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スライム転生。大賢者が養女エルフに抱きしめられてます  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:【王】のエンライト、レオナ・エンライトは率いる
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第十五話:スライムは救出する

 地下施設への侵入が始まった。

 前回の襲撃がばれたせいで見張りが増えて、困難なミッションになるかと思っていたのだが……。


「スラちゃん、もうシマヅ姉さんだけでいいんじゃないかな?」

「ぴゅいっ……(そうかも)」


 シマヅが圧倒的な速さと隠密性で、見張りたちを瞬殺するおかげで、楽勝だ。


 見張りたちは自分が倒れる瞬間まで襲われていることを認識すらできていない。

 それが可能なのは、シマヅのキツネ故の圧倒的な柔軟性が可能にする無音高速移動。

 それだけではなく、魔力による身体能力と気での強化の併用が大きい。

 魔力と気の制御を同時かつ完璧にできるものは、そうそういない。

 見張りの始末を終えて、シマヅが手招きしてくるので俺たちは走る。


「歯ごたえがない敵ばかりね」

「どっちかって言うとシマヅ姉さんが強すぎるだけだと思うよ」

「私の見せ場でかっこいいところを見せられて良かったわ。ここから先はオルフェの見せ場よ。広範囲破壊は、剣士には向かないの」

「そっちは私がなんとかするよ。そのための準備もしてきたしね」


 姉妹には得て不得手がある。

 シマヅの場合、どんな強敵だろうと切り伏せるだけの強さがあるが、広範囲攻撃はできない。せいぜいニコラが持たせてくれた手榴弾を使うのが関の山。

 だけど、オルフェの場合は儀式魔術を使用することで広範囲を大火力で殲滅できる。

 逆に、相手が強敵の場合には苦労する。攻撃を当てられないし、詠唱が終わる前に潰される。

 ある意味、シマヅとオルフェのぺアは最強で隙がなくなる。


「ぴゅいっ、ぴゅいっ!(ボス、この先に奴がいます)」


 スライムフォーに新加入したスライムイエローが鳴き声をあげる。


「黄色いスラちゃん。この先に化け物がいるんだね」

「そうなの? なら、スマートにいくわ」


 シマヅが頷くと、扉を少し開いて手榴弾をポーチから引き抜いて、中に投げ込み、すばやく扉を閉じる。


 あれは破壊を目的にしたものじゃない。

 爆発音が扉越しに聞こえる

 そして数分待ってから中に入る。


「さすがはニコラ謹製の睡眠弾ね。突入時には重宝するわ」


 シマヅが使ったのはニコラが開発した睡眠ガスを散布するための手榴弾。

 こういう密閉空間であれば、あっという間に中にいる人員を眠らせることができるので非常に便利だ。


 オルフェが風の魔術で催眠ガスを押し流す。

 そして、俺たちが倒すべき存在を見上げる。


「あれが、カッチャクッチャ。気持ち悪い見た目だね」

「そうね。それに大きすぎて切り刻むのは骨が折れそう」


 巨大な屋敷ほどもあるピンク色の蛇がうごめいている。

 今から、あれの口の中に侵入する。


「ぴゅいぴゅっ!(いくぞ!)」


 正直、あの体内に入るのは気持ち悪いが我慢だ。


 ぶっちゃけた話をすれば、あれを破壊するだけならここでじっくりと儀式魔術を用意してブチかませばいいが、そうすれば中に捕らわれている人間まで皆殺しにしてしまう。


「ええ、準備はいいわ」

「私も行けるよ」

「ぴゅいっさ!」


 みんな引きつった顔だが覚悟は決めたようだ。

 オルフェが風に乗って飛翔し、スライムイエローと偽スラちゃんが翼を生やす。


 俺も同じように翼を生やして、飛行できないシマヅのお腹にスライム触手を巻き付ける。

 パワーアップした俺なら、一人を抱えて飛ぶぐらい余裕だ。


「スラさんの触手、ひんやりして気持ちいいわね」

「ぴゅいっ!」


 娘に触手を巻き付けるのに、若干背徳感を感じながら力強く飛翔した。


 ◇


 クッチャカッチャ吸収体の体内を進んでいく。

 スライムイエローが道案内をする。

 歩きながらオルフェが風の魔術を使い、探索を行う。


「……人間が捕らえられているのは一か所だけみたい」

「良かったわ。スラさんの話では肉の木から切り離せば、侵入者を排除しようとするみたいだし、散っていたら面倒だったもの」


 懸念の一つが消えた。

 シマヅの言う通り、捕えられている場所が散っていれば非常に面倒だ。


 クッチャカッチャ吸収体は体内に侵入者がいてもなんの反応もないが、気付かれたら最後、捕えている人間の複製を体内で作り出して撃退しようとしたり、体内の肉を変形させて襲い掛かってくる。


 全方位から襲撃されるし、逃げ場も簡単にふさがれるため、対処には苦労する。

 だから、俺たちの作戦はシンプル。

 肉の木がある部屋にたどり着き、内側からクッチャカッチャを殺せるだけの術式を作り出したのち、シマヅとスライムチームが一瞬ですべての人間を切り離し、大規模破壊魔術をオルフェが放つ。


 それでクッチャカッチャが死ねばベスト。死ななくても最低限、俺たちが脱出する穴を作り、そこから外に出て攻撃を加える。

 中で戦うより、外に出たほうがずっとましだ。


「ぴゅいっ、ぴゅっぴゅ!(油断はするな。前回と違い、今すぐ攻撃してくることもありえる!)」

「うん、ちゃんと警戒はしておくね」

「……オルフェ、それでわかるの?」

「なんとなく。スラちゃんは油断するなって言ってるよ」

「うらやましいわね。もうすぐ極東での仕事が終わるわ。そしたら、オルフェみたいに言葉がわかるぐらい一緒にいたいものね」

「ぴゅいっ!」


 シマヅが帰ってくるのは喜ばしいことだ。

 彼女が帰ってきてくれるのならそれぐらいのサービスをしよう。


 ◇


 しばらく探索を続け、何事もなく肉の木が生い茂る部屋にきた。

 改めてみると壮観だ。

 数えてみると、五十三人が捕らえられていた。


「これで全員だね。改めて風で周囲を探したけど、ここにいる以外に生きてる人はいない」

「わかったわ。なら、救出班は役割分担をしましょう。オルフェは術式をお願い」

「うん、任せて」


 オルフェが陣を刻んだ水銀を床に撒く、すると水銀が刻まれた記憶に従って陣を描いていく。

 儀式魔術を真面目に行えば、二、三日かかるが、陣を作るための魔術と魔道具を作ることで短時間で儀式魔術を放つ。


 これは、俺とオルフェが共同で開発した技術だ。

 突き詰めていけば、俺のように空中に多重結界を形成し、瞬時の儀式魔術まで行えるが、オルフェはその手前にいる。


 さらにオルフェは陣の要所要所に、自らの魔力を循環させ閉じ込めたガラス玉を配置した。

 これも高等技術。魔力は絶えず流れるために留めておくのは難しい。だからガラス玉の中を円を描くように循環させ続けていくことで拡散を防ぐ。こんな芸当ができるのは世界に十人もいないだろう。


 精密かつ大規模な魔方陣と、外部の魔力。その二つにより通常では考えられない威力の魔術が可能となる。


「だいたい、救出の受け持ちが決まったわね」


 シマヅを中心にして、十秒以内にすべての人間を救い一か所に集めるための分担が決まった。

 全体の七割をシマヅが受け持ち、三割をスライムチームが連携プレイで行う。


「……シマヅ姉さん、私の儀式魔術は準備が終わったよ。術式を開始したら、十五秒後に発動する」

「わかったわ。スラさん、他の皆さんも配置について」

「ぴゅいっ!」

「ぴゅいっさ!」


 全員の準備ができた。

 オルフェが魔方陣の中央で深呼吸する。


「あっ、大事なことを言い忘れてたよ。儀式魔術とは別に、もう一つ陣があるよね。術が発動したときに、そっちの陣の中にいないと死んじゃうから」

「……オルフェ、その言い忘れはひどすぎないかしら?」

「ぴゅいっ、ぴゅいっ!(そうだ、そうだ!)」


 とりあえず騒ぐ。

 実のところ、魔方陣を見たときにそういうものだと気付いていたので初めからそのつもりだった、これはノリだ。


「ごめんなさい。陣を準備するのに必死だったんだよ」


 まあ、これだけ物騒で精密な操作が必要な魔術だ。

 そっちに夢中になっても仕方ない。

 シマヅが救出部隊に目くばせを送り、俺たちが頷いた。


「オルフェ、始めなさい」

「うん!」


 そうして、救出作戦と破壊作戦が同時に始まる。


「ぴゅい、ぴゅいぴゅ!(スラメタルウイング!)」

「ぴゅいぃぃぃぃ!」


 俺とスライムイエローは新技であるスラメタルウイングを展開する。

 それは【飛翔Ⅱ】の翼を鋭利な刃にし、オリハルコンを纏わせることで、飛行しながら切り刻むことができる優れもの。


 肉の木の合間を飛行しながら斬り飛ばし、そして解放された人間たちを他の偽スラちゃんたちがせっせとオルフェが作った陣へと運んでいく。

 そして、シマヅは雷速で肉の木を斬り、無造作に救出した人間を投げているが、凄まじいコントロールで陣の中にいれていく。

 五十三人、すべての救出が完了するまで十一秒しかかかっていない。

 どくん、クッチャカッチャの体内が鳴動する。俺たちの侵入に気付いたようだ。


 だが、もう遅い。

 オルフェの術式は完了間近だ。

 巨大な魔方陣が強い光を放つ。オルフェの渾身の魔力と外部バッテリーのガラス玉から放たれた魔力が陣を駆け巡る。

 そして、術式が完成する。


「【水槍乱舞】」


 それは水の槍を無数に作り出す魔術。

 一件、地味に思えるが、これの特徴は周囲全ての水分を槍へと変えて、全方位に飛ばすこと。


 その水分とは、クッチャカッチャ自身の水分まで含まれる。

 体内の水分が奪われ、自らを傷つける刃となって四散していく、まさに必殺の魔術。

 もし、オルフェが用意した陣の中にいなければ、俺たちの水分も残らず奪われていただろう。

 クッチャカッチャの粘液で出来た桃色や赤色の氷柱により内側から破壊が広がっていく。


「我が妹ながら、容赦ない魔術を使うわね」

「ぴゅいっ」


 純粋に破壊力を求めるだけなら炎系の魔術だろうが、この密閉空間で使えば、酸素を焼き尽くし、中の俺たちもやばい。

 だからこそ、【水槍乱舞】を使ったのだろう。

 これで殺しきれる。

 そう思ったときだった。


「おかしい、水の支配が奪われてる!? 私以上の強制力、だめ、破壊しきれない。ならっ」


 オルフェが慌て始める。

 そして、全方位に広がる力を一点に集中した。

 それにより、大穴が空き、肉の壁の先、外の風景が見えた。


「もう、陣から出ても大丈夫。外に、みんなを連れていって!! 早く!」


 俺とシマヅとスライムイエローは救い出した人間たちを外へと運び始める。

 シマヅはオルフェが開けた大穴をニコラの手榴弾を放り投げてさらに拡大した。

 俺は体内の偽スラちゃんたちと合体して巨大化しながら変形、巨大なチューブとなる。

 スライムイエローと偽スラちゃんたちがそのチューブに次々と救い出した人間たちをチューブの中に放り投げ、滑り台のようにチューブを通って安全に放り出される。


「ぴゅひっ!?」


 チューブが締め付けられてつぶれそうだ。凄まじい力。

 クッチャカッチャの肉がとんでもない勢いで修復されている。

 ここだけじゃなく、オルフェによって内側からずたずたにされた肉壁から新たな肉が盛り上がっていた。


 異変はそれだけじゃない。

 周囲の肉から、次々に攻撃が始まった。

 シマヅがオルフェを襲う触手を切り払っている。

 俺も攻撃を受けている。肉の槍が貫こうと突き刺さるが、根性でチューブを維持する。


「ぴゅひいいいいいい、(やっと終わった)」


 五十三人、全員を外に運び出した。

 ついでにスライムイエロー以外の偽スラちゃんすべてに外へ出るように命じた。

 外に出た偽スラちゃんたちにこの五十三人を運ぶように指示を出す。

 まだ、見張りたちは気絶しているはずだ。偽スラちゃんたちなら、彼らを連れ出してくれる。


 我慢の限界が来た。チューブが潰されて槍に全身を貫かれる。ひどいありさまだが、俺はスライム別に潰されても貫かれても形が変わっただけだ。

 ……だけど、シマヅとオルフェも外に連れ出したかった。それができなかったのは無念。諦めて変形を解く。


「……思ったより化け物だったね。まさか、私の儀式魔術が真っ向から破られるなんて。ちょっと自信をなくしちゃうよ」

「そうね。でも、とらわれた人を救うという目的は果たせたわ。内側からの破壊に失敗した以上、次は脱出よ。オルフェ、私が守るから、もう一度大穴を空けて」

「やってみるよ」


 肉の槍、肉の人形の猛攻は続いている。

 とはいえ、シマヅならオルフェを守れるし、オルフェなら時間をかければ大穴を空ける魔術を放てる。


 シマヅが言ったように、肉の木からすべての人間を解放したので目的の大半は果たした。

 これができていれば、クッチャカッチャを倒せなくても、奴らの傀儡がいなくなった王城に、レオナが王族を連れて凱旋すれば権力を取り戻せる。

 足手まといがいなくなった俺たちは楽に逃げられるはずだ。

 予想外の事態だが、何も問題がない。


 だと言うのに、ひどく嫌な予感がしていた。

 ……オルフェの儀式魔術を真っ向から敗ったからくり、それが気になる。

 そんな真似ができるとしたら、大賢者マリン・エンライトと同等の魔術士ぐらいなのだ。


 いざとなったら、【邪神】の力を使おう。

 今まで、相性のいい【分裂】以外は使わないようにしていた、それ以外の【邪神】の力を使えば【邪神】に染まり、取り返しのつかないことになる予感があったからだ。

 だが、出し惜しみをしていられない。そんな状況に変わりつつある。長年の戦いで鍛え上げられた勘がそう言っているのだ。


 

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