第12話 大地さんは優しい人なんですね。
今回投稿の12話、13話はささっと読みやすい様に1600文字前後でまとめてみました。
2話まとめての連続投稿になります。
「村長、ザウルです! マリリ、マリスと共に例の人物をつれ、馳せ参じ参りました!」
平屋ではあるが敷地面積500坪以上はありそうな邸宅の門の前で、声を張り上げた。
門といっても木で出来た高さ1メートル程の可愛らしい物で、DIYが好きな日曜日のパパが作れそうないかにも手作りといった感じの見た目だ。
まぁこのファンタジーな世界では、恐らくほぼ全てが手作りではあるだろうが。
その門の両脇には敷地をぐるりと囲むように丁寧に手入れされた垣根が設けられているが、こちらも可愛らしい木の門と同じ程度の高さで、敷地内が見通せるようになっている。
敷地の中にはちょっとした畑と、木で出来たブランコやジャングルジム、滑り台に砂場といった小さな公園のように遊具が有りざっと20人程の子供たちが走り回っていた。
「あっ!ザウルだー! マリリとマリスもいるー!」
1人の子供がそう叫ぶと後につれわらわらと門に集まり皆で門を開け、たちまち子供たちに囲まれてしまった。
遊んで!遊んで!と言う子供たちに引っ張られながら敷地に入る3人の後に続いて中に入った。
「ねぇ、おじさん誰?」
その中の1人の女の子、年齢は8歳位だろうかが、栗色の長い髪を2つにまとめた所謂ツインテールの女の子が俺の顔を見上げながら訪ねてきた。
途端、他の子ども達も次々にと、誰?旅の人?と質問攻めだ。
「あぁ、お兄さんの名は西明寺大地。旅人みたいなもんかな。それと、おじさんじゃなくてお兄さんな。」
お決まりのツッコミを交えつつ簡単に答えた所で、畑の方からザウルと同じ位にガタイの大きい男性が手を挙げながらこちらにゆっくりと歩いてくるのが見えた。
「よう、お前たち来たか!悪いな急がせて。ふむ、貴殿が大地か・・・何処となく似ておるの。おっと申し遅れた、ワシがこの村の村長を務めておる、スキレット・イナフだ。」
「初めまして、西明寺大地です。この度は村に入る事を許可して頂きありがとうございます。」
村長と握手を交わす。
村長という位だから年配のおじいさんを想像していただけに、正直驚いた。
見た目的には50歳代と言った所か、警備隊長のザウルに負けず劣らずの背丈と体格、穏やかな人相ではあるがその雰囲気は屈強を乗り越えた戦士という印象にも感じた。
「早速色々聞きたいことは有るが、時間も頃合い取りあえず飯にするか!さあ上がった上がった。お前たちも、夕飯にするから手を洗って準備だぞー」
「「はーい!」」
元気の良い返事と共に子供たちは手洗い場に向かって走り出す。
魔法やモンスターが当たり前のこの世界だ、現代の日本では考えられない様な子沢山な家庭が有っても普通なのかもしれない、なんて思いつつマリリになんとなく聞いてみた。
「ひょっとして全員、村長の家のお子さん・・・とか?」
「あの子達はみんな身寄りの無い子達なんです。その境遇は様々ですが、村長はそういった子達を引き取って我が子同前の様に育ててるんです。村長からすれば血の繋がりとかそういうのよりも深い愛情を持ってあの子達を育てているので、そういった意味では村長の本当のお子さん達ですね。」
「んんっ!?大地どうしたの?」
マリスが俺の顔を見てビックリし立ち止まった。
「え?あ、いや、なんかマリリの話聞いたら心にじんと来ちゃって。そうかぁ、みんな小さくして辛い事が有ったんだろうに、村長って良い人だなぁ。みんな村長に出会えて良かったなぁ。」
どうも最近涙腺が弱く、こういった話を聞くと途端に泣けてしまう。
「あらあら、大地さんは優しい人なんですね。」
そういいながらマリリがそっとハンカチで涙を拭いてくれた。
マリリの優しい心遣いが乾きった36歳の心に浸み渡り、余計に涙が止まらなくなり鼻水を啜る。
「ふっ大地よ、おまえは中々面白いヤツだな。さぁ、飯だ行くぞ!」
ザウルは手の平で俺の肩をポンッと2回叩き村長宅の玄関へ入って行き、俺達も後に続いた。