カマとの遭遇その二
「ねえ、ボウヤ、私と組まない?」
そうマリーベルさんに言われた俺に最初に浮かんだ言葉は「何故?」だ。
マリーベルさんにはマリーベルさんの考えが有るのだろうがそれが何なのか俺には見当もつかない。
「何故、ですか?」
俺はマリーベルさんに尋ねる。
「女の勘よ♪」
「女…………?」
「お・ん・な・の・よ!!!」
「はぁ………」
ますますマリーベルさんの考えが分からなくなってきた。
まあ、前衛のジョブが仲間になるのは俺にとってはプラスだ。
自ら進んでミカン農家と仲間になりたがるような奇特な人はこの世界に送り込まれた1000人の中にも数える程しかいないだろう。
見るからにオカマであるマリーベルさんに襲われる可能性もあるがそれを加味しても前衛が手に入るのはありがたい。
ここはギャンブルをするべきところだ。
俺はそう決意するともう一度だけマリーベルさんに質問する。
「本当に………女の勘、だけですか?」
「本当は他にも理由があるけどそれはオトメのヒ・ミ・ツ♪」
「秘密ですか…………」
今の質問でマリーベルさんには俺を仲間にしたい理由があり、その理由の存在は隠す気がないが理由の中身は知られたくない、ということが分かる。
初めから俺を騙す気なら女の勘という理由でごり押しをするはずだ。
他にも理由がある、ということを隠さないということは自ら進んで理由は話したくないがその中身は別にバレても痛くもかゆくもない、ということだろう。
ならば俺の貞操の安全をベットして前衛の仲間を得る、というこの賭け、乗ってやることにする。
だが一応、保険はかけておくことにする。
「分かりました、マリーベルさん、俺、あなたと組むことにします。」
「あら、ホント!」
「ただ…………」
「ただ?」
「ひとつ条件があります。」
「条件?」
「寝る部屋は別にしてください。」
俺がそう言うとマリーベルさんは拍子抜けしたようにキョトンとした後、大声で笑う。
「あっはっはっはっは!!私、こんなナリしてるからもっと酷いこと言うのかと思ったわ!!」
「人を見た目で判断するのはハードボイルドではありませんから。」
「フフッ♪気に入ったわ、これからよろしくね、ボ・ウ・ヤ♪」
「こちらこそ、よろしく、マリーベルさん」
そう言うと俺はマリーベルさんのゴツい手と握手をした。
俺はこの世界で初めての仲間を得たのだ。
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マリーベルさんとのやり取りの後、俺たちはマリーベルさんの装備を整えに行く。
街の中のNPCの中によく人間を見るようになった。
スーツ姿やセーラーを着た女子高生らしき人、ツナギを着た人やコック帽を被った人もいる。
中には既に装備を整え、次の階層に進もうとしている人たちもいた。
そんな人たちを横目に俺たちは武器と防具の店に着く。
「いったいどんな武器が貰えるのかしら♪」
武器が貰えるというのが嬉しいのかマリーベルさんはご機嫌だ。
マリーベルさんがカウンターのおっさんに話しかける。
「私の使える武器を見せて頂戴♪」
「あいよ」
カウンターのおっさんがそう言うとマリーベルさんの前にウインドウが現れる。
そこに表示されている武器はこうなっていた
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棍棒
無骨な樫の木の棍棒
この武器で攻撃する場合力にプラス5
一般ゴリラにはこれが限界
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其処には原始人が使っていそうなゴツい棍棒があった。
マリーベルさんは棍棒をカウンターのおっさんから受け取る。
棍棒を持つマリーベルさんはまさしく
THE・原始人という感じだった。
「ふうん…………まっ、悪くないわね♪」
そう言うとマリーベルさんは棍棒を背中に下げるための皮のベルトをカウンターのおっさんに注文する。
「俺にも皮のベルトをください、あともうひとつ剪定バサミを」
俺は剪定バサミを抜き身のままトレンチコートのポケットの中に入れていたことを思い出しこれでは危ないと皮のベルトを注文する。
ただ、剪定バサミをくくれるようにするだけでなくトレンチコートの両袖の内側に剪定バサミを仕込めるようにするつもりだ。
マリーベルさんは続いて防具を探す。
マリーベルさんのジョブ、《ゴリラ》にはスキル《ゴリラ化》がある。
服だけならマリーベルさんのナビである武蔵丸が変身してくれるため、ゴリラになって敗れてしまっても再生するが防具はそうはいかない。
あまり変な格好をして目立ってもいいことはないだろう。
マリーベルさんもそれはわかっているらしく武蔵丸をフリフリの服からどこぞのターミネーターみたいな服に形を返させてすぐに脱ぐことの出来る皮のベストを防具に選択した。
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皮のベスト
丈夫な動物の皮でできたベスト
装備時守備にプラス3
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俺も学ランは守備値的にヤバイだろうということで学ランの上に皮のベストを着てその上からトレンチコートを着ることにする。
重ね着しても装備の効果が適用されるのかは分からないが無いよりはマシだろう。
装備を整えたあと、外に出るともう既に夕方だった。
腹も空いてきたので俺はマリーベルさんと一緒に宿屋の近くのレストランで夕食をとることにする。
「で、このあとどうするの?ボウヤ」
レストランで注文を済ませるとマリーベルさんが話しかけてくる。
「俺としては敵の倒し方を知っているチュートリアルダンジョンでマリーベルさんとの連携の練習や相性のいいスキルを取得するためのレベル上げも兼ねたスライム狩りをするつもりですが……………」
そう俺が答えるとマリーベルさんが話す。
「私もそれを考えたんだけど、経験値の分配ってどうなっているのかしら………?」
確かに、レベリングにおいてはそれは重要だ。
こんな時のための《説明》スキルだと俺は思い、レイモンドに質問する。
「レイモンド、経験値の分配ってどうなっているんだ?」
『戦闘に参加さえしていれば経験値は取得可能。戦闘に参加した人数で割った分の経験値が等しく分配される』
レイモンドの声が頭の中に響く。
「戦闘に参加していれば大丈夫らしいですよ」
「でもそれだと戦闘はボウヤにおんぶに抱っこになっちゃうわよ?」
「それくらい大丈夫ですよ、第二階層からはマリーベルさん頼りになるんですから」
「あら、そう?」
そんな話をしていると夕食がとどく。
最初の街だからか料理のレパートリーは少なく日替わり定食くらいしか無い。
だが味は美味しく、俺とマリーベルさんはすぐに夕食を平らげてしまった。
夕食の後、すぐ近くの宿屋に向かう。
宿屋の主人に泊まりたい旨を伝えると俺には004号室をマリーベルさんには569号室の鍵を渡した。
「なんでこんなに部屋が離れているのかしら………」
「多分、最初に宿屋を利用したときの部屋番号で固定なんですよ、俺の部屋の番号はそうですから」
そう言うとはて、この街には宿屋はいくつあるのだろう、という疑問が湧いてきたがすぐに眠気が俺を襲ってきた。
「それじゃあマリーベルさん、また明日」
そう言うと俺はマリーベルさんと別れ、自分の部屋に向かう。
そして装備を揃えるついでに貰ってきた寝巻きに着替えると眠りに着いた。
明日からはレベリングだ、この階層では死なないとはいえ気をつけなくては…………
そんなことをベットの上で考えていると俺の意識は眠りへと落ちていった。