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死神の口説き方  作者: 海水
第1章 王都へ向けて
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第7話 王都セネド

 どんどん迫ってくる灰色の城壁が王都セネドに近づいてるって事を教えてくれる。近衛騎士のひとりが「知らせてきます」と言って馬車の先に駆けて行った。

 大きなアーチを描く王都の入り口に辿り着くと馬車は向きを変えて脇のちょっと控えめで小さな入り口に向かった。


「王族並びに騎士団などが使用する入り口です」


 御者のアサルさんが教えてくれる。近衛騎士よりアサルさんの方が信用できるから、あたしとしては嬉しい。

 入り口脇には近衛騎士服を着た人が数人整列して待っていた。


「ご苦労さん!」


 コルネリウスさんが手を挙げて労いの声をかけてる。馬車は速度を落としたけど止まることなく王都の入り口を通過した。近衛騎士の前を通るときには一応ペコリとお辞儀をしておく。一応ね。

 近衛騎士達はみんな整った綺麗な顔をしてるけど、アサルさんを見ると露骨に嫌な顔をする人もいる。嫌われてるのは何なんだろう?





 馬車はそのまま王都の石畳の大通りを、馬のひづめの音を響かせてゆっくりと進んでいく。道は広く、よく整備されている感じ。建物は石造りで頑丈そう。

 お店とか住宅が多く、道行く人も沢山いて活気がある。うちの領地とは大違い!

 窓にかぶりつきでワクワクしながら眺めちゃう。


「活気があるわね~~」

「ここは王都の外周区で一般市民の居住区になります。この先の城壁を超えると一部の豪商や貴族、騎士達が住む内区になります」


 アサルさんが声を大きくして細かく説明してくれてるのをあたしは嬉しい思いで聞いてる。この声は、あたしがずっと求めてた声と一緒だもの。夢でしか聞けなかった声が今は自分の耳で聞くことが出来るんだもん、嬉しいに決まってるじゃない!


「よいしょっと」

「ちょっと、お嬢様!」


 あたしはルティの静止も聞かずに窓から身を乗り出した。


「あたし達が住むとしたらこの先の内区なんですか?」


 御者をやってるアサルさんに質問をぶつける。だって沢山話をしたいもんね!


「イシス様とルティ嬢は王城で生活する事になります。王妃様の侍女となられますので。イシス様専属侍女のルティ嬢も同様です」


 アサルさんは一つ一つ丁寧に答えてくれる。あたしの頬はついついだらしなく緩んじゃう。

 えへへへ~、ついでに色々聞いちゃおう。


「アサルさんは何処に住んでるんですか?」

「……私は親衛騎士なので王城内で生活しております。常に陛下の御側に控えて、外出の折にはお供します」


 わぁ、一緒に王城で生活するんだ! じゃあ会う機会も多くなるわね。それに親衛騎士って王族を守るためのロイヤルガードって言ってたから、陛下の近くにいるのね! あたしは王妃様の侍女だから会える機会も沢山ありそう! 


「へぇ~そうなんですか~顔を合わせる機会も多そうですね!」


 そんなことを話していたら二つ目の城壁を潜るところだった。





「ここから先が内区になります」


 綺麗に煉瓦を積み上げられた、ガッシリした造りの2枚目の城壁を抜けるとそこは今までとは違って上品な造りの街並みが広がっていた。石造りは変わらないけど意匠が凝ってるの。建物の色も落ち着いてるけど赤やオレンジ、茶色みたいに暖かい色が多い。

 一定の間隔で街頭が立っていて夜も明かりが灯されてるってのが分る。街路樹もあって道端には花壇もある。冬だから花は無いけど春になればきっと綺麗ね。


「すっごぉぉぉい!」


 あたしの感想は単純だ。だってこれくらいしか思いつかないんだもの。

 左右に並んでるお店もさっきの外周区に比べるとお上品な店構えで中の店員も服装がかっちりしてる。貴族向けのお店なのかしらね?

 歩いてる人も服装が上品だし、歩く仕草も品がある人が多い。あたしだって貴族の娘だもん、品がある人は見ればわかるわ!


「この内区にウィザースプーン公爵家のお屋敷もあります」


 お父様が生活してる屋敷ね。出来れば行きたくないわ。


「イシス様、そろそろ中にお戻りになった方が良いです」

「そうですよお嬢様。ここは貴族も多く外出する場所ですから。お館様の耳に入ると煩いですよ」


 アサルさんとルティに言われちゃったら馬車の中に戻るしかないわね。でもアサルさんとお話し出来ちゃった。やったね!

 脇にいる近衛騎士の眼つきが更に険しくなった気がするけど、気の所為よね。





 馬車は内区の大通りを蹄の音を響かせて進んで行く。ウィザースプーン公爵家の紋章があるからか道行く人も馬車を見てくる。チラチラ見てくる視線を気にしない様におすましして座ってる、お人形さんみたいな、あたし。


「はぁぁぁ。そうやっておとなしくしているとお人形さんの様に美しくて鼻血が出るくらい愛くるしいんですが」

「悪かったわね、お転婆で!」


 ルティが盛大なため息と一緒に「あー勿体ない」って視線を投げかけてくる。あたしはアサルさんに見て貰えれば良いの。これから頑張って見てもらうんだから!


「そろそろ王城に着きます」


 アサルさんの声に弾かれるようにあたしは馬車の窓にかぶりつき、身を乗り出して前方を見る。ねずみ色した高い城壁のその上に、真っ白でのっぽのとんがり塔が見える。城壁にある大きな門が閉まってて、その前には胸に鎧を付けた兵隊さんが沢山いる。城門を守ってるのかしら?

 馬車がゆっくりと速度を落としていく。


「親衛騎士アサル・コウンカルエムだ。イシス・ウィザースプーン様をお連れした。開門を願う」


 馬車が止まりアサルさんが大きな声で叫ぶと兵隊さんの中の髭のおじさんが近づいてきた。怪しい奴は通さない!って感じの、ちょっと怖い顔の偉そうな人だ。


「あ、あの、こんにちは」


 髭のおじさんの顔が怖いから引きつっちゃってるけど、にっこりと挨拶をした。髭のおじさんは一瞬口を開けたけど、直ぐに「かいもーん!」と叫んでくれた。あたし、変な顔してたのかしら? 思わず首を傾げちゃう。

 メキメキと壊れそうな音を立てて巨大な両扉の城門が開いて、少しずつ向こう側の景色が見えてくる。ゆっくりと馬車が動き出すと城門を守る兵隊さんの前を通過していった。

 第一印象が大事よね!ってことで愛想笑いだけどにっこりしておく。皆あたしの顔を見てポカーンと口を開けてる。そんなに変な顔してるのかしら……自信なくなっちゃうわ。

 城門を超えれば、目の前には巨大な真っ白いお城が聳え立っていた。窓が縦に4つも並んでてそれが横に数えるのも面倒なくらい沢山並んでる。

 お城の周りのは広い堀があって、目の前の石造りの橋でしか中には入れない様になってた。馬車がゆっくり進んでる広場には色々な紋章が描かれた馬車が所狭しと並んでる。


「あ、うちの馬車がある」

「お館様ですね……」


 お父様が来てるんだ。まぁ仕事で王城に勤めてるんだから当然なんだけどね。折角盛り上がってた気分がなんだか重くなっちゃったなぁ。





 馬車が石橋の手前で止まって、アサルさんが御者席からさっと降りて来た。


「ここからは徒歩になります」


 そう言いながら馬車のドアを静かに開けてくれた。最初にルティが、次にあたしが降りる。目の前には巨大な白いお城。壁に遮られてるのか、冷たい風も吹いてない。冬だって言うのに花壇には花も咲いてる! 


「凄い、流石王城!」


 思わず叫んじゃった。恥ずかしい……

 アサルさんが右手を左胸に当ててゆっくりと騎士の礼をした。


「王城へようこそ」


 優しいテノールの声があたしの耳にふんわりと届いた。

お読みいただきありがとうございます。

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