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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:【影】のエンライト、クレオ・エンライトは潜む
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第十一話:スライムはクレオを追憶する

 いろいろあったが、無事にオルフェたちのもとへと戻ってきた。

 今夜はさすがに疲れた。

 ……クレオ・エンライト。

 あの子は唯一の血が繋がっている娘であり、ホムンクルス、あるいはクローンとでもいうべき存在だ。


 かつて、俺には友人にしてライバルがいた。

 魔法生物を専門としており、彼女は常に一歩前にいる俺を疎んでいた。優秀な女性で、同レベルで会話ができる相手が少ないことで、競いながらも友情を育んでいたと俺は思っていたが、彼女のほうは鬱屈とした感情をため込み続けていた。

 彼女は、自分と俺では基本スペックが違いすぎる。いくら努力してもマリン・エンライトには勝てないと言って、禁忌の発明に手を出したのだ。

 それがホムンクルス。俺と同じ能力を持ち、従順な助手がいれば追い抜けると考えた。

 そして、ただのコピーを作ってしまえば、敗北を受け入れたのと同じと自らの細胞を加え、マリン・エンライトをベースに彼女の特徴を兼ね備えたホムンクルスを生み出した。

 数百体の屍の上に、たった三体だけ成功する。

 その三体を成長促進させ、知識を転写することで自らの助手とし、ホムンクルスたちの助力を得た彼女の研究は大きく躍進する。


 ……ただ、彼女は生命に感情はあるということを忘れていた、ホムンクルスたちが彼女に憎悪を持ち、それが育っていることに気付かず、自分が生み出したホムンクルスに殺された。

 ホムンクルスたちは許せなかったのだ。自分と同じ存在が複数いることが。だから、さらに自分を増やそうとする創造主を殺し、そのあとはホムンクルス同士で殺し合い。最後の一人になったのがクレオ。

 それが終わっても、クレオは止まらなかった。自分と同じ存在はもう一人いる。……そう、ベースとなったマリン・エンライトが。

 だから、彼女は俺を殺しに来た。

 自分という存在が、世界でたった一人であるために。


「ぴゅい」


 そして、その目論見は失敗した。

 彼女は、確かに俺の血が流れていた。俺を凌ぐ存在としてデザインされただけあって素質やスペックでは俺を上回っている部分が多い。

 それでも、経験も知識も技術もまるで足りなかった。

 ゆえに、俺を殺すことなどできず、知能が高い故に何度繰り返しても無意味だと気付いた。


『することがなくなった』


 感情のない瞳でそう告げると立ち尽くした。

 作られた彼女にとって、同じ存在がいることの不快感を拭うこと、それだけしかやりたいことがなく、それが不可能であれば生きる意味はない。

 そのときの俺には、彼女が迷子のように見えた。

 そして、少なくとも俺が友だと思っていた彼女が最後に残した研究成果を消したくなかった。

 だから、こういったのだ。


『その腕では、俺は殺せない。り方を教えてやろう』


 それが唯一、彼女が再び歩き出せる道だと知って。

 彼女は頷き、【影】のエンライトになる道を歩き始めた。

 それから、いろいろあった。

 境遇が境遇だけに、他の娘たちと会わせるのは危険だと判断して、オルフェたちには隠して育て、鍛えた。

 ある日、クレオはこう言った。


『困惑。今は父を殺したくない……だから、何をしていいかまたわからなくなった』


 どうやら、俺と過ごしているうちに家族愛というものが芽生えたらしい。

 だが、それはクレオのやりたいことを奪う結果になり、再び生きる意味を彼女は見失った。

 だから、クレオを生み出した彼女が、かつて友だったころに大真面目な顔で語った夢を思い出した。

 それは、到底実現することなんてできなくて、でも終わらない目標だからこそクレオの道しるべになる。


『なら、世界平和なんてものはどうだ?』


 クレオはこくりと頷き、そして彼女の目的は世界平和へと変わった。

 きっと今もそのために動いている。……俺が教えた暗殺術を使って。


 ◇


 屋敷に戻ってくると、オルフェが頬を膨らませて待っていた。


「スラちゃん、遅いよ。心配したんだからね」

「ぴゅいっ(ごめんなさい)」


 ただでさえ、エレシアとのふれあいタイムで時間を消費した上に、クレオと会っていたものだから予定よりずっと帰ってくるのが遅くなった。


「でも、無事に帰ってきてくれて良かった。晩御飯温めなおすね!」

「ぴゅいっ!」


 晩御飯抜きにされなくて良かった。

 オルフェの美味しいご飯はスライム生の中でもトップクラスの楽しみだ。

 オルフェが俺を胸に抱きかかえてキッチンへと向かう。

 ある一角を通ったときに、ちくりとした感覚が走る。結界だ。

 ここより先はエンライトのものだけが使う部屋であり、各種結界が用意されている。

 なので、家族以外には聞かれたくない話もできるわけだ。


「お父さん、エレシアちゃんはどうだった? ……気のせいかな、すっごくエレシアちゃんの匂いが染みついてる気がするよ」


 オルフェの腕から抜け出して、【創成】の力で少年になる。


「無事、エレシアに変身するのに必要なものは収集した」

「さすがはお父さんだね。……エレシアちゃんにエッチなことしてないよね」

「するわけがないだろう」


 ジト目でオルフェが見てくる。

 神に誓ってやらしいことなんてしていない。スライム触手で倒れないように支えたり、彼女に抱っこされたぐらいだ。

 可愛いスライムとのスキンシップ。いやらしさなどみじんもない。


「嘘だったら、承知しないからね」

「もちろん、嘘などついていない」


 娘が怖い。

 まさか、これが反抗期と言う奴じゃないだろうか?


「あっ、オルフェお姉ちゃん。やっとパパが帰ってきたんだね。お腹ぺこぺこだよ」


 レオナが柱の角から顔を出す。少し前からこちらの様子をうかがっていたようだ。

 気になるのが、さっき、一瞬だけ邪悪な笑みを浮かべていたこと。……いや、きっと気のせいだ。


 ◇


 リビングに行くと姉妹全員が集まっていた。

 どうやら、俺の帰りをみんなで待っていてくれたらしい。

 オルフェが温めたスープとパン、それにメインの鶏肉料理が並ぶ。

 相変わらず、オルフェの料理は絶品だ。

 食事をしながら、エレシアは元気そうにしていたこと、そしてクレオと会い、彼女の言っていたことを伝える。

 オルフェたちが首を傾げるなか、レオナだけが頷いた。


「パパ、ようやく繋がった。クレオのしようとしていることがわかったよ。……うん、これなら確かにパーティ当日まではエレシアは殺せないし、私たちがクレオの邪魔をする必要もない。初めは、ただの王位継承権をめぐる争いだと思ってたけど、それを隠れ蓑にして動いている連中がいる。……そいつらを引っ張りだすには、それが必要ってわけだ」


 おそらく、俺たちがこうしている間もレオナは情報を集め続け、クレオのセリフでようやく最後のピースが揃ったのだろう。


「レオナ、一人だけで分かったような顔をしない。ニコラたちにも話すべき」

「そうね、あまり気分は良くないわ」


 ニコラとシマヅが文句を言うが、レオナはしばらく考え込む。


「……あんまり余計なことを言うと暴走されそうでやだね。ちょっと、私を信じてしばらくは静観してくれないかな? わりとデリケートな局面だし」

「わかった。レオナがその必要があるというならニコラは従う」


 ニコラとレオナはよく喧嘩するが、お互いの分野における能力については心の底から信頼している。

 だから、こうしてレオナが必要と言えば、その先をニコラは聞かない。


「あと、シマヅお姉ちゃんに頼みがあるの」

「いいけど、何かしら?」

「私の想定が当たってると、エレシアもまずいけど、オルフェお姉ちゃんも狙われるかもしれない。シマヅお姉ちゃんはオルフェお姉ちゃんから離れないで」

「わかったわ」

「私なら大丈夫だよ。こう見えて強いんだよ」

「そのことを否定しないけど、あくまでオルフェお姉ちゃんは、【魔術】のエンライトで戦闘のプロじゃないからね、そのことを忘れないで」


 ……たしかに言われてみればオルフェも危険だ。

 実のところ、俺もだいたい読めてきた。

 ならば、エレシアだけじゃなくオルフェが狙われてもおかしくない。

 真の敵にとって、もはやたった二つしか拠り所は残されていないのだから。


「さてと、やっと情報は出そろった。……あとはどうやって駒を使うかだね。腕がなる」


 レオナの目が大胆不敵な色を含む。

 今までは目隠しした状態でその手腕を振るうことができなかったが、これからは違う。


「それからね。……私ってわりと洞察力、とくに人の顔色を見るのは得意なんだけど、昔からパパの心を読むのだけはできなかったんだ。隠すのがうますぎて」


 それはそうだろう。

 表情筋の動き、発汗、匂い、体温の上昇、仕草、ありとあらゆるサインから人の心の見抜き方を教えたのは俺だ。

 それを知っているからこそ、それらをコントロールすることで感情を読んでいるつもりの相手に対し、こちらの意図通りに読ませることもできる。


「でもね、【創成】で変身している間はさすがのパパも微調整が効かないみたいで読みたい放題なんだ」


 なにせ、変身すること自体に大きなリソースを使っている、そのうえで細かいことをするのは難しい。


「レオナ、まわりくどい。早く結論を言って」

「ニコラは相変わらずせっかちだね。さっき、オルフェお姉ちゃんの質問で、エッチなことはしてないって返事したけど。それ、嘘。パパはエレシアに可愛いスライムの外見を利用してエッチなことしたっぽいよ」


 娘全員の視線が集まる。

 とても視線が痛い。

 急いで、スラちゃんに戻る。


「ぴゅぅ~ぴゅぴゅぴゅぅ~♪」


 僕、スライムだから言葉が分からないよ!


「お父さん、毎回それで逃げられるって思ってるのはいくらなんでも甘いんじゃないかな?」

「スラになってからエッチになってたと思ったけど、ここまでとは」

「エッチなことをするなら、私たちにすればいいのに。嫉妬するわね」

「お父様に教育なんてできませんでしたけど。スラさんにお仕置きと躾なら問題ありませんわね」

「ぴゅっ、ぴゅひいいいいいいいいいいい」


 逃げようとするが、オルフェの【隷属刻印】で縛られる。

 いったい、俺が何をしたって言うんだ。

 心細そうにしていたエレシアを慰めただけだと言うのに。


「スラちゃん、お部屋行こうね。今日の夜は長いから」

「ん。その姿になったってことはスラとして扱ってほしいっていうこと。たっぷり可愛がる」

「ぴゅい……」


 何か、とても嫌な予感がする。

 ……そして、その日は五人の娘たちにたっぷりとお仕置きされた。

 ぴゅふぅ。大満足。いや、違った。ごほんっ、深く反省しよう。

 

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