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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:【影】のエンライト、クレオ・エンライトは潜む
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第十七話:スライムはずっと言いたかったことを……

 全力で、【創成】を使う。

 形作る力は己が知る最強の姿。

 竜でも、悪魔でも、鬼でもなく、大賢者マリン・エンライトの姿。それこそが最強だと俺は知っている。


 形を変えた。

 色を変えた。

 硬さを変えた。

 魔術回路の疑似生成。

 思考能力の強化のため、仮想思考領域の生成、直列回路と並列回路、バックアップの形成。

 魔力循環の最適化。

 最強を形作っていく。


 いつの間にか、スライム跳びしていた俺の体は二本足で走っていた。

 もはや、この姿になるのに【進化の輝石】など必要ない。


 ついに邪神化していることを娘たちに明かした。

 邪神の力は諸刃の剣。

 内側から、心と魂を犯そうとしているのを感じる。ひどく甘美な誘惑だ。一度委ねれば、俺は俺ではない化け物になる。


 しかし、だからなんだというのだ。

 積み重ねた経験、熟練した技術、強い心で跳ねのけて見せよう。

 なにより娘が傍にいてくれるのだ。

 彼女たちが望む限り、俺は大賢者マリン・エンライトであり続ける。

 その決意を言葉にしよう。


「大賢者マリン・エンライト。これより、エンライトを執行する」


 必ず、勝つ。

 そう決めたときに紡ぐ言葉。

 それは【強欲】の邪神に勝つということを誓っただけじゃない。

 俺を蝕む力に打ち勝つという覚悟を込めた。

 並走するシマヅが微笑む。


「父上と一緒なら負ける気がしないわ」

「うん、絶対に何とかなるって思っちゃう」

「二人とも、もうボロボロなんだ。無理はするなよ」


 頷いてくれるが、きっと無茶をするんだろうなと思う。

 丸裸になった【強欲】の邪神マモンはあまりにも貧相に見えた。

 もはや、先ほどの一撃でほとんどため込んだ力は残ってない。

 だからとどめを刺す。

【強欲】のマモンが手を伸ばす。

 さきほどのものとは違い、あまりにもか細い、黄金化の力。

 概念的な対抗手段がないと防げない力。

 あれを使おう。

 あの力の前提条件を満たすため、強く心で願う。


 すべてを黄金にしてしまう力。

 錬金術の到達点にして、人の欲望の究極、物質の黄金化。俺はあの力が”妬ましい”。

 その感情をトリガーにして、能力が発動する。


「【嫉妬】」


 体が紫の力に包まれ、黄金の風が弾かれる。

【嫉妬】の邪神の力、妬ましいと思ったすべての影響を受けなくする力。

 それは黄金の風すら例外ではない。

 邪神の力はなるべく使わないようにしていたが、邪神としても力を振るうと決めた以上、もはや躊躇わない。


 速く駆ける。

 奴は黄金化の力が通用しないとわかったのか、黄金のツララを何本も射出してくる。


「父上道を作るわ」

「行って、お父さん!」


 両サイドからオルフェとシマヅが大半を撃ち落としてくれた。

 おかげで、道が出来た。通り抜けられるスペースがあれば、音よりも遅い攻撃など、防ぐまでもない。

 対捌きと踏み込みだけで躱してさらに前へ進む。

 右手に力を貯める。

 瘴気と魔力を合わせた俺だけの力。

 まばゆい黄金とは違う、昏く力強い金色。


「その欲望と共に、砕けろ。マモン」

「QYUUUUUUUUUUUUUAAA」


 右手を突き出し、心臓を抉る。

 光に触れた部分から分解していく。


 派手な技ではないが、だが、大軍を葬る大魔術を上回る威力を、ただ一個体の消滅のみに費やした必殺。

 邪神とはいえ、黄金の鎧を失い、力を使い切った【強欲】のマモンに防げる道理はない。

 これで終わりだ。

 そのはずなのに、どこか違和感がある。


「油断。本体はそれじゃない」


 短い言葉と共に、クレオがここから十メートルほど離れた位置にナイフを投げる。

 それが、黒く輝く石ころに突き刺さり、石がひび割れる。


 そうすると、今まで奴が黄金化させていたものが砕けて、もとに戻っていく。

【強欲】の邪神マモンが今度こそ消滅した。


「終了。【暗殺】のエンライトの使命を果たした。また一つ世界平和に貢献」


 命を刈り取ることに特化したエンライトゆえに、眼に映るものや魔力感知ではなく、純粋に命そのものを追い続けたがゆえに、クレオは気付いた。

 マモンは倒れたが、俺自身も、この姿を維持する限界だ。

 変身が解けて、スライムの姿に戻る。


「ぴゅふー」


 やっぱりこっちの姿が楽だ。

 まるで実家のような安心感。

 足裏に気を集中しての水面歩行はスライムの姿ではできず、湖にぽちゃんっと落ちる。だが、スライムボディは水より比重が軽いのでぷかぷかと浮かぶ。

 スライムにとって湖はベッドだ。気持ちいい。

 しかし、この姿が一番楽だということは、あくまで大賢者の姿は仮初にすぎないということだろう。


「ぴゅい(それも終わりだ)」


【強欲】のマモンを吸収すれば、今よりも完璧になれる。

 それは確信に近い。

 そして、今回は今までよりも進化に伴うダメージは少ないだろう。

 なぜなら、今までの進化のダメージは、瘴気への適性をあげるためのものでもあったからだ。

 今の俺はもはや、邪神そのもの。

 すでに瘴気への完全適応は終わっており、次は純粋により力を高めるだけだ。

 もはや、瘴気に苦しめられることはない。


「お父さん、やっぱり、それ、食べちゃうの」

「ぴゅむ(当然だ)」


 しまった、もう流暢に話せることはばれてるのにうっかりスライム語を使ってしまった。くせは怖い。

 まあいい、さすがに人の姿で居続けることができるようになれば、スライム癖も直せるだろう。

 砕けた【強欲】のマモンをぱくりと食べる。

 進化が始まる。

 すべてのスライム細胞が光り輝く。

 細胞の一つ一つが生まれ変わっていく。

 より強く、より柔軟に、存在の格自体が上がっていく。

 いつもは痛みで暴れまわっているのに、今回だけはむしろ心地良いぐらいだ。


 光が徐々に、収まっていく。

 力が満ち、気力に溢れている。

 ああ、そうか、ついに俺はたどり着いてしまったのだ。

【無限に進化するスライム】その到達点へと。

 試しに【創成】を使う。


 すると、すんなり大賢者の姿に戻れた。

 今まで、無理に変身していたときと違い、力を消費し続ける感覚がなく、ただ姿を変えただけ。

 これであれば、常にこうしていることもできる。


 オルフェとシマヅが潤んだ瞳で見ている。

 そして、いつの間にかいなくなっていたスライムファイブ連中が、ニコラとヘレン、レオナを背中に乗せてここまで飛んできた。

 やっぱり、スライムファイブは気が利く。

 五人の娘が俺の前に並んだ。

 俺の言葉を待っている。

 だから、娘たちに向かって、大賢者マリン・エンライトの姿で微笑む、ずっと言えなかったセリフを言おう。


「ただいま」


 娘たちが、それぞれ、泣いたり、微笑む。

 長い旅の果て、ようやく俺は娘たちの元へ帰ってきた。

 一人ひとり抱きしめてあげよう。

 きっと娘たちはそれを望んでいるから。

 

 


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