はじまり
「何故、そんなことが分かる?」
「そういう運命ネ」
・・・理解できない。しかし、運命・・、そんな不確かなものに、私は何かを期待した。あの子供に会いたいと考えた訳ではない。ただ、大切な探し物が見つかりそうな、そんな不思議な予感がした。そして、半月が過ぎた頃、やはり彼女の予感は現実となった。
暗く沈んだ雰囲気が漂う、怪しげなビルを挟んだそこに、あの子供はいた。
階段下で小さくなって、私が近づいてもピクリとも動かない。やっと顔を上げたかと思えば、その目は困惑に満ちていた。・・・あの時とは逆だな。私も、こんな顔をしていたんだろうか。
「何をしている?」
差し出した傘に、瞳が大きく揺れた。
「雨が降っているが」
・・・零れる。子供は、涙を流して私を仰ぎ見る。泣いている。・・・また、泣いている。壊れたように大粒の涙が流れるのを、私はただ眺めた。
「・・私がわかるか?」
「・・・・・」
返事の代わりに、小さな肩が震えた。縋るように伸びて来る手を、私は握り返した。それで正解だったのか、子供は泣き止む。
「私と来るか?」
「うん」
私が何者かわからないだろう。それでも、子供は頷く。何故か・・・?わからない。もっとわからないのは、この貧弱そうな生き物を、私が連れて帰ろうとしていることだ。得体の知れない何かが、突き動かす。一体何だというのか、これは。