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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:【魔術】のエンライト、オルフェ・エンライトは紡ぐ
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第三話:スライムはドワーフ娘に分析されています

 新たに始まったスライム生の三日目で、娘にテイムされてしまった。

 そのことは前向きに受け入れている。

 父親を失い悲しみ涙を流す娘を見てしばらくは娘を見守りつつ使い魔生活を送ろうと決めたのだ……けっして抱かれ心地が良かったせいではない。


 今も、エルフのオルフェにぎゅっと抱かれている。

 幸せだ。柔かい。

 彼女は台所に向かっているようだ。そう言えばそろそろお昼どきだ。

 厨房についたオルフェは、先客に声をかけた。

 

「あっ、ニコラちゃん。今日のお昼ご飯はなにかな?」


 ことこと大きな鍋で、一人の少女が煮込み料理を作っていた。

 ……変な匂いがする。


「オルフェねえ、今作ってるのは怪しげな肉の怪しげな薬草煮込み~試作品ポーションを添えて~」


 オルフェの問いに厨房にたっているドワーフ……ドワーフらしからぬ、銀色の髪に白い肌の少女が応える。

 ニコラとオルフェは同じ年で十四歳。

 背は低く、こうしてオルフェがスライムボディに押し当てているような立派なものはない。

 なのに、どうしてここまで成長に差が出たのか。慢心、種族の差。


「どうしてニコラちゃんはいつも食事で冒険するの!?」

「人体の強化は錬金術の永遠のテーマ。衣食住、そことからませるのが効率がいい。今日の食事も研究の一環」


 ニコラは俺の【錬金】を引き継いだ。【錬金】のエンライト。

 筋金入りの研究バカだ。


「安心して、食べれないものは作らない。毒はないし、むしろ健康になる。シマヅねえなんて、食べるだけで強くなるなんて最高だなんて言いながら、喜んでお代わりする」


 ニコラを研究バカだとしたら、【剣】のエンライトである狐獣人のシマヅは鍛錬バカだ。

 強くなれて、害がないならそれ以外はわりとどうでもいいと考えられるタイプ。


「たしかに、毒はないかもしれないけど、純粋にまずいの」

「良薬、口に苦し。どっちみち、続けて食べると負担に体が耐えられないから、毎日は作れない。美味しい料理はオルフェねえが当番のときに食べればいい。私が当番のときは強くなる料理、うまく住み分けできてる」

「もう、それでいいよ」


 オルフェが折れた。

 ニコラの頑固さは筋金入りだ。

 そして、ニコラの言うことも一理ある。日々の食事で強くなれるのならそれにこしたことはない。


 相手によっては、ニコラの料理に金貨を何百枚も積むぐらいの価値がある。……実際、ニコラの料理で姉妹たちはポテンシャルが引き上げられているからな。基礎を教えたのは俺だが。ドーピングクッキングでは、すでにこの子は俺の先を行っている。


 そして、できた料理は紫色の異臭がする肉がどどめ色のスープに浸っている。

 ……強くなるためとはいえ、なかなかきつい。

 オルフェはすべてをあきらめた表情で席に着く。


 俺はオルフェの膝に乗せられる。胸に抱かれれるのもいいが、太もももいい。オルフェの体は全身気持ちよくて、これだけでスライムになってよかったと思ってしまうほどだ。


「ううう、相変わらずすさまじいビジュアルね」

「大丈夫、味も香り食感も絶望的だけど、食べるだけで強くなる健康的な食べ物……オルフェねえ、さっきから気になってたけど、それはなに?」


 ニコラが灰色の瞳で愛くるしいスライムボディを見つめる。


「お父さんが作った魔法生物だよ。お父さんの部屋でうろうろしていたからテイムしたの」

「……こそこそ父さんが隠れて作ってたの、この子だったんだ。ヘレンねえもシマヅねえも帰っちゃって、この屋敷も寂しくなったし、ペットが増えるのはいいかも」


 どこか寂しそうに、ニコラはつぶやく。

 よくよく見ると、彼女の目は赤いし、涙のあとがある。昨晩は泣いていたのだろう。


「ニコラちゃんは屋敷を出ないの?」

「オルフェねえと一緒。もう少し父さんと一緒にすごした屋敷で気持ちの整理をしたい。それに、この屋敷ほど設備が整った場所はない」

「そうだね。私もおんなじ」


 残された姉妹は笑い合い、凶悪な昼食を口に運ぶ。

 食べ終わると、ニコラが歩いてきて俺の隣まで来た。


「ぴゅい?」

「ごめん。ちょっと拝借」


 ニコラはスライムボディに手を伸ばし、端っこのほうをちぎる。そして、その灰色の眼でじっと観察した。

 ニコラは希少な【鑑定】スキル持ちだ。彼女は俺を分析しているのだろう。

 そして……ぱくっと俺の一部を食べた。


「なるほど、そういうわけ。だいたいわかった」


 満足したのか、ニコラは席に戻り食後の紅茶を楽しむ。


「ああ、スラちゃんを食べるなんてひどいよ」

「スライムに痛覚はないし、かってに大きくなる。体内に取り込んだほうが詳細な分析ができる。倫理より研究優先。さすが、父さん。面白いものを作る。……【無限に進化するスライム】。こういうアプローチで、最強に至るのもありかも。種族としての強さではなく、可能性に全振り」


 ニコラが笑っている。

 あの子は錬金術大好きなので、考察の対象が現れて喜んでいるのだ。

 しばらく、警戒しておこう。解剖されかねないし……あの子なら、俺がスライムに転生しているという事実にたどり着く可能性がある。


「オルフェねえ、その子が来てくれてよかったね」

「研究対象にしちゃだめだよ。この子は新しい家族なんだから」

「……それもあるけど、そういう意味で言ったわけじゃない。昨日よりいい顔してる。オルフェねえの寂しさを埋めてくれてよかったってだけ」


 こう見えて、ニコラは姉想いのいい子で、よく見ている。

 俺の娘たちに悪い子はいない。


「もう、お姉ちゃんを心配するなんて生意気だぞ」

「オルフェねえ、苦しい」


 感極まったオルフェが立ち上がりニコラを抱きしめる。

 オルフェの胸にニコラの顔が埋まっている。ニコラが実に微妙そうな顔をした。姉の抱擁は嬉しいが、胸がないことはニコラのコンプレックス。

 俺は二人を見て、安心した。

 ファザコンの二人がちゃんと、俺を失った悲しみを乗り越えている。本当に良かった。


 ◇


 食事が終わると、外に出た。

 ニコラが俺の能力を見たいと言い出したからだ。


 ニコラが自作の笛を鳴らす。

 あれは魔力を込めた音色で周囲の魔物を呼ぶ道具だ。

 その音を聞いて、鳥の魔物がやってくる。

 茶色の大きなハト。ハトも中型犬ほどの大きさになるとなかなかインパクトがある。


「クルックゥ」


 鳴き声をあげて襲い掛かってくる。

 ハトの魔物の種族名は、ピジオット。

 大きなかぎ爪で獲物をさらって巣に持ち帰る魔物だ。


 当然のようにこの場で一番弱いスライム。つまり俺に襲い掛かってきていた。


「あっ、スラちゃん」


 オルフェの腕から飛び降り、スライムボディに【収納】していた強酸ポーションを浸していく。

 こんな体を抱いたらオルフェが火傷してしまう。


 体が緑色に変色する。


『ぴゅぴゅーい(毒スライムモード)』


 俺をさらおうとした、ピジオットのかぎ爪がスライムボディに食い込むが、持ち上げることができずにとける。


「クル、クルゥ」


 馬鹿な奴だ。スライムには物理攻撃は通じない。

 傷ついた奴は羽ばたいて上昇し、逃げようとする。

 だが、見逃しはしない。


 せっかく、【吸収】していない魔物が出てきたんだ。しっかり、【吸収】してスキルをもらおう。

 やつは空で安心して機会をうかがっている。油断していると言ってもいい。スライムには、遠距離攻撃はない。

 そう思っているのなら、その幻想を打ち壊す。


「ぴゅ、ぴゅいー(酸ビーム)」


 スライムボディの内部構造を微妙に変えて圧縮ポンプを作る。

 そして、勢いよく強酸ポーションを吐き出す。

 すでに十メートル以上離れていたピジオットに、酸の強力な水鉄砲が直撃した。


「クルッ、クゥ!?」


 酸を浴びた翼がとけて、ピジオットが墜落した。

 これぞ必殺、酸ビーム。

 ふふふ、何体か魔物を【吸収】したことで変形の精度が微妙にあがっていてこんな芸当が可能になった。強力だが、強酸ポーションの消費が激しいのが難点だ。


 全身に浸していた強酸ポーションを【収納】して、毒スライムモードから、通常形態へ。色が緑から透明な青に変わる。

 墜落したピジオットのところまでスライム走りして、ぱっくりと食べる。


 もぐもぐ、ぱくぱく。美味しい。やっぱりネズミより鳩のほうが美味しい。一部の素材はしっかり【収納】。

【吸収】が完了し力が湧いてくる。

 よし、新しいスキルを手に入れた。


『【飛翔Ⅰ】か、飛べるのは便利だな』


 さっそく使ってみる。

 スライムボディが変形し、背中にスライム色の羽根っぽいのができる。

 力を入れるとぱたぱた動き、なんと二十メートルほど体が浮いた。

 そして、一分で力尽きて墜落。


『ふむ、今だと二十メートル一分が限界か、もっと空飛ぶ魔物を食べると、便利になるかも』


 空を飛べるのは大きなアドバンテージだ。

 今後は積極的に鳥系の魔物を食べて、スキルをレベルアップさせていこう。


「スラちゃん、羽が生えた姿も可愛い!」

「ぴゅいー」


 オルフェが駆け寄ってきて、俺をぎゅっと抱きしめる。

 定位置になりつつ胸元に。やっぱり、ここはいい。なんというか安心する。


「さすがは、父さんが作ったスライム。【吸収】と【進化】で無限に強くなる、可能性の獣」


 感心したようにニコラがつぶやいた。

 ニコラは戦いの後と【吸収】してからの変化、ずっと俺を観察していた。そして、このスライムのポテンシャルを改めて実感したのだ。

 ははは、父を尊敬するがいい。このスライムは俺の最高傑作だからな。


「もう少し、戦うところを見たい」

「私も賛成。スラちゃんも、もっと強くなりたいよね」

「ぴゅいー」


 もちろんだ。

 どんどん強くなる。自分の安全にも、娘たちに近づく害虫を駆除するためにも。


「じゃあ、オルフェねえ、スラ、もう一回魔物を呼ぶ」

「はい」

「ぴゅい!」


 そうして、娘二人との狩りタイムは続く。



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種族:フォビドゥン・スライム

レベル:3

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 フォレスト・ラット素材 ピジオット素材

ステータス:

筋力G 耐久G 敏捷F+ 魔力F 幸運F 特殊EX

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