

 このネロと呼ばれる邪教徒だが、この国のみならず他国にも存在しており、その教団員の数は計り知れないと言われている。

 今回の様にあからさまにソレと分かる集団も居れば、王族や貴族、軍人や一般人の中にも紛れている、所謂『隠れ邪教徒』と呼ばれる者達も居るらしい。

 

 まぁどこの世界にも、必ずこういうやつらが一定数は居ると言う事だ。

 とは言え、異世界故に本物の魔族が存在しているワケだから、そんなもの崇拝されたらたまったものじゃない。

 

 こういった邪教徒集団はその集団により形態も様々で、堂々と本拠地を構える者達も居れば、今回の奴らの様に小さな村などを襲い転々と移住地を移す奴らもいる。

 今回この村が被害を受けたのは、王都から離れすぎず近すぎず、それでいて人々から忘れ去られた村といった点が、奴らにとって好都合だったそうだ。

 

 昼日中の王都に突然現れたアンデッドやアンデッドウルフも、もちろん奴らの仕業に寄るものだった。

 アンデッドの素体となる為の人間の確保がやり易いにも関わらず、人々の目が届きにくい場所というワケだ。

 

 とはいえ、人間やモンスターをアンデッドに変えるなどといった芸当は、通常では不可能な事にも関わらず奴らはその実験に成功していた。

 そしてランゴートと言う魔族にも繋がりが有った。

 どう考えてもこの事件、今回で済む話では無いのは確実。

 何か裏が有る・・程度のレベルでは無さそうだ。

 

 

 

 今回倒した奴らの中で辛うじて生きていた奴が数名居たので、その者達については既に捕縛してある。

 キヨミが王都へはリモートメッセージカードで報告済みなので、捕縛した奴らを王都へ連行した後に尋問と成る。

 

 王都からの迎えが来るまでの間、俺達は暫くこの村で待つ事となった。

 

いつもお読み頂きまして、ありがとうございます。

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