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○○さんは男の娘

桐生院さんは男の娘

作者: 柚篠やっこ

東雲暁(しののめあき)______ 私には分かる! あなた、男でしょう?」



東雲暁(しののめあき)、16歳。

入学式諸々が終わり、クラス内の関係も落ち着いてきたころ。

何故、私は校内レベルで有名な美少女に放課後、誰もいない空き教室に呼び出されているのだろうか。


「………… はい?」

「だから! あなた、男でしょう!?」


桐生院椿(きりゅういんつばき)

腰まで届く長い蜂蜜色の髪とその美貌で学校内の男子と一部の女子を手の物としている、校内レベルの美少女。

家は代々続く名家で、性格も良し。非の打ち所がないとはこのことである。

その人気はファンクラブが出来るほどであり、私の周りの人間たちはファンクラブに入っていない方が少ないくらいだ。

そんなある日、下駄箱に入っていた無記名の手紙で呼び出された。

告白かな、など淡い期待を抱きながら空き教室へ向かうと、何故か学校1の美少女が待ち構えていた。

まさか、桐生院さんが私に告白!? などと考えていると、コレである。


「…… あの、私、女ですけど」

「ふっ、とぼけたって無駄よ。私には分かるの」


そして、自信満々という風に微笑む桐生院さん。

…… いくら学園の美少女でも、1つ言いたい。何を根拠に私が男だと言っているのか。

誤解しないで欲しいが、私は正真正銘女だ。

髪もそれなりに長いし、男には見えないと思うのだが。


「根拠は何ですか」

「____ 根拠? そんなもの、たくさんあるじゃない。調べるまでもないわ!」


…… 調べてないのか。

いや、調べていたら、私が生物学上も多分、見た目的にも女だと分かるのだが。

うん、とにかく、何か面倒になりそうなのは分かった。


「今時そんな長さありえないとツッこみたくなる、その腰までの長い黒髪! わざとらしいポニーテールも私が見抜いた原因の1つね」


あなただってその、腰までの長い蜂蜜色髪でしょうが。

決めポーズなのか、ビシッと指を私の方へ向け、ドヤ顔で語る桐生院さん。

…… これはツッこんだら負けというあれだ。ダメだ、決してツッこんではいけない。


「そして、女にしては高すぎるその身長!」


桐生院さんはまたも、ドヤ顔決めポーズで私の身体を上から下までゆっくりと眺める。

そして、それが終わるもフッと笑った。

…… 何故、彼女はこんなに自信があるのか。

私、女なのに。


「そりゃ、高い方だと思いはしますが、高すぎるとまで言いますか……」

「言うわ!」


私の身長は、165センチだ。

高い方だとは思うが、それを私の目測身長170越えの桐生院さんが言いますか。

後、それを言ったらモデルに怒られること間違いなしだと思う。


「その3! その肌よ、肌! 何でそんなに白いのかしら! 男なのにこんな白いとか…… ファンデーション使いすぎよね、ええ」


…… 肌が白いのは元々のことなんですが。

桐生院さんは、今度は膝を曲げると私と背丈を合わせ、ふむふむと覗き込んだ。

私の頬をつねったりして疑うように目を細める。


「その4! これが私が気付いた最大の理由よ…… フッ、聞きたい?」

「……………… き、聞きたいです」


うわあ、その顔さらにイラッとくる。

だが、ここで嫌だと言っては何故私を見た目で男だと思ったのか知れない。

我慢だ、我慢だ、私!


「その苗字と名前よ! 私には分かるの。あなた、東雲家の人間でしょう!」

「そうですけど」


私の言葉を聞いた瞬間、何を勘違いしたのか桐生院さんは顔が真っ青になり膝から崩れ落ちる。

そして、両手で顔を覆うと何かぶつぶつとつぶやき始めた。


「何なんだよ…… 何でこんな早く認めるんだよ…… それに、あの東雲って……!?」

「あのー」


耳を大にして桐生院さんのつぶやきを聞いていると、まったく分からないことをつぶやいていた。

というか、何故か口調が変わっているし。


「っ!? …… ふぅ、あぶないところだったわ。まさか、私が桐生院の人間などと憎き東雲に言ってはいけないものね。…… ああ、ごめんなさい。暁君が男だということをちゃーんと暴いてあげなければいけないものね」

「…… はあ」


何故か桐生院さんの視線が怖い。

というか、憎き東雲って何だ。

私は今まで桐生院さんとまったく関わっていなかったので、恨まれるようなことはしていないと思うのだが。


「私があなたを男だと暴いた最大の理由は、その中性的な名前よ。(あき)、それは女装時の名前なんでしょうね。東雲家が何歳で女装をやめさせるのかは知らないけど、あなたも後数年でこれをやめるのでしょう。…… どう? 完璧でしょう!」

「………………」


桐生院さん、悪いが私は女だ。

今度も最高のドヤ顔決めポーズだった桐生院さんだが、こんな自信満々で間違っていることが分かったら凄い恥ずかしいんだろうなあ。

…… だが、私は女だ。これからの学校生活、長いんだし、誤解を与えてはいけない。


「えーと…… 桐生院さんが私を男だと思ったのは、髪型と身長と、肌色、苗字に名前ですか」

「認める気になったのね! ええ、そうよ!」


桐生院さんは、クスッと笑って髪をかきあげる。

…… ごめん、桐生院さん。悪いが、訂正させてもらう。


「まず、髪型の件ですが。長さや結び方なんてそれぞれの勝手でしょうが。それに、言っている本人がその腰までの長さなんて示しがつきませんよ」

「なっ!? …… そ、そりゃそうかもしれないけど……」


私の反論に、桐生院さんは途端に口をもごもごしながらつぶやく。


「身長は、別に165センチなんてそんなに大きくはないでしょう。世の中には180超えの方もいますし。これもまた、言っている本人が私より高いですし」

「っ!? え、ええ、ええ、そうかもしれないけど! わ、私はシークレットブーツ履いてるから! 17センチの! 私、脱いだら155センチだから!」

「ぺちゃんこの上履き履いてる時に言いますか、それ」


私の学校は、何故か登下校時にローファーに加えてブーツを履くことを許されている。

派手なのを履いてくる人もいるので、何色とかヒールは何センチまでとかの規則は厳しいが。

桐生院さんは、時々校門で見かける時、ブーツではなくローファーだった気がする。

シューズ、ならローファーでも良かったかもしれないが、彼女はブーツと言ったのだ。

それに、校内に入ったら上履きになるわけだし、これもシューズの部類に入るだろう。


「肌も元々白いだけです。これだって、桐生院さんもそうじゃないですか」

「わ、私は超ファンデーションしてるから! 塗りたくってるから!」

「いや、どう見てもそれ、素肌でしょうが」


うっ、と詰まるとよろめく桐生院さん。

ドヤ顔決めポーズと言い、毎回芝居がかってるな。


「最後に、苗字と名前です。桐生院さんがあの、と言うほどの家かは分かりませんが、普通の家ですよ。父はサラリーマン、母は専業主婦。名前だって、中性的かもしれませんがそんな名前の人、たくさんいるでしょう。桐生院さんの名前だって、男でも女でも通用するでしょうし」

「………… はっ!?」


それを聞くと、桐生院さんはさっきの様に顔を青ざめる。

そして、また膝からくずれ落ちると、ゆっくりと告げた。


「え、じゃあ、何、おま…… 東雲さんは、本当に女なの、男じゃないの、ちょっと身長が高くて肌が白くて髪が長くてあっちの東雲と苗字が一緒で中性的な名前の普通の女なわけ!?」

「…… そ、そうですけど」


桐生院さんは立ち上がると、私の両肩をガチッと掴んで、詰め寄る。

私もその迫力にどんどんと後ずさり、ついには壁際に追いやられた。


「う、うわあああああああっ!」

「き、桐生院さん!?」


私の瞳をゆっくりと見据えると、桐生院さんは顔を真っ赤にして、校舎全体に聞こえそうな大声で叫んだ。

真正面にいた私何かはとんでもじゃないが、反射的に耳を塞ぐ。


「っ!? ______ ふ、ふっ、ふふふふ、な、なーんてね。東雲さん、どう? 私の演技力。今までのこと、全部リアルに見えたかしら? 実は、これ、全て演技なのよ。東雲さんを驚かせようと思って。私のクラス、文化祭で演劇をやるんだけど、主役を頼まれて。自信がなかったから、ちょっと試させてもらったの。ご、ごめんなさいね、ふふふふふ!」


桐生院さんが壊れた。

今度は顔をまた青くすると、言い訳するように早口でまくし立てる。

…… というか、まだ5月なのに文化祭の準備とか始まってないよな。文化祭、11月だし。早くても、来月からだ。

それにしても、赤くなったり青くなったり変化が凄いな。


「は、はあ…… えーと、あ、はい! 私、騙されました! 凄い騙されました! いやー、桐生院さん、さすがです! いよっ、日本1!」

「…… えー、えーえー、そうでしょう! 付き合わせちゃってごめんなさいね、東雲さん! 実は、ミステリーモノで探偵役なのよ、ありがとう日本1だなんて嬉しいわ!」


何だかこれから先は追求してはいけない気がして、桐生院さんが言っていることに便乗する。

桐生院さんは、気をよくしたのかまたドヤ顔だった。


「じゃあ、私はこれで失礼するわね! お時間とらせてしまい、申し訳ないわ」

「え? あ、いえいえ、演劇、期待してます」

「…… え、ええ、ありがとう! でも、まだ企画段階だから! もしかしたら、もしかしたらだけど、演劇じゃなくなるかもしれないわね! じゃ、じゃあね!」


ようやく私の肩から手を離すと、不自然なほどに笑顔になり、片手を振って教室の入り口へと向かう。

私も桐生院さんが完全に出て行ったら、ここを出るか。

思わずため息が出そうになり、こらえる。


そういえば。

桐生院さんが指摘した私が男だと思う理由って、全部桐生院さんにも共通しているような……



「そういえば、桐生院さんが指摘した私が男だと思う理由って、全部桐生院さんにも共通しているような……」



ガッ。

ドアノブに手をかけ、ドアを開けかけた桐生院さんがピタッと止まる。そして、大きな音を立ててドアを閉めた。

振り返ると、またまた青くなった顔で私の元へ、大股で歩いて来た。


「何が目的……! 東雲暁、何が! 地位か、名誉か、それとも金!? まさか、男!? も、もしかして、この俺か!?」

「え、は、はい!?」


何だ、何なんだ。

桐生院さんの言っていることが分からない。


「もう分かっているんだろう、お前! さっきの言葉、聞き逃しはしないぞ!」

「さっきの言葉って、え、桐生院さんのクラスの演劇を楽しみにしてるっていう…… あの、気に触ったならすみませ」

「違う、俺が主張したお前が男だという理由が俺とも共通しているっていうやつだ!」


目が血走っています、桐生院さん。

それに、口調も一人称も変わってるし。

声も何故だか低くなり、男のものにしか聞こえない。

もしや、桐生院さん、二重人格とかだろうか。

ふとした瞬間に、性格が変わっちゃう、アレなのか。


「え、もしかして口に出てましたか、も」

「もうお前、気付いているんだろ!」


さっきの考えが口に出ていたことに気付き、謝ろうと口を開く。

だが、それは、桐生院さんのによって遮られた。



「俺が、女装している男だっていうことを!」



……………… え。

今、桐生院さんは何て言った? 桐生院さんが男? それで、女装していると?


「…… 桐生院さんって、女装しているんですか」

「あーあー、そうだよ! 分かってるのに聞き返すなんて本当、性格悪いよな」

「…… “さん”じゃなくて、“君”なんですか」

「まー、うちは18までが女装期間だから、学校で君なんて呼ばれたことはないけどな」


げんなりした風に桐生院さん____ いや、桐生院“君”は告げる。


「はあああああああっ!?」


今度は私が叫ぶ番だった。

じゃあ、この完璧な美貌も全部化粧やその他諸々によっと出来上がったものなのか!?

男がこんなに可愛くなれるものなのか!?

いやまあ、ネットとかでみる女装コンテストだと女より可愛い人とか凄くいるけど。

…… まさか、学校1の美少女とも呼ばれる人が、女装男、だったとは。


「え、ちょと待て。お前、今、はあって言ったよな。叫んでたよな。俺が男だということを今さっき知ったような感じだったよな、その反応」

「そうですよ、今初めて知りました」


すると、桐生院さん…… もう面倒なので、さんで良いか。彼は、目を見開いて頭を抱えた。


「この16年間誰にも気付かれなかったのに……! じゃあ俺、自分でばらしたようなもんなのかっ……!」

「自分で自分の地雷を踏んだようなものですね……」

「わああああっ、それ以上は言うなああっ!」


…… 率直な感想が。

どうやら桐生院さんを追い詰めてしまったらしく、頭を上下に大きくぶんぶんと揺らした。


「………… あの、もしかして、私を男だと思った理由って」

「そうだよ、俺と共通点があり過ぎるからだよ! おまけに苗字が東雲だぞ! 同じ流派じゃ最大のライバルの家元の東雲の後継ぎの弱味握ってやればこれからもっとやりやすくなってたかもしれないから、お前に言ったの!」


桐生院さん、分かってやってるかは知らないが自分からばらしてるよな。


「桐生院さんの実家って、茶道とかの家元、とかなんですか」

「茶道じゃなくて、日舞! 日本舞踊! うちは、女舞だけだから男でも女舞なの! で、その女に慣れるために男は18まで女装させられるの! …… ってあああ、何俺自分でばらしてるんだああっ!」


無自覚だったのか。

桐生院さんの言っていることをまとめてみると、こういうことになる。

桐生院さんの家は、日本舞踊の家元で女舞専門。なので、男が生まれたら18歳まで女に慣れるために女装をする。それで、後継ぎの桐生院さんは今まで女装していた。

私を男だと思ったのは、自分の女装との共通点が多くて、苗字が同流派のライバルである東雲家と同じだったから。

だが、私は東雲でもまったく違う一般人の東雲で、普通に女だった。

それで、現在自分で自分の地雷を踏み、私に女装しているということがばれてしまった。

…… うん、桐生院さん、頑張れ。


「はっ! いいか東雲、俺が男だってことは誰にも言うなよ!? 言ったらお前を社会的に抹殺するぞ!?」

「い、言いません、絶対に言いません」


というか、社会的になのか。

普通だったら、本当にしなくとも、殺すぞとかなのに。

そこら辺は、さすが金と権力を持っている日舞の家元の後継ぎというか。


「絶対に言うなよ! 言うなよ!?」

「言いませんよ!」


このやり取りが後1時間以上続くのは、また、別の話。



____________________



「おはよう、東雲さん」

「お、おはよう、桐生院さん」


翌日から、何故か私は桐生院さんとよく学校で会うようになった。

私が誰かに言わないか見張るらしい。言ったら社会的に抹殺されるみたいだし、脅されなくとも特に言ったりしないのだが。

怖いくらいの満面の笑みを浮かべる桐生院さんに、ひるむ。

周囲からは「何事!?」「何であの子がいきなり椿様に!?」などと小声が聞こえてくる。

…… そうだよなあ、今まで私、桐生院さんと話したこともなかったからな。


「____ 東雲、言ったら」

「はいはい、分かってますよ」


すれ違い様に桐生院さんが私の耳元で男声でささやく。

毎朝の行為となったそれに返事をし、桐生院さんは満足そうに微笑む。

途端に女声でそれじゃ、という桐生院さんに尊敬を通り越した呆れを感じ、私も彼女の後を追って昇降口へと歩き出した。


_____ そんなわけで。

これが、学校1の美少女で男な彼と、学校1平凡な私の日常である。

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[良い点] こんな思い込みが激しい人物が跡取りで大丈夫なのか桐生院家。 [一言] 桐生院さんのセリフに、混乱のあまり相手のことを『桐生院さん』って呼んでるところがあります。 |「………… あの、も…
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