01 続き
続きです。
「まあいい。講義を続ける。」
髭をさすりつつ、エヴァンズは黒板の方に向き直って再び教書を開けた。
緊張が一気に解け、はぁ・・・とアレンの口からため息が漏れた。
「でもさ、なんたって今更俺たちゃ講義なんか受けてるんだよ?俺達五年生だぜ五年生。」
「何が言いたいかは大体察するよ。でもな、俺達が間違った情報来た客に流したらまずいだろ。」
小声で愚痴ってきたニッキーを窘めるようにアレンもひそひそ声で返す。
「しかも今回基地で開くイベントはいつものフライトショーとか基地見学ツアーとかそういうレベルの代物じゃあない。」
「"世界大戦終結100周年記念式典″ねえ・・・。なんでまた我が国のお偉いさん方はこんな大仕事を請け負ったんだか。今年は新型の量産機関連のことでやんなくちゃいけないこと山積みなんだろ?ウチの基地司令の禿げ具合が一気に加速するなこりゃ。」
「お前それ本人に聞かれるなよ?・・・まあいいか。兎にも角にも、俺達空軍学校の生徒たちは、ここレイル空軍基地で2週間後に開かれる式典並びにそれに併設して開催される色々なイベントの運営とその補助をしなきゃいけないってことだな。な、ニッキー?」
「ご丁寧な説明どうも。クソっ、聞いてるだけで怠くなってきた。あぁ・・早く午後になってくれぇ・・・。」
キーンコーン カーンコーン
ニッキーの嘆きをかき消すかのように、教室にチャイムの音が鳴り響いた。3時間目の終了の合図であるとともに、ランチタイムの始まりを告げるチャイムである。
「む、もうこんな時間か。では今日の講義はここまで!続きは明日とする。午後からの昼夜間飛行訓練には遅れないように!一同、起立ッ!」
エヴァンズの一言でアレン達一同は立ち上がり、
「礼!」
「ありがとうございました!」
そして一礼した。
----二週間後にはこの礼が、1年後に入隊式で初めてするはずの敬礼に変わっていることを、彼らはまだ知らない。
その正式名称を、『レイル空軍基地付属航空技士育成学校』というこの学校では、十五歳に達した少年少女達のなかから希望者を募り、ベルナス共和国空軍の次代を担うパイロットや整備士、航空管制官を育成している。彼らの教育課程は基本5年間で構成されており、一年生では空軍の沿革やベルナス共和国の基本的な歴史について学び、二年生から四年生まではパイロットコース、航空機整備士コースそして基地管制官コースに分かれ、それぞれ訓練などを通しその技術を習得していく。そして最後の五年生では、レイル空軍基地内での演習を含め数々の実技試験で一定のスコアを獲得することによって卒業課題をクリアし、そこで初めて軍での”新兵”としての入隊権利を得る。
アレン達パイロットコースの五年生は、今まさに卒業課題のクリアに取り組んでおり、この日8月19日の午後から始まる昼夜を通した飛行訓練もその一つであった。