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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:【影】のエンライト、クレオ・エンライトは潜む
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第十五話:スライムは【強欲】に挑む

 スライムボディが震えている。

 さきほどから断続的に続いている城の揺れが、いよいよピークになってきた。

 すでに巫女姫たちは神殿に移動している。

 もう、スラちゃんではなくマリン・エンライトとして振舞っていいし、周囲の被害を考える必要もない。


「レオナ、一応聞いておくわ。もし、【強欲】の邪神マモンが復活すれば、この城はどうなるの?」

「あははは、そんなの決まってるじゃん。倒壊だよ」

「うわぁ、この城ってものすごくお金がかかってるよね。一生遊んで暮らせるぐらいの値段がついてる絵とか、壺とか、ごろごろしてるし、歴史的価値だってあるのに」

「そんなの、生き延びてから考えるべきだって。だいたい、放っておけば必ずいつか封印が破られるんだしね。私たちがいる今で良かったって考えるべきだよ。じゃなきゃ、この国どころか、世界が終わるもん」


 それは言えているな。

 封印の一族がいる集落が発展していき国にまで成長したのがこの国だ。

 だが、国としての成長と反比例するように、本来の役割は忘れられつつあった。

 最低限の決まり、封印の力を宿すものが王になるというルールすらも消え失せていたぐらいだ。


 そのうち、封印の力を持つ子が産まれなくなり、それを前提とした封印ははじけ飛んでいただろう。

 邪神を倒せるとしたら今しかない。

 城の一つや二つ、ケチっていてもしょうがないのだ。


「驚愕。【王】のエンライト、豪胆とは聞いていたけど想像以上」

「【影】のエンライト、こっちもびっくりだよ。まさか、防ごうとして防げない暗殺があるなんてね。絶対、敵には回したくないよ」

「同意。こちらも敵にしたくない。そして、現状あなたは世界にとってプラス。殺すことはない」

「現状ね。まあいいや。あなたも、邪神退治に協力してくれるんでしょ?」

「肯定。あれの排除は、必要」


 さすがレオナだ。とりあえず、クレオを仲間に引き入れることに成功した。


「オルフェ、風の魔術を頼むわ。窓から飛び降りる」

「わかったよ。みんな、できるだけ近くにきて」


 オルフェの元へ全員集まる。

 天井にヒビが入る。城は倒壊寸前だ。

 もう、普通に降りる時間はない。


「レオナは私が抱いて飛ぶわ。他のみんなは大丈夫ね」

「愚問」

「ぴゅいっ!」


 そうして、俺たちは窓から飛び降りる。

 飛び降りると、オルフェの風が優しく包んでくれた。

 シマヅとクレオ以外は、この高さから飛び降りれば助からない。


 俺たちが飛び降りたあと、城が崩壊する。

 城の残骸が激しく、点滅を繰り返す。

 城に施されていた術式が役目を終えた瞬間だ。

 下から荒々しい瘴気が吹き荒れて、ガレキや土が、浮き上がり、はじけ飛ぶ。


 そして、それは現れた。

 黒い苔に覆われた、のっぺらぼうのような巨人。城のような巨体、こちらを見下ろす。

 その手をこちらに伸ばすと、土砂のように、金塊が流れこんでくる。


「私に任せて」


 シマヅの毛が金色に染まる。

 神獣形態となった。

 あまりにも長く神獣になりすぎた後遺症で、シマヅは今、神獣と人間、その狭間にいる。


 その気なれば、こうして神獣としての力を振るえる。

 刀を上段に構え、人間には生み出すことがない聖気を纏わせ、振り下ろす。


「【聖絶】」


 黄金の斬撃が放たれる。

 気によって刃を形成し斬撃とする技はそう珍しくない、超一流の剣士のみ可能な超高等技術ではあるが、超一流の剣士なら皆習得している。

 特筆するべきはその威力だ。

 普通は、せいぜい数メートル先の人間を切る技術にすぎないのに、シマヅのこれは城ごと両断するような勢いだ。


 金塊の土砂と、黄金の斬撃がぶつかり合う。

 金塊を両断しながら、シマヅの斬撃が突き進む。

 金塊の土砂は裂けて、俺たちの左右を流れていき、斬撃はそのままマモンを切り裂いた。

 ……完全に人の枠から外れた力。


「嫌になるわ。今ので、斬れないなんて。あれを斬るには遠当てじゃ無理ということね」


 マモンの表面数十センチが抉れたことで、金色の肌が露出している。そちらは傷一つない。


「レオナ、あれの力は調べたのでしょう。わかる範囲で答えなさい」

「昨日さんざん説明したじゃん。……ああ、そっか、クレオに聞かせるためか。いいよ」


 レオナはこの城に封印されていた【強欲】について調べつくしていた。

 もちろん、極秘中の極秘で隠された【邪神】なので、知っているものも、資料もろくに手に入らない。

 だから、俺が城に忍び込んで盗み出して、レオナに資料を渡した。

 ばれれば、死刑は間違いないが、緊急事態だから断行した。


「あいつの【強欲】は富と黄金を生み出す能力なんだ。今のも、ただあの巨体で高い位置から黄金を生み出しただけ」

「単純だけど厄介ね。黄金の質量と硬さは凶悪よ」

「それからね。生み出すだけじゃなくて、黄金に変える力もあるんだよ。ほら、ああやって、周囲を黄金に変えてる」


 レオナの言葉の通り、奴の足元、大地やガレキ、木々までもが黄金になっていく。

 どんどん周囲が黄金に埋め尽くされていく。

 かろうじて、巫女姫がいる神殿だけはその力を拒んでいた。


「もちろん、生き物もあいつに近づけば黄金になる。強い魔力か気で守ってないと、近づくだけで金になっちゃうよ。私ぐらいの魔力量なら、たぶん、どうあがいても無理」


 あいつが纏う気だけで、すべてが黄金に埋め尽くされ、生き物すら金の彫像に変わる。

 ……あんなものを放置すれば、早晩世界は滅びるだろう。

 あれは人間の欲望に応えて生まれたと資料にはある。

 無限の黄金を求めた、欲望の結晶があれなら皮肉が効きすぎている。それを望んだ奴は、自分が黄金になり、その生涯を終えているだろう。


「了解。確かめたいことがある。【剣】のエンライト、助力を要請」

「いいけど、何をする気?」

「特定。あれだけの巨体なのに、命がわずかしか感じられない。わずか、ほんのわずか、奥の奥から漏れ出ている。そう感性が言っている」


「そういうことね。あの巨体、黒い苔が生えた黄金、あれはただの鎧で、もっと小さな本体が隠されている」

「肯定。暗殺者である私にはわかる。……推論、いくら外壁を傷つけても意味がない。必要なのは、中に潜む何かの暗殺。私の仕事」

「いいわ。協力してあげる。私が道を作って、あなたを送り届けるわ」

「正解。頼らせてもらう」


 クレオとシマヅが頷き合う。

 彼女たちが駆けだそうするが、【強欲】のマモンは何も言わず、そっぽを向いて歩き始めた。


「あれ? レオナ、私たちのこと眼中に無いって感じがしない?」

「【強欲】だもん。行動理念がもっともっと黄金をって感じだから、私たちを相手にするより、他へ行って周囲を黄金に変えたほうがいいって思っているんじゃない?」

「それ、やばいよね!?」

「大丈夫だよ。能力は事前に調べておいた。だから、対策はある。そのために、ニコラを外に配置したんだから。そろそろ来るよ」


 隣に偽スラちゃんが飛んできてぴゅいっとなくと、その体表にニコラの文字が浮かぶ。

 スラ文字通信だ。


『照準補正完了、いつでも行ける』


 文字が消えると、即座にレオナが書きこんだ。


『十秒後にぶちかませ』


 きっと、今頃ニコラの近くにいる偽スラちゃんの体表にその文字が浮かんでいるだろう。


「いったい何をニコラに頼んだの?」

「地の利をとるための仕掛けだね。まあ、見ててよ」


 轟音を立てながら、それはやってきた。

 空飛ぶ五つの巨大な煙突。

 そう表現するべきものだ。尻から炎を吹きながら、【強欲】のマモンに突き刺さる。

 そして、驚くべきことにその巨体を浮かして、そのまま飛んでいく。

 先端が、黄金に変わっていくが、それでも飛翔は止まらない。

 半分以上、黄金に変わったころ、ついに推力を失い。【強欲】のマモンは墜落。

 そこは、この国最大の湖のど真ん中だった。

 あまりの大質量が湖に落ちたことで、周囲に津波のようなもので起きて、水没する。


「あれ、いったいなんなのかな?」

「パパの禁じられた発明の一つ、大陸間弾道ミサイルって言ったかな? 自国の領地から他国の領地を狙う武器だね」


 ……あれの設計図を見つけて、ニコラなりに改良したのか。

 あれだけの推力、俺の図面では得られない。

 オルフェの封印術式にも驚かされたが、ニコラにまで驚かされるとは。

 ニコラも俺を越え始めたか。

 父親としては嬉しいが、錬金術士としては面白くない。

 こんな感情を抱く日が来るとはな。

 最高じゃないか。


「パパ、親バカタイムはそこまで。あそこなら、戦えるはずだよね。周囲になんもないし。あいつの力の半分が使えない」

「そうね。いい判断だわ」


【強欲】のマモンは体半分以上が水に浸かっている。

 周囲の黄金化が止まった。

 当然だ、水に浸かっている状態で、黄金化などしようものなら自分も固まってしまう。

 奴の厄介な能力を一つ封じた。

 そのために大陸間弾道ミサイルを使ったのだろう。


「でも、私は飛べるけど、シマヅ姉さんも、クレオさんも湖じゃ戦えないよね」

「どうして? 水の上で走るぐらい問題ないわ」

「同意。近接格闘を志すなら、水の上ぐらいは当然走る」

「いや、それっておかしいから」

「漫才はそこまでにしてよ。あいつが水から出たら、手が付けられなくなるんだから」

「そうだね。お父さん、偽者のスラちゃんたちを呼んで皆を運んで」

「ぴゅいっ!(わかった!) ぴゅいっぴゅる!(こい、スライムファイブ!)」

「「「「「ぴゅいっさ!」」」」」


 偽スラちゃん、精鋭部隊スライムファイブの面々が翼を生やしてやってきて、少しだけ大きくなると娘たちを乗せて羽ばたいていく。

 やっと来た出番に皆興奮している。

 ……そうだな、これだけやる気があるんだ。


 せっかくだし、湖につけば最初の一撃はスライムファイブの新必殺技にしよう。

 五体がかりの精鋭偽スラちゃんの必殺技。

 必要性がないポーズを決めたり、決め台詞を挟んだりするせいで、見た目はひどくアレだが威力が折り紙付きだ。

 あいつを倒す突破口になるかもしれない。


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