第五話 試合開始(プレーボール)
われわれは麻薬的幻影をおよいでいる、これはウツツか、いえ、そんなわけはない、われわれはゴッソリ、内面ごと忘却の淵へと突き落とされて還れない。
高い高いフェンスに守られた奈落・・・魔界への呼び声を、新庄みたいな芸当でうっかり超えてしまおうものなら、もうもどれないんだ、アドレナリンなら、そう、語っているよ…
マボロシにある素のプレー。
観客に囲まれず、中継すらされず、録画もされず、判定の人格にもありつけず…
ただ…
空疎に、簡素に、乾いたグラブ、乾いた木製バットの鳴らしだすおとだけが響いてる。
ただ純粋に、プレーのみに特化された、そうして試合後の評価やその累積など全くもって意味をなさない。
金のためではない。
優勝のためでもない。
ファンのためでも、おそらくは…
自分のためでもなければ、家族のためにすらならない。
ただひとしあい、ひとしあいだけの…
せかいやきおくから…
すぐにすてさられるためだけのプレーがある。
チームと、チームの、ぶつかり合いがある。
金のためでもない、名誉のためでも、人気のためでも、自己実現のカケラにもならない、ゆいいつ…
それは忘却のためだけにある。
そんなプロ野球が存在している…
さあ、プレーボール、試合開始だ。