ナンパ男と魔法の服
精巧な世界地図の絵がプリントされた服を着た女をナンパして、部屋に連れ込んだ。ナイスバディだ。特に胸が凄い。服に張り付いた五大陸の絵が大きく盛り上がっている。
彼女は俺に向かって言う。
「私の服は魔法の服なのよ。触れたところに瞬間移動できるの。例えばニューヨークの部分に触ったら、ニューヨークに。南極のところに触ったら南極に飛べるわ。やってみる?」
おやおやと思った。相手はやる気満々のようだ。俺はどこから触るべきかと思案して、とりあえず肩を抱き寄せようと手を伸ばした。
「そこは駄目よ。地図の中を触って」
彼女はそう言って、俺の手を遮った。
地図は胸から腹にかけて貼られている。なるほどと思った。もうこうなったら胸を触るしかないじゃないか。俺は彼女のアメリカ合衆国に向かって手を伸ばした。
「うーん。いきなりそこは冒険しすぎじゃないかしら。まずは横浜あたりがいいわね」
彼女はそう言って、またもやおれの手を遮った。
横浜だって?地図上の日本はちょうど彼女の胸の谷間あたりにある。随分変わったところを触らせる子だなと思ったが、この際もうどこでもいいと思った俺は、彼女の横浜に向かって手を伸ばした。
横浜に触れる。
すると視界が一瞬真っ暗になり、明るくなったと思ったら、俺は横浜の中華街にいた。
混乱しながら自宅に帰った俺は、自分の家みたいにテレビを見ながらケラケラ笑っている彼女を問い詰めた。
「俺に何をした!いったい何が起きたんだ?」
「あなたは瞬間移動したのよ。さっき言ったじゃない」
俺は信じられなかったが、実際にさっき横浜から帰ってきたのだ。事実は覆しようがなかった。
「じゃあニューヨークに触ったら、ニューヨークに行けるのか?」
「そうよ。でもやめておいた方がいいわ。帰ってくるのが大変だから」
それもそうだ。いきなりニューヨークに放り出されたら、どうしたらいいのかわからない。俺は英語が話せないのだ。
彼女の許可を取り、京都を触らせてもらった。気が付くと目の前に清水寺があった。俺は新幹線を使い自宅に帰った。
勝手に冷蔵庫を開け料理をしようとしている彼女に、俺は興奮を隠しきれず近づいた。
「すごいじゃないか!これは本当に魔法の服だ!」
俺はそう言って彼女の肩をたたいた。
その瞬間だった。また移動したのだ。しかし、どれだけ待っても真っ暗なままだ。音もしない。俺は恐る恐る手を前に出した。何もなかった。
俺が触った彼女の肩の部分、確か地図の外だった。彼女の服は胸のあたりに地図があり、それ以外は模様もなく、ただ真っ黒だった。
俺は怖くなり叫んだ。しかし何の反応も返ってこなかった。