第1話 おっさん降臨!いきなり絶体絶命!?
気がつけばいつの間にか妻子あるアラフォーで、住宅ローンに追われる中間管理職。
そんな自分の心のどこかで燻っていた思いを、異世界なんてものが実在したらなんて想像を捨てきれず、主人公に成りたくて物語に綴ってみました。
少しは体力と気持ちの若さに自信が有るおっさんが、自分が転移させられた意味を探りながら、異世界を相手にどこまで奮闘出来るのか!?
同世代の方も、おっさん予備軍も、フレッシュなお兄さんも楽しんで頂ければ幸いです。
「やっべぇ、なんなんだよこれ・・・勘弁しろよ、くそっ!っていうか、この歳で全力疾走とか・・・」
走れど走れど木と草と岩の繰り返しの深い森の中、方向も分からず只ひたすら全力で逃げていた。
赤褐色の表皮に豚と鬼を混ぜて般若のような形相を常に浮かべたモンスター・・・ゲームなんかでよくあるゴブリンと言うヤツか。
後方25メートルほどの距離に両手に石頭ハンマーの様な物を握りしめた個体が1匹、俺を狩らんとすべく追いかけて来ているのだ。
「グォォォォ!」
時折、咆哮のような叫び声を上げながらドスンドスンという効果音を響かせる様に追いかけてくるのだが、ゴブリンゆえ足の短さから何とか追いつかれずに済んでいる。
服装が作業服なのは動き易くていいのだが、足元は脛までの長さが有るマジックテープ式の安全ブーツゆえ丈夫さと防御力に長けているとはいえ、長時間全力疾走するには少し向いていない。
油断した。
追いかけてくる赤褐色ゴブリンとの距離を確認すべく、走りながら後ろを向いたのが間違いだった。
地面から張り出した木の根に右足首を引っ掛けてしまったのだ。
「うぉぉ、ってぇぇ」
盛大にすっ転んだ俺は、咄嗟に付いた左手首を思いっきりひねってしまった。
何とか折れてはいないものの起き上がる為に地面に付いただけで激痛が走り、引っ掛けた右足首まで挫いてしまったようだ。
俺は痛みを押さえ込み何とか立ち上がると再び赤褐色ゴブリンから逃げるべく走り出すが、手だけならまだしも右足首まで挫いてしまっては、先程までのように思うように走れない。
しかも道とは呼べないこの悪路だ、一気に赤褐色ゴブリンとの距離が縮まりその焦りから足元の拳大程の大きさの石を見落とし、転びはしなかったものの挫いた方の足で踏んだ拍子にバランスを崩した。
咄嗟に左足で踏みとどまった次の瞬間『ドンッ!』という衝撃を左肩甲骨の辺りに感じ、俺は前のめりにその場に倒れた。
倒れたと同時に顔のすぐ左横に何かが『ドスッ』と落ちる。
どうやら赤褐色ゴブリンが投げたハンマーが俺に見事に当たった様だ。
とてつもない気配を感じ慌てて上半身を起こしながら仰向けになると、目の前には俺のスネ辺りを跨ぐようにしてゴブリンが立ちはだかっていた。
赤褐色ゴブリンと目が合った。
殺られる・・・と直感的に感じたと同時に、赤褐色ゴブリンがもう片方の手に握られた先程投げつけられた物よりも一回り程大きいハンマーを振り上げた。
「くっそがーっ!!」
尻もちを付いたその状態のまま叫びながら、勢いをつけて思いっきり赤褐色ゴブリンの膝を足の裏で蹴り飛ばした。
するとたまたま上手く力が乗ったのか、赤褐色ゴブリンは体勢を崩し倒れまいと2歩3歩と後ずさりしながらバランスを保った。
今しか無い!!そう思った俺は足首の痛みを無視し、起き上がると同時に赤褐色ゴブリンに渾身の力と勢いを乗せてタックルをかました。
身長167センチの俺のタックルは身長140センチ無いほどの赤褐色ゴブリンの顔面に見事にクリーンヒットし、軽く弾かれ飛ぶ様に後ろへ倒れ込んだ。
怒り狂ったように咆哮を上げ起き上がる赤褐色ゴブリンの姿を視界の端に捉えながら、俺はなんとか逃げ込める場所が無いか必死に辺りを見た。
だがここは森の中、当然ながら籠城出来そうな場所など有るはずが無い。
とにかく走り出した俺は藁をも掴む気持ちで前方の木によじ登った。
挫いた手足の痛みを気にしている余裕なんて無い。
高さ15メートルはあろうその巨木はうまい具合に太めの枝が有り、なんとか6、7メートル程の所まで登れた。
「よっしゃ、これならなんとか」
俺は両手で木の幹の両脇の枝を掴み、しがみつくようにして恐る恐る下を確認する。
正解だった。
手足が太く短いゴブリンは木を登ることが出来ず根本で憤慨しており、俺はなんとか残る僅かな力を振り絞り、右手で掴んでいた枝の上まで這い上がり、枝の上に座り幹にしがみついた。
「いったい何処だよ此処は。っていうか八方塞がりじゃねーか・・・」
周りの木もほぼ同じ高さで密集しており、この高さでも辺りの様子を見渡す事は出来ない。
だが密集しているとはいえ、隣の木に飛び移れる程に距離が近いわけでもなく身動きがとれないでいた。
幾ら考えを捻ってもアイデアは出てこず、俺は大きく一つため息を付き木の根本にいる赤褐色ゴブリンを見下ろした。
すると先程までこちらを見上げ憤慨していた赤褐色ゴブリンが、木から離れていく姿が見えた。
諦めてくれたか・・・そう思ったのもつかの間、10メートル程離れた所で立ち止まった赤褐色ゴブリンは再び俺が登っている木に向き直り、まるで後ろ足で地面をかき鳴らす闘牛のごとく、その短い脚で地面を蹴り鳴らしていた。
「おいおい、まさかだよな、やめろよ・・・」
赤褐色ゴブリンの体を包むように周りの空気が微かに明るい赤色に光る。
どう考えても嫌な予感しかしない。
かと言って他に逃げ場が有るのなら、わざわざ木に登ったりはしない。
そんな事を考えている内に、赤褐色ゴブリンが真っ直ぐ猛突してくる姿を確認しながら、俺は木にしがみつく手に力を入れて衝撃に備えた。
『ドォォン!!』
低い音と共に巨木が揺れる。
予想以上の衝撃と揺れに思わずバランスを崩し落ちそうになるが、何とか耐え抜いた。
初激には耐えたものの、こんなのを繰り返し食らったのではとてもじゃないが耐えられそうに無い。
そうこうしている内に赤褐色ゴブリンは5メートル程後方に下がると、再び突進を開始していた。
体はまだ赤褐色光に包まれている。
2度目の衝撃。
間髪入れずに入った衝撃に十分に体勢を整える事が出来なかった俺は完全にバランスを失い、体が勢い良く左に傾いた。
「うわっ!ちょ!!落ち・・・!!」
先程まで腰を掛けていた枝に脚を絡ませ宙吊り体勢になってしまった俺は、半分パニック状態の脳みそをフル回転させこの状況を乗り切らんと考えを絞り出す。
だがそんなアイデアなど都合よく出てくる筈もなく、無残にも赤褐色ゴブリンの3度目の突進が繰り返された。
2度目より強いその衝撃に耐えることが出来るはずもなく次の瞬間、俺は落下していた。
『あ、俺、死ぬ。』
時間にして僅か1、2秒ほどだが、全てを悟ったように頭にそう思い浮かんだ。
こういうときってスローモーションの様に感じたりするって映画や漫画のシーンであるけど、まさしくこんな感じか・・・でも走馬灯なんて見えたりはしねえ、これが現実か、これで終わりか。
「・・・くっそう!こんな終わり方納得行くかよ!!」
木の根本の赤褐色ゴブリン目掛けて真っ逆さまに落下して行くさなか、視界に入った腕ほどの太さの枝にダメ元で手を伸ばした。
『ガンッ!!』という衝撃と共に一気に落下速度が弱まり、俺の手は見事に木の枝を捉える事に成功したのだ。
助かった・・・というのは余りにも浅はかな考えだった。
所詮、映画のような展開など有るわけも無かった。
落下速度が減速したのはいいが、その衝撃を一気に受けた木の枝は無残にも幹から別れた根本部分で、盛大な音を立てて折れたのだった。
一瞬の安堵から、再び一気に恐怖のどん底へ叩き落される。
『やっぱこんなもんかよ・・・現実って。』
そう思った時には赤褐色ゴブリンの上に落下していた。
落下の衝撃によるものなのか、右脇腹に猛烈な衝撃と痛みを感じる。
掌も落下中に木の枝を掴んだことによる摩擦で皮が向けたのか、無数の棘が突き刺さるような痛みを感じる。
『あぁくそ、このままコイツに殺されるのか・・・せめて一思いにやってくれ。』
助かる見込みゼロのこの状況に、俺は抵抗する事も諦め大人しく目を閉じた。
若さに自身のある?生身のおっさんが、自分自身が行き成り異世界に飛ばされたら、どんな行動を取るのか?
この局面、自分ならどう行動するのか?
常にそう考えながら書いています。
ある程度書き貯めをしておりますので、これから定期的にアップさせて頂きたいと思います。