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第10話 刻まれし名前

2人に案内され通されたその部屋は、部屋の主が姿を消してから何十年も使っていないと言う割には割には非常に掃除が行き届いていた。

 ばーちゃんが使っていた部屋だという事だったので、ひょっとしたらと和式な畳部屋なんかを少し想像もしたが流石にそうでは無かった。


 だが部屋の奥に1段高く上げられた場所、所謂『床の間』らしきスペースが設けられ、そこに2本の薙刀が台座に飾られていた。

 上段に飾られたそれは、全長約2メートル近い長さに刃先は鞘に納められてはいるが40センチ程、柄の部分は鮮やかな朱色に所々に金の装飾が施してある。

 それとは対照的に下段の方は長さこそほぼ同じだが、柄の部分は漆黒に朱色の装飾と刃の付け根近くに緑色のクリスタルが埋め込まれたおり、刃先は鞘ではなく布を鞘代わりに巻き付けて有ったのだが、その形状から薙刀というには少し大きい様に思える。


 「上段のがおばあちゃんが元々持っていたナギナタです。 そしてもう1本は、おじいちゃんがおばあちゃんの為に作ったグレイブです。」


 グレイブと言われて今一つピンと来なかったのだが、どうやら薙刀よりも刃先の形状が大きく、物によっては柄の部分より刃の方が長い物も有るらしい。

 ファンタジー系のゲームなんかで出て来るような、西洋風の長槍と言った所か。

 2本共とても年数がたっているとは思えない程の艶やかな色合いをしていた。

 

 「おねえちゃん、折角だし刻まれてる文字みたいなのの事、聞いてたらどうかな?」


 「そうね。 大地さん此処なんですが、これは何て書いて有るか分かりますか?」


 マリリに言われたその刻まれた文字を確認する為、床の前の前に膝をついた。

 一見荒削りに掘られた様にも思えるその文字は、力強くはっきりと漢字で刻まれていた。

 俺がしばし絶句していると、マリスが急かす様に訪ねて来る。


 「ねぇねぇ大地、なんて書いてんの?」


 「ん、あぁごめん。 西明寺・・・日本語で“西明寺”と刻まれている。紛れもない漢字も合っている。」


 「「カンジ??」」


 どうやら言葉は通じても文字に関しての文化は全く違う様で、漢字とひらがなの違いとかは当然の如く分からない様だ。

 幸い紙と鉛筆はこの世界にも有るらしく幾つか例を書いてある程度説明をしてみたが、漢字とひらがなの意味合いはある程度分かってくれた様だったので、とりあえずの説明をするにはそれでも十分だろう。


 「ではでは大地さん、こちらに刻まれている文字も漢字ですか?」


 マリリはもう1本の漆黒のグレイブをゆっくりと手に取り、俺の前に差し出した。

 飾っている時には見えていなかった、柄の反対側の部分に刻まれたその文字を目にした途端、俺の推測は確信へと変わった。

 

 「清鈴・・・清鈴と書かれている。漢字もさっき2人に説明した通り同じだ。」


 流石に2人もこれには口に手を当て驚いていた。

 恐らく・・・いや間違い無く俺の祖母、西明寺清鈴とマリリ達の祖母、サイミョウジ・キヨスズは、同一人物だ。

 名前だけじゃない、もう1つ俺が子供の頃に昔母親から聞いた話と辻褄が合う部分が有る。


 「なぁ、さっきの話だが・・・」


 と言いかけた時だった、ドアを叩く音とマリリ達を呼ぶ声が表より聞こえた。

 取りあえず話はさておき、俺たち3人は玄関へ向かいドアを開けるとそこに立っていたのは、村に着いた時に俺たちを出迎えた警備隊長のザウル・サラだった。


 村にの入口で初めて会った時の険しい表情とは違い、今度は幾分穏やかな雰囲気を感じた。


 「急ですまんな、村長が大地を早く連れて来いと煩くてな。勿論マリリ、マリスお前たちもだが都合は大丈夫か?」


 「はい、大丈夫ですよ。」


 「では村の中央広場で待つから、支度が出来たら来てくれ。それと大地、お前にはこれだ。」


 風呂敷の様な布に包まれた何かをザウルから受け取ると、ザウルは手を振り去って行った。

 マリリとマリスは手早くローテーブルの上の片づけを済ませると、用意が有ると言って各々の部屋へ行った。

 リビングに一人残された俺はザウルから受けとった風呂敷を解き中身を確認すると、綺麗に折りたたまれたカーキ色布が包まれていた。

 手に取り広げたそれはどうやら膝程までの長さの有るマントの様で、生地もそこそこ厚手のしっかりとした作りの物だった。


 「なるほど。このマントを着用して来いって事か。そこまで目立つ服装とも思えないが、マントを羽織れば無難な旅人ルックではあるな。」


 「おまたせしました、大地さん。」


 「おまたせ大地、何1人でぶつくさ言ってんの?」


 「おわっ!?あーいや、他愛のない独り言だから気にしなくて良いよ。」


 マントを装着していると、いつの間にか2人が部屋から戻ってきていた。


 「ザウルさんが渡していったのはそれだったんですね。お似合いですよ。」

 

 「大地の割には似合ってるね。」


 やはりこの美少女2人に褒められると、思わず照れてしまう。

 若干マリスの言い回しに引っかかるものは有るが、まぁ照れ隠しの一種かもしれないという事にしておこう。


 「ではザウルさんを余り待たせてもいけないので、そろそろ向かいましょうか。」


 俺たち3人は、ザウルの待つ街の中央広場に向かうべくドアを開けた。


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