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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:【影】のエンライト、クレオ・エンライトは潜む
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第十三話:スライムは殺される

 エレシアが現れて空気が変わる。

 風呂場に忍び込んだときは、まだ次期王としての風格は備わっていないと思ったが、今のエレシアにはそれがある。


「ぴゅいっ!」


 オルフェに動き出すことを伝えるために、鳴き声をあげる。


「スラちゃん、お願いね」

「ぴゅいっぴゅ!」


 エレシアが現れたということは、いつクレオが動いてもおかしくないということ。

 だが、クレオの気配はなく、偽スラちゃん包囲網にも反応はない。

 俺自身も、エレシアが現れてから複数の探索スキルを並行運用していた。

【嗅覚強化】、【聴覚強化】、【気配感知】、【魔力感知】、【熱感知】、【赤外線探査】etc.


 ありとあらゆる魔物を吸収してきたゆえに、無数の手段で索敵できる。

 通常、これだけやって見つからない場合はいないと判断するのだが、クレオが相手であれば、そんな甘い考えはできない。


 エレシアを守るため、彼女の傍に向かう。それも、誰にも気付かれないようにしてだ。

 まずは自らの匂いを消す、そして魔力が漏れないように体の内側に膜をつくり、さらには透明化をする。


 透明化の瞬間に、【収納】に用意しておいた偽スラちゃんを取り出して、俺はオルフェの腕から飛び出す。

 手間をかけて作った、俺にそっくりの偽スラちゃんだ。周りのものが入れ替わったことに気付くことはない。


 さらに今度は、隠密系のスキルを重ね掛けして気配を消す。

 人通りをすり抜けながら、エレシアの隣へと向かっていく。

 目の前をスライムが通り抜けて行っても、この場にいる人々は顔色一つ変えない。

 見えていないし、感じ取ることができない。

 だから、楽々とエレシアの近くで彼女を見守れる。


「ぴゅいっ(わかりやすいな)」


 クレオは証拠を何一つ残さないし、これから暗殺が起こる前兆を見せたりはしない。

 だが、クレオに依頼をした連中はバカ丸出しだ。

 エレシアへの害意を隠せていないし、エレシアに起こる”何か”を期待している様子がありありと見てとれる。

 ……クレオも苦労してそうだな。

 さて、いつ動くか。クレオが動くまではじっとしておこう。


 ◇


 パーティは盛り上がっていた。

 初めは、エレシアが神秘的な雰囲気と、次の王の風格を見せたことで委縮していた貴族たちも我に返っている。

 エレシアに取り入ろうと彼女を囲み、そこから少し離れた場所には王子派の連中がいて忌々し気に見ている。


 次々にエレシアに近づいている貴族の誰がクレオでも驚かない。

 彼女は変装の名手だ。

 そして、エレシアから挨拶があるとアナウンスが流れた。

 エレシアが壇上に向かい、この場にいる全員の注目が集まった。

 その瞬間だった。

 この部屋にあるすべての灯が奪われた。

 完全な闇。


「いったい何があった!」

「明かりをつけろ!」

「きゃああ、どうなってるのよ!」


 こんな偶然はありえない。いくつもの照明すべてがまったくの同時に光を失うなんて。

 魔術ではない。魔術であるなら、発動前に魔力を感じていた。

 これは純然たる、工作だ。

 すべての明かりが同時に消えるようにするなんて、どれだけ緻密な計算と手間が必要だったのだろう。

 そして、そんな真似ができるとすれば、協力者はよほどの大物だ。

 城の中、それも重要人物が集まるパーティ会場に敵を引き込めたのだから。


 俺は光が失われる瞬間には動いている。

 大きく口をあけて、エレシアを丸呑みにして保護。

 さらに暗闇に乗じて、ストックしておいた彼女の魔力と成分を使うことで完全なエレシアへと【創成】で姿を変える。


 わざわざ、この場全員の視界を奪ったのなら、ここで仕掛けてくるはずだ。

 さあ、どこから来る?

 探査系のスキルを使えば、偽物だとばれてしまうだろう。


 だから、己の五感だけで周囲を探る。

 俺の技術をもってすれば、超一流の暗殺者による不意打ちであろうと剣域に入れば察知して、反撃ができる。

 しかし……。

 気が付けば、首から血が噴き出ていた。

 超一流の暗殺者をも超える技能をもって、接近すら悟らせずに首をかき切られてしまったのだ。


 驚いた。かつてのクレオでは不可能な芸当。

 あの子もまだ成長しているのか。


「生暖かいものが!?」

「なんだこれ、気持ち悪い」

「明かりはまだなの!」


 エレシアの姿になった俺の首筋から絶え間なく、姫巫女の血が流れでていく。

 膝をつき、倒れる。

 スライムなので、死にはしないが、人間が今の斬撃を受けたらどうなるかを完全に再現する。

 血が床にぶちまけられた瞬間、大地が揺れた気がする。

 体が冷たくなり、意識が朦朧とする。指一本動かせない。

 光がともる。


「きゃああああああああああああああああああ」

「エレシア様が、エレシア様が」

「早く医者を!」

「だめだ、もう手遅れだ。死んでる」

「ひっ、逃げろ、くせ者がいるぞ!」


 光がともれば、血の海に倒れたエレシアの姿が貴族たちに晒され、パニックになる。

 医者が駆け寄ってきたが、首を振り、よりパニックは大きくなる。

 警備についていたものたちは優秀で、こんな状況でもすべての扉を封鎖し、パニックになった貴族たちを諫める。

 いい判断だ。この中に暗殺者がいる可能性が高い、誰一人外に出してはいけない。


「ふざけるな、殺人鬼がいる部屋になっていられるか! 俺は帰らせてもらう」


 ……まあ、それで納得しない貴族もいるようだが、王女の一大事だけに、警備の兵も折れない。

 どんどん、騒ぎは連鎖していく。

 このままじゃ収集がつかなくなってしまう。


「静まれ!」


 そんな状況で、凛とした声が響く。

 第一王子だ。

 本来、王位を就くはずだった第一王子の一喝で、貴族たちは我を取り戻した。


「見苦しいぞ貴様ら! それでも我がグランファルト王国の貴族か。今するべきことは、そうして喚きたてることではない。我が愛しき妹、エレシアを殺したものを捕らえることだ」


 そう言って、エレシアのもとへ向かい、血に汚れるのもいとわず抱きしめる。

 気持ち悪い……こんなおっさんに抱き着かれても不快なだけだ。でも、我慢だ。


 まだ、目標を達成できてない。

 クレオがわざわざこんな目立つ場所でエレシアを殺さないといけなかったのは、とある獲物を釣るため。


「エレシア、私は誓おう。必ず、犯人を見つけて裁く! そして、エレシアが思い描いていた理想のグランファルト王国を私が作りあげよう!」


 一見、妹想いのいい兄のように見えるが。

 その臭くて下手な芝居の裏にある本音が透けて見える。

 王位を継ぐことができるのがうれしくてうれしくて仕方ないという本音が。

 ……彼は十中八九、今回の件にも絡んでいる。

 直接依頼をするほど間抜けではないが、手助けぐらいはしているだろう。


 王子が、わざとらしく妹への愛をアピールして同情を買おうとしている。まあ、これは王位継承する際に反感を買わないための仕込みだろう。

 やりたいことはわかるが、やりすぎて滑稽だ。


 さて、本当の獲物はまだか。今回の獲物はこんな小物じゃない。

 また、地面が揺れる。

 さきほどと同じ揺れ、ただ、違うのは今度は一度で揺れが収まらない。


 大量に床にぶちまけられたエレシアの血が、床にしみ込み、そして魔法陣を描いていく。

 見覚えがある。かつて、温泉の町ブローンでエレシアが捕らえられた洞窟で見た、巫女の封印の力を反転し、逆に封印を弱めてしまう術式。

 俺は偽物だが、エレシアを完全再現している。

 故に、その血も、血に込められた力も本物だ。

 その血に込められた力が反転していく。


 ……思ったより大物が敵にいるようだ。

 エレシアが巫女姫として封印の力を持っているのは偶然ではない。

 もとより、グランファルト王国の王族というのは、最後の邪神を封印していた一族の末裔だ。


 その力ゆえに崇められ、集落の長となり、その集落が栄えていき、やがて村となり、街となり、国となってグランファルト王国は生まれた。

 そして、この城は封印装置として作られたもの。

 巫女の力を継いだ者が住んでいるだけで、封印の力が強化され続ける。


 本来、エレシアのように巫女の力を受け継いでいるものだけが王位を継げるのだが、いつの間にかそんな風習は消えた。

 このことは、王族以外は知らないはずの情報だ。


 封印の在りかを知られないことこそが、もっとも確実に封印を守る方法だから情報が漏れないようにと数百年前から徹底して隠している。

 俺が知っているのは、封印の術式が壊れかけたことで、先代の王から修復依頼を受けたという偶然からにすぎない。

 エレシアを狙っている連中は、それほどの情報を知り、さらにはこの場所にこんなものを仕込めるような存在。


 ……そして、それこそがクレオが釣ろうとした相手だ。

 エレシアを殺すだけなら、彼女はいつでもできた。

 だが、殺すだけでは意味がないのだ。

 真の目的は、エレシアの死で油断して表に出てくる存在を排除すること。


 つまりは、グランファルト王国の奥深くに根付いた、七罪教団の排除。

 そう、七罪教団しか知らない封印の力を反転する術式を見て、推測が間違っていなかったと確信できた。

 七体の邪神を崇め、復活しようとする一団。

 その本拠地はグランファルト王国にこそあり、グランファルト王国に根を張っていたのだ。


 完全に反転の陣が完成。

 城そのものを使った封印結界が揺れる。

 もはや、封印が壊れるのは時間の問題だろう。

 誰かの高笑いが聞こえた。


「あははははははははは、ついに、ついにやったぞ。最後の邪神を我がものに。巫女姫の力を餌にして、完全な形で邪神は復活する!」


 黒くよどんだ瘴気を纏いながら、壮年の男性が哄笑する。

 彼は、現王の兄だ。

 ……彼が、七罪教団だったのか。

 なるほど、通りであれだけ奴らは好き勝手やれたわけだ。

 それに、邪神について知りすぎていたのも納得できる。


「伯父上、いったい何を! 気が触れられたのか」

「私は至って正常だ。この世界こそが間違っている。これから正す。私が、神の力をつかっ」


 そこまでだった。

 首が落ちた。

 笑ったまま、幸せの絶頂のまま、首が落ちる。


「達成。ようやく、病巣の特定ができた。排除成功。世界平和に一歩前進」


 彼の後ろにいたメイドが、無感情な目で、死体を見下ろしている。

 見た目はクレオと似ても似つかない。だが、間違いなくクレオだ。

 ……クレオが本当に殺したかったのは、初めからグランファルトの病巣だ。


 こうでもしない限り、彼が表に出なかっただろう。

 勝利を確信したからこそ、ようやく自らが七罪教団だと明かした。

 揺れが、さらに大きくなる。

 エレシアが殺されたのは演技だ。だが、流れ落ちた血は本物。

 故に、封印ははじけ飛ぶ。


「困惑。こちらの意図はすべてわかっていたはず。なぜ、封印を解いた。そうしないこともできた」


 その答えは簡単だ。

 もし、封印を守れたとしても、これだけのことが起これば、この城に最後の邪神が封印されていることは公になる。

 そうなれば、いつまだ誰が封印を解こうとするかわからない。

 だからこそ、あえて封印を解いた上で邪神を滅ぼす。

 そのために仕掛けをした。

 今回はほとんどクレオの駒となり動いたが、レオナはただ駒になって動くほど可愛い奴じゃない。


 クレオが描いた、最高の結果、その先を目指す。

 封印が悲鳴をあげる。

 もう間もなく最後の封印が解除されるだろう。

 さあ、この国の病巣、徹底的に取り除こうか。 

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