金太郎(もうひとつの昔話13)
山奥の村。
そこに金太郎という元気な男の子がおりました。
遊び相手は山に住む動物たち。
毎日、金太郎は山の動物たちとすもうをとって遊んでいました。
この金太郎。
大きなクマをも投げ飛ばす、村きっての怪力の持ち主であり、マサカリで木を切り倒し、谷川に丸太の橋もかけたこともありました。
ある日。
谷川にかけられた橋が台風で流され、山の動物たちはたいそうこまってしまいました。この谷川を渡らなくては、となりの山に行くことができないのです。
「よし、おいらが新しい橋をかけてやる」
金太郎はマサカリをかついで、さっそく谷川のそばにある大きな木の前に立ちました。
「この木を切り倒して向こう岸に渡せば、りっぱな丸木橋になるぞ」
「さすが金太郎さんだな」
「金太郎さん、たのんだぞー」
動物たちが見守るなか、金太郎はマサカリを勢いよく振り上げました。
「がんばれ、金太郎さーん」
「金太郎さーん、がんばって―」
動物たちの声援が飛びます。
金太郎は木の根元に向かって、マサカリを力いっぱい振りおろしました。
ところがです。
「あっ!」
マサカリは金太郎の手をすべり抜け、下を流れる谷川まで飛んでいきました。さらに運悪く、深いよどみの中に沈んでしまいました。
「だいじなマサカリが……」
金太郎はいそいで谷川にかけおりました。
動物たちもあとに続きます。
長いこと。
金太郎は深いよどみを前に頭をかかえていました。
「どうしよう」
動物たちもオロオロするばかり。
みんな、水にもぐるのは苦手なのです。
と、そのとき。
谷川のよどみにブクブクとアワが浮き出たかと思うと、その中心に緑色の顔があらわれました。
ここに住まう河童です。
「だれだ! マサカリを投げ入れたのは?」
「この金太郎が落としました」
金太郎は前に進み出て手をあげました。
「おぬし、金太郎と申すのか?」
「はい、金太郎です」
「金のつく名。ならば、この金のマサカリはおぬしのものであろう」
河童が金のマサカリを見せます。
「いいえ、ちがいます」
金太郎は正直に首をふりました。
「ふむ。では、これか?」
河童が銀のマサカリを見せます。
「それもちがいます」
「ふむ」
河童の顔がみるみる間に赤くなりました。それから岸辺に上がってきて、金太郎に歩み寄ります。
「では、これだな?」
河童は体の向きを変え、甲羅に突き刺さった鉄のマサカリを見せたのでした。