はじまり
「・・私が神というのは?」
「それも忘れたネ?同じ匂いする、間違いないネ」
そう言ってケラケラと笑うと、彼女は私の顔を指さす。
「匂い?」
「そうネ。神の匂い」
「・・・下らない」
「神がいたら変ネ?人がいて、どうして神はいないと言えるネ?信じるかどうかはアンタ次第ネ。・・・コッチで生きるつもりなら、戸籍も必要ネ。子供の為にもネ」
「戸籍?」
「名前、いるネ。・・・名前あるネ」
首をかしげると、彼女は私が手に持った傘に視線を移した。目を見開いて、何かブツブツ呟いている。やはり、不気味な女だ。
「これは借り物だ」
「知ってるネ」
「・・・・?」
知ってるとはどういう意味だ。まるで、私の見てきたもの全てを見透かしているような目。落ちつかない気持ちになった私は、視線を逸らした。
「一週間後には旅立つネ。それまでに色々教えないとネ。その子供のこともネ」
「貴方はこの傘の持ち主を知っているのか?」
「知るわけないネ。・・匂いが残っているから分かっただけネ。それは悪魔の匂いネ」
・・今度は悪魔か。
「悪魔?」
胡乱な眼差しでいれば、彼女はニヤリとほくそ笑む。そんな態度に、少なからず苛立つ。知らないことが無知であり、恥だと笑われているような気がした。
「そうネ。そして、予感がするネ。予感は当たるネ。・・その子供に、近いうちに再会するネ。これは絶対ネ」