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プロローグ 最後の大戦

 剣戟が響き怒号が飛ぶ。どこかで爆轟が大地を揺らし、無数の悲鳴が木霊する。


 普段は低レベルのモンスターしかポップしないその荒野に、戦火が飽和していた。


「……状況を端的に報告せよ」


 その戦場の遥か後方にて腕を組み戦いの行く末を見守っていた男が、苛立ちを露わに貧乏揺すりなどしながら、駆け寄って来た部下に命令する。

 最高の稀少度(レアリティ)を誇る鉱石ヒヒイロカネをふんだんに使用した紅色の鎧を身に纏った男だ。

 腰に差した宝剣も鎧の下に秘められた肉体も、紛うことなく一級だと見て取れる。


 彼の名はアゴルド。この荒野にて繰り広げられているギルドバトルにおける片側のギルド、“紅一天”の総司令(ギルドマスター)その人である。


「だ、第一から第八部隊まで壊滅。第九、第十も被害甚大。本陣に攻め入ってくるのも時間の問題かと……」

「ッ、何故だっ!!」


 アゴルドは部下からの報告に対し声を荒げ、行き場のない怒りをぶつけるように地面を蹴った。

 ここまで荒れたギルドマスターを見るのは初めてだったのか、部下の男はビクッと目を伏せ身体を硬ばらせる。


 ギルド“紅一天”は、この世界(ワールド)における序列一位のトップギルドである。

 故に、アゴルドの怒りも尤もだった。


 何せ――


「何故、肉入り(・・・)二人の弱小ギルドなんぞにここまで追い詰められているのだっ!?」


 報告によると、残るは彼率いる本隊だけ。今、彼の目の前にズラリと整列している五十人余りしか生き残っていない。

 彼らはギルドメンバーの中でもまさに一線級の精鋭達だが……果たしてこれで勝てるのだろうか。

 正直言って、分からない。


 肉が軋むほどきつく手を握り、悔しそうに歯噛みするアゴルド。

 しかし、これでも団員千超からなる一大ギルドのトップである。故に一度深呼吸をすると途端に平静を取り戻し、来るべき決戦の時に備えて本隊のメンバー達に指示を飛ばすべく口を開くと……



 光の柱が天より降り注ぎ、本隊が並ぶ地面に突き刺さった。



 キュワァァァ――という聴き慣れない怪音と共に迸った一本の光柱は、そのまま大地をジグザグに薙ぎ払い、本隊後方のプレイヤー達を浄化……もとい蒸発させていく。


 十数秒、だっただろうか。光の照射が収まり無事だった前衛達が振り向いた頃には、本隊の半分が死亡(デッド)を示す青白い人魂のようなマーカーに変わっていた。

 後衛達計二十五名、一瞬で消滅。


 アゴルドは唖然としたまま天を仰ぐ。

 光の柱によって雲が吹き飛ばされたのだろう。曇天の空にポッカリと空いた青い孔の向こうには、かすかに巨大な()が見えた。


「衛星、兵器……? そんな馬鹿な……。だってこの世界は――」


 中世風ファンタジーだろう。


 そう口にする間も無く、彼及び生き残った前衛プレイヤー達の耳に凛とした音色が響いた。

 キィン、という風鈴のような微かな音は、されど確かに戦場全域に響き渡る。


 心が洗われるような音色だった。風が凪ぎ、一瞬起こった静寂の中鳴り響いたそれには、混乱の渦に呑まれていたプレイヤー達も思わず顔を見合わせて聴き入ってしまう。


 だが視界の端に一瞬、何者かの人影を捉えたアゴルドは、素早く冷静に端的な指示を飛ばす。


「伏せろ!!」


 しかし――コンマ数秒遅かったと言わざるを得ない。


 何故ならアドルゴの怒声が前衛達に届いた瞬間、彼らの全身が切り刻まれ、ガラスが割れるようなエフェクトと共に死亡を示すマーカーに変わってしまったから。


 いつの間にやら死亡マーカー達の前で背を向けて立っていた人影が、金色の髪を靡かせて跳び去って行く。

 アドルゴはその姿を呆然と眺めることしか出来なかった。


 ギルド“紅一天”、残るはマスターただ一人。

 もはや結果は決まったも同然だった。


 そこに追い討ちをかけるかの如く、大きな双翼を持った白銀色の巨影が烈風を撒き散らしながらアゴルドの前に降り立つ。


 それは輝く銀の鱗を全身に纏った、ただひたすらに神々しく美しい一頭の巨龍だ。

 各所には同じく白銀色の鎧が馬鎧のように装備されているあたり、誰かの使役獣(ペット)なのだろう。

 その証拠に巨龍が自らの頭を地面近くへと下げ、そこに乗っていた二人の人影が飛び降りてくる。


 片や黒いロングコートを羽織り、身の丈程はある大剣を担いだ黒髪黒眼の男。

 片や六枚の光翼を背に生やし、頭に翼の髪飾りと天使の光輪を浮かべた白い少女。


「――“骸の王”に、“銀閃の七翼”……」


 知っている。

 彼は、彼女は、今まさに自らを蹂躙した敵方のギルド“ガーデン・オブ・エデン”のギルドマスターと、その妹と言われている副マスターだ。

 肉入り(プレイヤーキャラ)が彼ら二人しか居ないとはもっぱらの噂であり、実質ハリボテなどと揶揄されていた弱小ギルドである。


 アゴルド自身も、彼らなど取るに足らぬと見下していた。

 何せ相手は、目の前に立つ二人以外全てNPCで構成されているという前代未聞のギルドなのだ。

 実質、戦力が二人しか居ないのと同じだ。


 なのに今、こうして喉元に食らい付かれているという紛れもない事実。

 それがアドルゴにはたまらなく屈辱的だった。


 そんな彼の内心などつゆ知らず。黒一色の男が背に担いだ大剣を握り、その切っ先をアゴルドへと突き付ける。


「――さて、と。世界(ワールド)一位の座、明け渡してもらおうか、紅一天のギルマスさん?」

「ッ……! そう易々とこの座はやらんぞ、若造がァ!!」



 ここに、最終決戦(ラストバトル)の火蓋が切られた。

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