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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第三章:【剣】のエンライト、シマヅ・エンライトは斬る
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第九話:スライムは魔力を手に入れる

 今日は珍しく一人で行動していた。

 シマヅは顔見知りに挨拶しに行き、オルフェは相変わらずセイメイのもとで修業中。ニコラはカネサダのもとで刀を打っていた。


「ぴゅぴゅぅ……(オルフェ……)」


 スラちゃんになってから、こんなにも長い間オルフェから離れたのは初めてだ。

 オルフェの柔らかくて暖かい抱擁が懐かしい。

 あそこは俺の居場所だ。恋しくて仕方ない。

 ぶんぶんと首を振る。

 オルフェに会いたい気持ちを押さえてでも今はやるべきことがある。

 森の中、切株の上で俺は気持ちを切り替える。


「ぴゅいっ!(強くならないと)」


 オルフェは、当代最高の陰陽師セイメイのもとで極東の魔術を学びながら、神降ろしを利用した邪神の弱体化を行おうしている。

 ニコラは、世界一の刀工カネサダと共にシマヅに至高の刀を届けようと奮闘している。

 そして、シマヅは過去の敗北を受け入れて前を向いて強くなろうとしている。


 娘たちは、極東を救うために奮戦している。

 だからこそ、俺もがんばらないといけない。


「ぴゅいっ、ぴゅいぴゅ(今回は、あのときの俺ですら勝てなかった相手だ)」


 今までの邪神は弱体化していたとはいえ、大賢者マリン・エンライトであれば倒せる敵だった。

 だが、鬼はそうではない。


 極東中の淀みの集合体。それだけでもまずいのに、そこに【怠惰】の邪神の力が重なる。

 ……今思い出しても鳥肌が立つ。圧倒的な力だった。

 防戦一方だった。数百の陰陽師の支援を受けながら、ひたすら奴の攻撃を躱して、流して、耐え凌いぎながら力を削り、戦いは三日三晩続いた。

 そして、三日目。初めて鬼が見せた隙に残された力をすべて叩き込んだ。


 それでも鬼は殺しきれず、反撃されて致命傷を負わされた。

 せめてもの救いは、三日三晩の激闘と、俺に負わされた傷によって、鬼はすべての力を使いきって龍脈の中で休眠せざるを得なくなったこと。

 あと、ほんの僅かでも奴に余力があれば殺されていただろう。

 全盛期の俺ですらその様だ。

 なのに……。


「ぴゅいーぴゅぴゅ(この身には弱点がある……)」


【進化の輝石】を使うことで、強制的に進化し、進化さえすれば、己が知る最強であるマリン・エンライトの姿に戻れる。


 だが、弱点が二つある。

 一つ目は魔力総量が変わらないこと。

 マリン・エンライトになったことで最大魔力容量や、魔力回復量は大幅に上昇するが、現時点の魔力量は変わらない。

 今までは周囲に満ちる魔力を使う魔術や片っ端からマナ回復ポーションを使うことでごまかしてきたが、全力には程遠い。


 二つ目は三百秒という時間制限。

 一秒ごとに細胞が壊れていき三百秒で強制的に元に戻る。

 時間操作の魔術は座標指定で、戦闘には使えない。そもそも時間操作は超がつくような高等魔術。他の魔術を併用して戦うなんてできない。


「ぴゅいーぴゅ(改善するとすれば一つ目)」


 魔力量をどうにかする。

 マナポーションは効果が薄い。大賢者マリン・エンライトという巨大な器を満たすだけの魔力を得ることなど不可能。

 なら……特別なポーションを作ればいい。

 その方法に心当たりがあった。

 スキルを使う。

 それは、邪神ベルゼブブを【吸収】して得た力である【分裂】。

 まずは標準的な偽スラちゃんを作る。


「ぴゅむぴゅむ」


 次のステップだ。

 全身の魔力を高める。そして込めた魔力を体の一部に集める。

 スライム細胞が震える。破裂する寸前まで魔力を込めた。

 そして、【分裂】。


「ぴゅふー(疲れた)」


 全魔力の二割もの魔力を、こぶし大の小さな偽スラちゃんに込めた。

 魔力の込めすぎで偽スラちゃんが輝いている。


 魔力の上限というのは、自然に体が保持できる総量だ。今俺がやったように密度を上げることも可能だが、そうした場合留めるのに必死で、それ以外のことができなくなる。

 だが、【分裂】体なら魔力を留めること。それだけを命じ実行させることができる。


 ここには二体の偽スラちゃんがいる。

 一体は普通の偽スラちゃん

 もう一体は魔力密度を極限まで高めた小さな偽スラちゃん。

 実をいうと【分裂】を使った魔力回復は、二度目に【進化の輝石】を使ったときに試して失敗している。


 進化して種族が変わったことで、合体できなくなっていたのだ。

 予め多数の【分裂】体に魔力を持たせて一つになれば急激な魔力回復が可能だと思ったが甘かった。

 だから、今回試すのは合体ではない。


「ぴゅいぴゅい!(いただきます)」


 まずは普通の偽スラちゃんを食べてしまう。

 そう、今回試すのは合体ではなく【吸収】だ。

 合体はできなくても、【吸収】スキルは進化していても使えることは前回気付いている。


 だからこそ、【吸収】にかける。

 そうすれば、中の魔力も得られるはず。

 普通の魔物なら、【吸収】して得られる魔力の変換効率は悪いが、スライムなら魔力回復量も多いはずだ。

 さあ、どうだ?


「ぴゅいぃ」


 半分成功と言ったところだ。標準な魔力保持量の分裂体なら、ほとんど魔力は増えていない。

 だが、意味がなかったわけじゃない。

 多少なりとも魔力が回復することがわかった。

 ならば……。


「ぴゅいぴゅ(魔力をたっぷりもった奴なら)」


 次に、限界まで魔力密度を高めた偽スラちゃんを食べる。

 魔力量が多く、何より密度が高い。普通の偽スラちゃんでも効果があったのだ。これは期待できる。

 もぐもぐ。


「ぴゅむ!?」


 美味しい。

 魔力が高くなると、ジューシーでコクがある。

 なにより……。


「ぴゅいぴゅぴゅ!(大成功だ!)」


 魔力が大きく回復した。

 小さな偽スラちゃんには、俺の全魔力の二割を込めていたが、魔力が一割ほど回復した。

 変換効率は五割だが、それでもどんな回復ポーションよりも回復量が多い。

 ならば……。


「ぴゅむぴ!(作りまくる)」


 こぶし大の偽スラちゃんを三体作る。

 もちろん、全員魔力密度まで極限に高めてある。

 急激な魔力の放出で眠い。

 一体につき全魔力の二割持っていかれるので負担が大きいのだ。

 あと一体頑張りたいが、魔力を使い切れば倦怠感で倒れてしまうだろう。

 次は魔力回復を待ってからだ。


「ぴゅい!(来い!)」


 あーんと大きく口をあける。

 小さな偽スラちゃんたちが次々に口に飛び込んでくる。

 それを【収納】した。


「ぴゅふふふふ」


 思わず笑いが洩れる。

 自分の魔力を五割もの超効率で外部保存できるなんて魔術師にとって夢のような技だ。


 魔力の外部保存とは、超高等技術であり、秘術に分類される。

 オルフェのように髪に魔力を循環できるような魔術士はごく一部しかいないし、オルフェですら魔力変換効率は二割ほどだろう。


 スライムの体は素晴らしい。人間の体では絶対できないことだ。

 とはいえ、今の魔力量自体が大したことがない。

 大賢者マリン・エンライトとなったときの容量を考えると、あと七百ほど欲しいところだ。


 鬼の復活にはとても届かないが、限界まで用意しておくことに意味がある。


「ぴゅいぴゅー(たくさん作るぞ)」


 スライムボディは最大容量こそ少ないが、魔力の回復力は人間を大きく上回る。

 一日二十体ほど、魔力がたっぷり詰まった偽スラちゃんを用意できそうだ。

 全力でストックを溜めておこう。


「ぴゅいぴゅっぴゅ(そのためには狩りだ!)」


 拳大とはいえ、切り離して収納することには変わりがない。

 分離した分はちゃんと食べて増やさないと。いざというときにスーパースラちゃんになれなくなる。

 せっかく森に来たのだ。

 魔物狩りを楽しむとするか。たっぷり食べて減ったボディを補いつつ、レベルをあげよう。


 ◇


 日が暮れるまで、魔物を狩り続けた。

 今日見つけた魔物は、一度吸収した魔物と同系統ばかりで、新しいスキルは得られなかった。

 だが、いっぱいご飯を食べたおかげでスライムボディが補充できたし、レベルとステータスがあがっている。

 これもまた、強くなる方法の一つだ。


『ぴゅいぴゅー!(助けて、ボス!)』

「ぴゅい?(どうした!?)」


 休憩していると、テレパシーでオルフェを見守るために派遣しているクリアスラちゃんの悲鳴が聞こえてきた。


「ぴゅいぴゅ!(応答しろ)」


 クリアスラちゃんに呼びかけるが返事がない。

 一番、二番、三番……順番に声をかけるが誰も返事をしない。

 かろうじて、外で待機しているクリアスラちゃんと連絡がつながった。


「ぴゅい(何があった)」

『ぴゅー、ぴゅいぴゅいっぴ(どうやら、発見され陰陽師に倒されたもよう)」

「ぴゅむ。ぴゅいーぴゅ(貴様は待機。残り一体を屋敷に派遣しろ)」

『ぴゅいっぴゅ(いえっさ!)』


 クリアスラちゃんの存在に気付くとは、さすがはセイメイだ。

 俺の知っているころより成長している。


 それにしても、気づいただけでなく警告なしで始末してくるとは。好戦的じゃないか。

 ……嫌な予感がする。


 まさか、俺がオルフェを見守っていることに気付いて処分した?

 すべてはオルフェを毒牙にかけるために。

 くそっ、妻子持ちだからと油断した。

 あんな人畜無害な顔をして、異様に持てて、しょっちゅう告白されているくせに、妻を大事にしたいと一切なびかなかったセイメイがここで本性を見せやがった!

 所詮、セイメイも男というわけか!?

 オルフェの魅力の前に我慢できなくなったのだろう。オルフェが可愛すぎるのが仇になったか。


 急がないと! オルフェが危ない。あの子は男を疑うことを知らない。

 俺は慌てて街に戻る。目的地はセイメイの屋敷だ。

 外に待機させていたクリアスラちゃんから、さきほど屋敷に向かったクリアスラちゃんが始末されたと連絡が入った。


「ぴゅいっ、ぴゅっ!(オルフェ、無事でいてくれ)」


 俺はスライムボディに力を入れて、全力でスライム跳びした。

 セイメイのやつ、オルフェに何かあったら、絶対にただじゃおかないからな!


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種族:ディザスター・スライム

レベル:35→37

邪神位階:雛

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅱ 角突撃 言語Ⅱ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ 暴食 分裂 ??? 風刃 風の加護 剛力Ⅱ 精密操作 嫉妬 水流操作 覚醒 脚力強化 追い風

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 各種下級魔物素材 各種中級魔物素材 邪教神官の遺品 ベルゼブブ素材 人形遣いの遺産 レヴィアタン素材 湖の水

ステータス:

筋力B+ 耐久A 敏捷B+ 魔力B+ 幸運D→C 特殊EX

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