ゴミ屋敷でも、まぁ、生きていける、はず。
掃除は、正直に言って好きじゃない。
綺麗なのは好きだけれど、そうなるまでの時間と神経と体力の消費を考えると好きになれない。
やる気にもなれないのだけれど。
「強いて言うなら、物を一度全て捨てるか、広い部屋に引っ越すかだよね」
本の山に埋もれながら言えば、台所の方から馬鹿言ってんな、みたいな言葉が飛んでくる。
真面目に言っているんだけれど、受け取る側によってはふざけているようにも聞こえるらしい。
言葉って難しいね、と独り言を呟きながら手近な本へと手を伸ばす。
私の家、一人暮らしをしている借り部屋は、私にとってはお城のようなものだ。
実家は実家でお城なのだけれど。
自分の好きなものに囲まれていて、幸せな気分になれるし、守られているような気分にもなる。
兎にも角にも、ここは私の領域なのだ。
「引っ越すとなると、物を詰めるのが面倒なんだよね」
パラパラと捲る本は、既に読み終えているものだった。
上から下へと続く文字の羅列を眺めながら、台所から聞こえるお湯を沸かす音に耳を澄ませる。
一人暮らしになると、台所に誰かが立つ音なんて聞けなくなってしまう。
「引っ越す引っ越さねぇの前に!お前は!片付けることを覚えろ!!」
一つ一つ区切って怒鳴りつけられたけれど、台所から私の部屋までの距離的に少し小さく聞こえる。
年末にちゃんと掃除したんだよ、大掃除、と言えば、一ヶ月も経ってねぇけど?!と返された。
はい、一ヶ月も経ってねぇけれど、この有様ですね。
私の部屋――寝室であり作業場でもある部屋には、足の踏み場がないと表現するに相応しいくらいに本が点在している。
点在と言うか、積み上げられていると言うか。
本棚に入り切らない本達は、居場所を求めて床の上に自分の居場所を作り上げているのだ。
「何で?!ねぇ、何で?!」
「一応ダンボールに詰めたりしたんだけど、結局必要になったりして引っ張り出したから」
「片付けた意味!!」
いつの間にか台所からこちらの部屋まで来ていた人――愛すべき彼氏さんは、バァンッ、と平手で壁を叩いた。
あぁ、ちょっとちょっと、近所迷惑。
それなりに壁は厚い方だけれど、何か言われた時に謝らなくてはいけないのは私なのだ。
そういう意味を込めて眉を寄せるが、彼の方が険しい顔をしている。
「……何でもいいけど、蹴りそう」
入口近くの本が揺れる。
軽く十冊は積み上げられているから、足を軽く当てるだけでもバランスが取れなくなるのだ。
本が傷むので止めてほしいけれど、私のこのずさんな管理方法もなかなかに酷い。
人のことを言えないって、こういうことだと思う。
「片付けるとか、掃除するとか、そんなあれしなきゃこれしなきゃって考えてて楽しい?」
「掃除は楽しいだろ。目に見えて綺麗になるし」
真顔でケロリと答えてくれるけれど、こういう場合に関しては立場が逆だと思う。
掃除嫌いな私、女。
掃除好きな彼、男。
おかしいな、と首を傾げてしまう。
目に見えて綺麗なのも、整理整頓されているのも好きだし気持ちのいいものだけれど。
それをするのが辛いって、彼は分からないのだろうか。
開いていた本を閉じて、積み上げていた場所に戻す。
「掃除するだけの体力ないし。時間がただただ過ぎていく感じがするし。終いには逆に汚しているだけのような気がする時があるから、もういいかな」
一人納得して床の上から、ベッドの上へとダイブする。
見事に彼が干してくれた布団はふかふかで、顔を押し付ければ太陽の匂いがした。
彼が深い溜息を吐いているが知ったこっちゃない。
私の部屋は本が七割近く占めているだけで、基本的なものはそんなに多くない。
他の部屋は特に頻繁に使っているわけでもないので、綺麗な方だし。
そもそも汚く見えるのは、本が大量にあって仕舞う場所がないから。
あぁ、本棚、欲しい。
「……明日にでも本棚買ってくるから。取り敢えずお茶飲むけど」
「飲む」
本棚を買ってくれる発言とお茶を釣られて顔を上げる私。
なかなかに現金な人間だと思う。
本棚はもちろん組み立ててくれるよね?なんて言いながら、積み上げられた本を避けて部屋を出る。
ヤカンがピーピーと私達を呼んでいた。