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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第一章:【魔術】のエンライト、オルフェ・エンライトは紡ぐ
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第十八話:大賢者は流星を放つ

 大賢者マリン・エンライト。俺本来の姿になっていた。

【進化の輝石】の効果で進化し、強化された変質の力を使って大賢者の力と姿を取り戻したのだ。


 俺はオルフェを背中にかばいつつ、彼女を襲おうとしていたベルゼブブの分裂体を焼き払うと、次なる魔術の準備を始める。

 時間がない。【進化の輝石】の力はあくまで一時的なものだ。

 数分で元に戻り、マリン・エンライトの姿を維持することができなくなる。


「お父さん!」


 涙を目に溜めたオルフェが叫んだ。


「オルフェ、よく頑張った。あとは俺に任せろ」


 優しく微笑む。

 この子は俺との約束を守り、最後の最後まで頑張りぬいた。

 だから、今度は俺が約束を守る番だ。

 ここから先は俺が何とかする。


「お父さん、死んだはずじゃ」

「俺は大賢者だ。死んでも娘を守るために駆け付けることぐらいやってみせるさ。……とはいえ回数制限も、制限時間もあるがな」


 この肉体はそう長くはもたない

【進化の輝石】で得た力が消えていくのを感じている。


 あと、四分五十秒。それが今の俺に許された時間だ。それが過ぎればスラちゃんに戻る。

 やがて、レベルを上げ、魔物を吸収し続ければ自在にこの姿になれるだろうが、それはまだまだ遠い。


 魔術式の展開。

 禁忌の発明品を取り出す。

 それは【錬金】によって作った特製の液状ミスリルが入った瓶。


 液状ミスリルを空間に広げる。

 二十八層のミスリルで出来た魔方陣が空間に描かれ輝きだす。

 儀式魔術を即席で作るために開発した発明品だ。その他にも儀式魔術を支援する礼装を次々に取り出す。


「どうして生き返れるなら、早く戻ってきてくれなかったの? お父さんがいなくて、みんな、ずっと悲しくて、泣いたんだよ」


 オルフェの声を背中に受けながら、魔術を組み立てていく。

 残り、四分十秒。

 たった、一撃の儀式魔術で今も増え続けているベルゼブブを倒せなければ、終わりだ。

 一秒たりとも無駄にはしない。


「お前たちに秘密にしたのは悪かった。だが、勘違いするな。俺は死んだ。その事実は変わらないし、生き返ってなどいない。この身は幻だ。すぐに消える。ここに来れたのはオルフェたちが頑張りぬいたから起きた奇跡にすぎない」


 オルフェが息を呑んだ。

 彼女はきっと、俺が生き返り、これからずっといれると思ってしまったのだろう。


「そんな顔をしないでくれ。オルフェは強くなった。一人でも歩いていけるだろう」


 振り向かなくても、オルフェがどんな表情をして、どんな仕草をしているかはわかる。ずっと、一緒に暮して来たんだ。


 オルフェは強い子だ。涙をぬぐって、まっすぐに俺の魔術を見ているはずだ。この奇跡の時間を無駄にしないために、脳裏に俺の魔術を焼き付けて、全力で学んでいる。


 だから、一世一代の魔術を披露しよう。大賢者の名に恥じない。なにより父として誇れる最高の魔術を!

 それこそが俺がオルフェのためにできる最善。

 最後の贈り物だ。


 二十八の魔法陣のうち、二十二の工程が完了。残り六の陣を構築すれば魔術が完成する。


「お父さんの魔術、綺麗、完璧な術式、清流のような魔術の流れ、これがお父さんの本気」


 オルフェがうっとりとした声をあげる。

 なつかしいな。オルフェと出会ったときも彼女は綺麗と言った。

 大賢者マリン・エンライトでいられる時間は残り二分八秒。


「その眼に焼き付けろ。これが大賢者マリン・エンライトの幻が放つ。禁呪……」


 二十八の魔力陣が鈍い音を立てて起動する。

 魔法陣に刻まれた魔術刻印と儀礼文字がぐるぐると周り、半径数キロから根こそぎ魔力をかき集めていった。


 この身にはわずかな魔力しか残っていない。

 進化し、魔力の生産量があがった、膨大な魔力の器を得た、なれど、その器を魔力で満たすには時間がかかる。

 それを待ってなんていられない。

 ……だから、自分以外の魔力を使う。


 それは、大地や木々が帯びる力。

 それは、すべての生物から漏れ出た力。

 そして、この地に漂う魔術の残滓。


 人や魔物が魔術を放つとき、魔力を100%変換できるわけではない。超一流の魔術士でも80%といったところ。変換しきれなかった魔力は、空気に溶けこみ漂い、やがては消える。

 この地には、数百発分の魔力の残滓が漂っている。


 そのすべてをかき集める。

 この術式は、戦争で使用することを想定した戦略級魔術。

 お互いの陣営の魔術士たちが魔術を打ち合えばとんでもない量の魔力が空間に満ちる。それを使うことで、消耗なしで最強クラスの魔術を使うことを目的に開発した


「やっぱり、お父さんはすごい。まだ、私の腕じゃここまで」


 そうだな、オルフェが使うにはもう少し修行がいる。

 だけど、いつか必ずたどり着くだろう。

 この子は俺の娘にして、【魔術】のエンライトなのだから。


 始めの五つの魔方陣によりかき集められた魔力が、次の五つの魔方陣で精錬されて加工しやすく変換され、別の五つの魔方陣で一つに束ねられ、さらに五つの魔方陣で加速し圧縮され、さらなる五つの魔法陣で増幅し、最後の三つで大賢者マリン・エンライトにふさわしい魔術への昇華する。

 その名は……。


「刮目せよ。これこそが我が秘術。大賢者マリン・エンライトにのみ許されし戦略級魔術!」


 高らかと詠唱しよう。星の魔術を。


「裁きの刻は今! 許されざる者達の頭上に、星たちよ降り注げ!【聖光流星群】!!」


 野太い光の帯が天に伸びる。

 上空で光は星となり、はじけて、数千の流星へと変わる、その一発一発が、群体であるベルゼブブに光の速さで降り注ぐ。


 光の速さゆえに回避は不可能。照準が完璧であれば逃れられる道理はない。

 そして、その数千の流星の一つ一つがベルゼブブの群体の一体一体を【自動照準】の術式で捕捉していた。


 俺はベルゼブブの群体を【吸収】している。

 そのおかげで、ベルゼブブの生物的な特徴を分析しつくし、自動照準に必要な情報を揃え、【聖光流星群】を放つときに、すべてのベルゼブブの群体に狙いをつけた。


 数千の流星たちはすべて必中、すべての分裂体が消滅する。

 悲鳴を上げることすら許さない。


「終わったよ。オルフェ、お父さんはすごいだろ」


 振り向いて、笑いかける。

 すると、想像していたとおりだ。さきほど涙をぬぐったばかりというのに、すべてが終わり、安心しきったオルフェは子供のころに戻ったみたいに幼い表情になり……俺に抱き着いてきた。


「やっぱり、お父さんはすごいね。こんな、魔術、まだ遠くて、遠すぎて、全然追いつけてないって思い知らされて、悔しいけど、やっぱりお父さんはすごいことが、うれしくて」


 いろんな感情がオルフェの中で爆発している。

 そんなオルフェが愛おしくて仕方ない。ぎゅっと抱きしめてやる。


「俺はおまえの道しるべで、超えるべき壁だ。簡単に超えられては困る。たくさん学べ。今、見せた魔術はおまえに向いているよ。おまえが放った百人がかりの儀式魔術と根っこは一緒だ」


 オルフェが俺の腕の中で頷いた。きっとオルフェは、今日、この魔術を見せたことを無駄にしない。

 いい子だ。オルフェの頭を撫ぜてやる。

 残された時間は一分二秒。


「オルフェ、そろそろ俺は消える。限界が来たようだ」

「そんな!? やっと会えたのに、すぐに居なくなっちゃうなんてひどいよ。もっとずっと一緒にいて!」

「さっきも言っただろ? 俺は死人だ。今、ここで話せているだけで奇跡なんだ」

「そんなのいや! 離さないもん」


 その言葉の通りにオルフェはぎゅっと、俺を抱きしめる。

 苦笑してしまう。


「ひどいな。俺に心残りを作らせないでくれ。……おまえは強い子だろ。俺の好きなオルフェは一人で前を向ける子だ」


 残り四十秒。

 俺の存在が崩れ落ちていく。


「そんな言い方ずるい……そんなこと言われたら、甘えられないよ……」


 オルフェが俺から離れる。


「できれば、笑ってほしいな。笑顔のほうがオルフェに似合う」


 オルフェは涙で濡らした顔のまま笑みを浮かべた。

 思った通りだ。オルフェには笑顔のほうが似合う。


「お父さん助けてくれてありがとう。私は、大丈夫。お父さんがいう通り強い子だから」


 残り二十秒。

 最後の言葉を残そう。


「一緒にいられなくてもいつも見守っている。だから、これからもがんばれ。それでだめなら、お父さんが、また助けに来てやる」


 オルフェと見つめあい、笑いあう。


「最後の頼みだ。背中を向けてくれないか。体の維持が限界だ。娘にかっこ悪いところは見せたくない」

「うん、わかった。”またね”お父さん」


 万感の思いを込めて、オルフェはまたねと言った。

 オルフェが背中を向けるそれと同時に、俺の限界が来た。

 どろどろに体が溶けて、青透明のスライム色になる。

【進化の輝石】で進化する前の元の姿だ。【進化の輝石】で得た力は失われている。


「ぴゅい(時間切れか)」


 オルフェが背中を向けているうちに、体を一か所に集めてスライム走りで離れ、木々の陰に隠れる。


「お父さん、もういいかな」


 返事はしない。

 オルフェが振り向いた。そこにはもう誰もいない。

 オルフェは声をあげて思いっきり泣いた。


 それを見て、胸が締め付けられる。スラちゃんの正体が俺だと打ち明けたくなる衝動に駆られる。

 ……だが、俺の正体を明かすわけにはいかない。

 だけど、いつか。自在に人間の姿になれるようになればすべて話そう。

「ぴゅーい……(はやく人間になりたい)」


 決意を新たにし、ニコラたちのほうに戻る。

 急にいなくなったスラを心配をかけているはずだ。


 いや、その前に一つ仕事をやり残した……保険を用意しておいてよかった。そうでないと見落とすところだった。考えようによってはチャンスだ。邪神を【吸収】し力とスキルを得られるかもしれない。

 さて、もうひと頑張りするとしようか。


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種族:フォビドゥン・スライム

レベル:18

名前:マリン・エンライト

スキル:吸収 収納 気配感知 使い魔 飛翔Ⅰ 角突撃 言語Ⅰ 千本針 嗅覚強化 腕力強化 邪神のオーラ 硬化 消化強化Ⅱ

所持品:強酸ポーション 各種薬草成分 進化の輝石 大賢者の遺産 フォレスト・ラット素材 ピジオット素材 ホーン・バンビー素材 デンクル・ラット素材 ニードル・ベア素材 グラッジ・ドッグ素材 スロック・チンパ素材 邪教神官の遺品 クイーン・ラット素材 ベルゼブブの群体

ステータス:

筋力C 耐久D+ 敏捷C 魔力E+ 幸運E 特殊EX

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