第六話 ルールブック
「さてここからはこの『観客のいないプロ野球』…すなわち、『アンパイヤ―のいないプロ野球』のはじまりでございます。
「このスタジアムには審判がおりません。すなわち、このスタジアムを包んだ、特殊な、ある規則を表した照明」
「つまり、このスタジアムのルールブックは、不在であるアンパイアーではなく、全てがA・Iにより管理されている、その照明に準拠しているのです」
「それではその説明を以下にしておきましょう…」
一回表 澄海空青
一回裏 鉱瑠土青
二回表 橘菩提樹若緑
二回裏 茂苔黄緑
三回表 丁香花薄色
三回裏 皇室紫
四回表 毛薄茶
四回裏 氈鹿仏茶
五回表 黄金黄
五回裏 亜鉛華黄
六回表 薔薇鮮紫赤
六回裏 秋海棠赭
七回表 苺紅
七回裏 信鳴緋
八回表 印藍
八回裏 蒼玉紫青
九回表 灰濃霧
九回裏 雪白
以降…延長戦は澄海空青に始まり延々とループ…
「これらの照明が、スタジアム全体の、いわば生地として染められます」
「はい。つぎには…」
0OUT 墨西哥山吹
1OUT 孔雀青緑
2OUT 桜桃薄紅
「これらの照明がアウトカウントに対応して、生地全体のうちの、縦縞のストライプとして模様を描きます」
「はい。そして…」
「カウント、ノーボールノーストライクから、フルカウントまで…」
0-0 なし
0-1 洋栗梅
0-2 虞美人草
1-0 乳児水色
1-1 翡翠翠
1-2 臙脂洋紅
2-0 黄玉
2-1 修道薬酒緑
2-2 鉛黄丹
3-0 蘭
3-1 赤錆茶
3-2 鮮赤
「これらの色彩が横縞として加わってゆくのです…」
「そしてさいごに…」
フォアボール 青林檎
アウト 黒檀
ファール 人参黄赤
ストライク 枢機卿色
「…などの色彩を湛えた光が、一瞬点滅します。これは審判のジャッジです」
「このように、『観客のいないプロ野球』の巨大スタジアムでは、チーム以外の一切の人間を排し、そしてコンピュータ知性によって、試合のすべてがかんりされていくのです」
「さあ、試合開始となります。これからは…」
「1回表…」