第14話 酔いどれマリリさん
今回の話で、少し物語の真相に触れます。
そして、マリリが・・・!
「マリリ達の家でナギナタは確認したか?」
「はい、確認しました。刻まれていた文字は間違いなく私のばーちゃ・・祖母である『清鈴』の名でした。」
色々と思い当たる節を照らし合わせて行く事で俺とマリリ達のばーちゃん、清鈴が同一人物であり、その英雄の孫が再び日本と言う異界の地からこの村へやってきたという事に、村長とザウルは驚きを隠せないでいた。
ただ、魔法やモンスターが当たり前のこの世界では『異世界』と言うもの自体にはそれなりに理解があるようで、そこら辺の柔軟さにかけては現代日本よりも進んでいると言えよう。
そもそもこの世界に存在するモンスター達は『魔世界』と呼ばれている所から、特異点と呼ばれる一種の転移設備の様な物を利用して、この世界に来ているらしい事を教えて貰った。
一説によれば地底深くに存在するとも言われているが、その真偽は定かでは無いらしい。
「ふむ、キヨスズからは日本に娘が居るというのは聞いていたが、まさか孫が現れるとはな・・・」
「英雄キヨスズが現れたのは、村が窮地に追いやられていたその時でした。再びニホンと言う地から、ましてや英雄の孫に当たる者が現れたという事は、何かが起ころうとする前触れ・・・の様な物でしょうか?」
神妙な面持ちでザウルが村長のスキレットに問いかける。
「その可能性はゼロと言い切れんかも知れんな。今の所は特に気になる様な事象は起きてはいないがな・・・ん、おお、大地よすまぬな、別に主がどうこうと言う訳では無いのだ。むしろ主はこの村を救った英雄の孫であり、マリリ・マリスとの親縁関係にも当たるゆえ、この村は大地よ主を歓迎するぞ!」
言いながら村長に飲めと言わんばかりにコップになみなみと注がれた葡萄酒を半分程飲み、村長の話を始めてからの疑問を一つ投げかけてみた。
「おぉ、その通り、勿論キヨスズとは直接会っているぞ。と言うよりも何もかのモンスター共の襲撃を受けた戦いの時は、ワシも勿論この村を守るべく戦ておったからな。無論、それ以外にもキヨスズの戦いは何度も目にして時には背中を預け合った仲間だが、その強さと洞察力、そしてどんな状況に置いても冷静さを欠かないその姿は武人の憧れの存在じゃった。」
「!?!?・・・え?」
俺は耳を疑った。
村長の話が嘘だとは到底思えないが、だとすればどう考えても計算が合わない。
どう見ても50歳代後半程の年齢にしか見えないが、だとしたら村長の年齢とばーちゃんがこの世界に転移したと思われる年代と、数十年単位で合わない。
ましてや、ばーちゃんは既に亡くなっている。
確かにばーちゃんは110歳というとんでも長生きであり、亡くなる前の年位まではほぼ毎日早朝から薙刀の訓練を行っていた程だ。
村には数人ばーちゃんの薙刀の門下生が居るのだが、模擬試合を行っても誰一人として100歳を超えるばーちゃんには勝てなかったらしい。
足腰の強さとかいう程度のレベルでは無く、動きそのものが明らかに年齢と釣り合っていない、というよりも普通の人間の常識を遥かに超えた身体能力を有しており、尊敬と同時に恐れられていた程だ。
病気らしい病気もせず村の医者も首を傾げていたのだが、今に思えばこの異世界に来た事で身体に何かしらの変化が生じたのかも知れない。
いや、きっと何かが有ったのだろう。
そんな超人染みたばーちゃんだが、最後は縁側に座り障子を背もたれにし天を仰ぐ様に、まるで誰かと話しでもしているかの様に静かに穏やかに亡くなったと聞いた。
そのばーちゃんの年齢からしても合わないのだ。
「村長はドワーフ族とエルフ族のハーフだから、普通の人間より遥かに寿命が長いのですよ。ぬふふー。」
考え込んでいるのを見て気づいたのか、葡萄酒で顔を赤らめたマリリが俺の顔を覗き込みながら言った。
どうも目がとろんとしている上になんか語尾が可笑しい所からすると、中々酔っているみたいだがとりあえずそこはスルーしとくか。
「あ、成るほど。やっぱりエルフって寿命が長いんだね。ってちょっとまてマリリさん?お酒は20歳になってからですよ?」
「そういや、大地の居た世界にもエルフやドワーフとかって居るの?理解良いし、知ってるみたいな感じだからさ。そーれーとーこの世界ではー、16歳からお酒は飲ーめーますよー。」
それまで只管に食事にがっついていたマリスが、ようやく腹が満たされたのか口を開いた。
「うむ、それは僕も気になっていた。」
「あ、はーい、わーたーしーもー。」
ザウルに続き、完全に出来上がっている状態のマリリも手を上げて続けた。
どうやらザウルもマリスも酔っぱらったマリリは完全にスルーの様だ。
「ふむ、確かに。キヨスズはエルフやドワーフは勿論、その他の種族やモンスター等についても日本にはいないといっておったな。」
「あーそれは何といいますか、祖母の言う通り日本は勿論、他の国にも一応いません。そうですね・・・書籍や他の国なんかで昔から語り継がれている物語等で空想上の生命体として登場するので、そういうのである程度って感じですかね。」
「なるほどのぉ。 だからキヨスズは然程、驚いても居なかったのか。」
納得したように村長が腕を組みながらうなずいた。
「あ、いえ、どちらかと言うと祖母の時代は余りそういった書籍とか、他の国の話とかはそうそう聞かなかったハズです。恐らく祖母の事なので、大概の事では動じないだけだと・・・。」
「一応いないというのは、過去に存在したと言う意味か?」
「過去というかたまに目撃例なんかが有ったりはするのですが、どれも信憑性に欠けるものばかりで、一般的には居ないものとされています。後は神話なんかにも登場したりするので、ある意味親しみが有るのかもしれませんね。」
「ひゃぁ、モンスターひょかももいないの?」
またしてもマリスは口いっぱいに頬張っている。
いったいこの小さな体の何処にそれだけのものが入るのか全く不思議だ。
「まぁちょっと聞こえの悪い言い方になっちゃうけど、俺の居た世界は人間が支配し・・・」
なるべく分かりやすい様に且つ大雑把にだが村長以下みんなに日本の事、現代社会の事などを説明した。
俺自身がまだこの世界に来たばかりで分からない事が多く例えに悩みはしたが、みんな真剣に聞き入り、所々で鋭い質問なんかもあった。
特にインフラが行き届いている事や一部の地域を除いて戦争が無い・・・と言えば語弊があるが、にはかなり驚いていた様だ。
気がつけば夜も23時を過ぎており、マリリとマリスが眠そうにあくびを噛みしめていた。
どうやら1日24時間という時間の概念はこちらの世界も同じらしく、昼には太陽が昇り、夜には月が天に輝くらしい。
確かにここの窓からちょうど夜空に月が見えるのだが、少し赤みを帯びている以外は、大きさなんかも地球から見る月と大差無いように思える。
互いに聞きたい事はまだ色々と有ったが、マリリ達も疲れてそうなので今日はこれでお開きと言う事になった。
いつの間にか子供たちも寝静まっているので、お礼を言ってから静かに村長宅を後にした。
街の中央広場までザウルが送ってくれ、俺達3人はショコラ邸に向かうべく岐路に着いた。
いつも読んで頂きありがとうございます。
毎日1話以上の投稿をノルマに、これからもがんばってまいります。