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死神の口説き方  作者: 海水
第2章 侍女イシス
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第1話 侍女仲間

2章開始です。

 頭が混乱しながらもアサルさんの案内で王城の廊下を歩いてる。あたしもルティも分からない事で頭がいっぱいでお互いに言葉を発してない。

 いくつ角を曲がったか分からない程歩いてとある扉の前にたどり着いた。この部屋で侍女長から説明があるんだって。あたしと一緒に侍女になるふたりも説明を受けるみたい。

 そのふたりはあたしよりも先に王城についてたけど、今まで何も説明されてなかったんだって。王城って色々と面倒なのね。

 アサルさんが扉をノックして名乗ると「どうぞ」と中から女性の声で返事が返って来た。どんな人達なんだろう。どっきどきだ!





「失礼します」


 導かれるままに部屋に入っると左目にモノクルをかけた初老の女性が立っていた。他には成人したてくらいな女の子がふたりとその侍女と思える女性がふたり居た。中に入って来たあたし達、というか主に獣の骸骨を見て目を見開いてる。


「随分時間がかかりましたね」


 モノクルの初老の女性がじろっと見て来た。白いものが目立つ茶髪を頭の上でお団子にしてる、ちょっと怖い感じのおばさまだ。ただ長い垂れ下がった耳は可愛い兎族なおばさまね。

 

「……申し訳ありません、急な用事で陛下に呼ばれていたもので」


 アサルさんはぺこりと頭を下げながらあっさりと嘘をついた。あのことは秘密だからかしら?




 じっと睨んでいた瞳は数秒だけ閉じられた後「……それでは仕方がありませんね」と続いて開かれた。

 なによこのは。王城ではこんな複雑な会話方法なの? 

 先に来ていた4人の視線は獣の仮面に集中していて今の会話はほとんど耳に入ってないみたい。

 ホッとしたのもつかの間、モノクルの初老の女性があたし達を部屋奥のソファに座らせた。


「さてこれから王妃様の侍女についての説明を行います。わたくしですが、侍女長をやっているザビーネ・ヴュステマンと言います。私を呼ぶときは侍女長、もしくはザビーネさん、と呼びなさい。いいですか?」


 定規みたいな長い何かを掌にペシンと叩いた。この人、うちの教育係よりも怖い。ペシンって音が恐怖を煽ってる。夢でうなされそう。


「お返事は?」


 侍女長の目の奥がキランと光った。


「「「は、はい!」」」


 王妃付きの侍女3人が声を揃えて返事をした。

 こわいよ~~!





 まずはこの部屋にいる人間の自己紹介からだ。自己紹介って言ってもお付きの侍女は特になしで、あたし含めた3人だけ。みんなの前に立って話をするの。

 

「こんにちは~」


 1人目は随分とのんびりした口調が特徴の栗毛の女の子だ。テクラ・ゾンバルトと言う名前でゾンバルト伯爵の長女だって。口調だけじゃなくて目もとろんとして眠そうで、折角の綺麗な青い目も半分閉じちゃってる。

 猫族なんだからもっとシャキッとしてれば良いのにね。


「えへへ~あたしには~婚約者がいるんですよ~」


 別にどうでも良い情報まで開示してくれる。目尻が下がりきった顔でデレられても、こっちは嬉しくもなんともない。 

 この娘、こんなんで王妃様の侍女が務まるのかしら?


「問題な~いですよ~~」


 あたしの心を読んだみたいに言い当てて来た。顔に出てたのかしら?

 そんな彼女は眠そうな目のまま「にしし」って笑ってるだけ。なんなのよ、この娘……






「あたしはリスト伯爵の長女、カルラ・リストだ」


 2人目は黒髪で黒い瞳の真っ黒けっけさんだ。頭の上の小さめの耳も真っ黒な猫族の娘だ。

 ショートカットに良く似合う切れ長の目でカッコイイけと怖い感じ。すらりと伸びた手足と一緒で細い尻尾も自信満々って感じでふよふよ漂ってる。


「役目は王妃様の護衛だ!」


 ぎゅっと拳を握りしめて言葉短く言い切った。白い袖なしのドレスを着てるんだけど、筋肉がモリって感じで見事な山を作ってるの。ムチムチの意味が違ってるわね。

 横で話を聞いてるルティがそわそわしてる。視線は彼女に釘づけだ。

 そんな視線に気が付いたのかカルラって子は片方の口角を上げて「ふふっ」っと挑発的に笑った。あたしの隣からはミシミシと何かを握りしめる音が聞こえてくる。ちょっと、こんなところで張り合わないでよね。





 最後はあたしの番だ。家名と名前をさらっと流して「よろしくね!」で〆た。


「なんで公爵家の御令嬢がいるんだ? 王城に婿でも探しに来たのか?」


 勝ち気そうなカルラさんが腕を組んで嫌味と侮蔑の視線を投げかけて来た。王妃の侍女って言ったら普通は伯爵か子爵の娘だもんね。そんなの分かってるけど、あたしだって親の都合で来たのよ。まぁ、あたしの希望もあるんだけどね。

 こんな時は最初にガツンとやっちゃうのが良いのよ。ガツンとね!


「そうよ! あたしにはずぅぅっと探してる男の人がいるの。侍女の修行も勿論だけど、その人のお嫁さんになる事も目的よ!」


 腰に手を当てて胸を張って宣言しちゃうんだ。だって本当の事だもん。隠したって仕方がないじゃない! 

 ちらりとアサルさんを見たけど、獣の骸骨の奥に藍色の瞳は見られなかった。う~ん、アピール失敗?


「へぇ~そうなんだぁ~。ロマンチックなんだぁ~」


 今にも寝ちゃいそうなテクラさんが意味深に笑った。


「イシスちゃんは~すっごく可愛いから~すぐに見つかるんじゃな~い~?」

「ふん、下世話だな!」


 侍女ふたりの意見は真っ向ぶつかった。なんかふたりとも個性的な娘で不安だわ。あたしみたいに普通な娘ならよかったのに。





「アサル君」


 ザビーネさんがモノクルの奥の目をギラって光らせた。音もなくあたし達の前に出てくる青いローブ姿の獣の仮面とチビの従者。すごい不思議な構図。

 ふたりは名乗るとそれぞれ礼をした。その滑らかな動作にカルラさんも唸ってる。武芸の嗜みがある人には違いが分かるのかしらね。あたしなんかは綺麗!としか思わないんだけど。

 

「このふたりは王城の中でも特殊な扱いです。まず女官舎に立ち入ることが出来ます」


 えっ……女官舎に入れちゃうの? 普通は男子禁制よね?

 他のふたりもルティも、声には出さないけど息をのむのは分かった。


「それと許可が降りた時のみ、法の束縛から外れます。彼らは陛下と王妃様を守る為だけに存在しますから、邪魔なモノは、排除、されます。あなた方も気を付けるように」


 モノクルに光を反射させながら半ば脅すようにあたし達にゆっくりと語りかけてくる。排除って、殺すって事よね……ブルブル、怖いわ。思わず尻尾を抱きしめちゃう。


「法の束縛から外れるって事は、つまりはやりたい放題って事か?」


 目を細めたカルラさんが疑問をぶちまけた。黒い猫耳が忙しなくヒクヒク動いてる。


「そうです。殺人をしても罪に問われません。但しそれは、陛下か王妃様が許可を出した時のみです。王太子殿下では許可は出せません」


 当たり前の事をなんで聞くの、という顔で恐ろしい内容を抑揚なく話してくる。あたしは焦ってアサルさんを見つめるけど、獣の目には何も映らない。

 本当なの? そんな怖い事をしちゃうの? さっき廊下を歩いていた時に眉を顰められてたのはこのせいなの?

 

「王城なのに~死神の騎士がいて~従者は悪魔さんなんですね~」


 今まで黙っていたテクラさんが独り言のように呟いた。

 『死神』

 初対面であたしもその姿から連想した言葉だ。

 この言葉があたしの頭の中にぐるぐると渦巻いて離れてくれなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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