表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「自殺なんてダメです!!」

作者: 大空☆☆

みなさん、疲れたら休みましょう。

 

無理せずに自分の出来る範囲で頑張りましょう。



 ――もう、疲れた。

 毎日毎日、始発で出勤して終電で家に帰る。

 唯一の休みである日曜日も睡眠不足を解消するために寝て過ごすだけ。

 給料も使う時間がないから貯まる一方。

 寝て、起きて、食べて、働いて、食べて、働いて、食べて、寝て、起きる。

 そのサイクルだけで一日が終わる。


 ――もう、嫌だ。

 会社に行くと、膨大な量の仕事が溜まっていて終わらせるだけで定時を越える。

 その上、部下や新人に教育したり指示を出したりしているので自分の仕事だけをするわけにもいかない。

 当然、残った仕事は残業して終わらせるしかない。

 その残業も二時間を越えると自動的にサービス残業となる。

 ほとんど毎日、サービス残業を五時間している計算だ。

 週で約三十時間、月で約百二十時間。

 ふざけきった時間だと思う。

 訴えれば勝てるレベルだけど、周りは誰も訴えようとしない。

 そもそも、毎日毎日残業をしているのは部署では俺だけ。

 他のみんなは遅くても19時には会社を出ている。

 残った仕事も翌日に回しているようだ。

 俺も出来るものならそうしたいのだけれど、役職的にそれも出来ない。

 俺が周りの仕事をサポートして行わないと部署が回らないんだ。

 だから自分の仕事は終わらせておかないといけない。


 ――もう、堪えられない。

 仕事中に倒れたこともある。

 家に帰って謎の高熱にうなされたこともある。

 血尿の経験も一度二度のレベルではない。

 胃に穴が空いた時はさすがに入院させられた。

 そんな生活も三年続くと慣れるもので、今では病気一つしない頑丈な体だ。

 会社に入社してからの五年は普通通りだったのに、役職が上がってからの三年は地獄のようだった。


 ――もう、死にたい。

 初めて嘘をついて会社をずる休みした。

 行きたくなかった。

 仕事のことを考えると、気分が悪くなって吐きそうになる、泣きそうになる。

 だから今日、俺は仕事をずる休みした。

 体は健康なのに、風邪をひいたと言って。

 そして今、ぶらぶらと町を彷徨っているところだ。



 「……死にたい」



 こんなに苦しいのなら、死んで楽になりたい。

 ちょうど、今座っているバス停に人はいない。

 ここで車に飛び込めば……いやでも運転している人に申し訳ない。

 人殺しのレッテルを貼られたらかわいそうだしな。

 じゃあ飛び降り自殺か?

 俺の住んでいるマンションから……いやでもあのマンションは子供が多い。

 子供に死体なんて残酷なもの見せてはいけないよな。

 なら、何が……。



 「――首吊り、かな」



 自分の部屋で首を吊ったら誰にも迷惑をかけない。

 幸いなことに隣に住人はいないから異臭もそこまでしないだろう。

 ……よし、そうと決まれば帰るか。

 もう十分に生きた。

 俺が死んだ後の会社は気になるけど……。

 アイツ一人で仕事できるかな?

 新人の子も苦手な先輩とうまくやっていけるかな?

 お得意様の愚痴を聞いて堪えれるかな?

 残した仕事はちゃんと終わらせれるかな?

 ……また吐きそうだ。

 仕事から離れたいのに、仕事のことばかり考えて。

 俺は何がしたいんだろう。

 早く、楽になるたい。



 「大丈夫ですか?」


 「……はい?」



 帰ろうと思ったその時、俺の目の前に小さな女の子が現れた。

 どう見ても中学生くらいの少女。

 そんな少女が俺を心配してか、ハンカチを手渡してきた。



 「その、これで涙を拭いてください」


 「……ありがとう」



 仕事のことを考えていたからだろう、俺の頬には涙が流れていた。

 それを気遣って少女は俺にハンカチを渡してくれたんだろう。

 その気持ちが、凄く嬉しい。



 「……あ、あの!!」


 「ん?」


 「そ、その……じ、自殺はダメだと思います!!」


 「………………」


 「す、すいません!その、聞くつもりはなかったんですけど、つい聞こえちゃって

……」



 聞かれちゃったのか。

 それでも気を使ってくれるなんて、優しい子だなこの子は。



 「か、関係ない私が偉そうに言っちゃうのはどうかとおもったんですけど、で、でも自殺なんて言われたら、その放っておけなくて!!」



 今にも泣き出しそうな声で、強くそう言う。

 自分には関係ないことなのに、関わらないことも出来たはずなのに、無視すればそれですむだけの話しだったのに、それでも彼女は見ず知らずの男に関わった。

 おそらくこの子は馬鹿なんだと思う。

 人生を損するタイプだ。

 損得勘定を考えないと自分が後悔するぞ。



 「で、ですからね……そ、その私なんかがお役に立てるとは思えないんですけど、は、話を聞くくらいなら出来ると思うんです!……私と、お喋りしませんか?」


 「…………えっと」


 「いえ、お、お断りされても聞きません!わ、私が勝手に喋ります……!!」



 ――そう言うや否や、少女は俺の意見を聞くことなく勝手に、ひとりでに喋り始めた。

 自分の名前、歳、通っている学校、家族構成、ペットの名前、学校の友達の話、今日学校であった面白い話、お母さんと喧嘩した話、兄に彼女が出来てちょっと寂しいという話、などプライバシーなんて一切関係なく、少女は喋り続ける。

 ……むしろ、喋っているというより独り言に近い。

 世間話を延々と聞かされている気持ちになる。


 名前は榊 由希ちゃん。歳は16歳。お兄ちゃんと妹がいるらしい。犬のペロは最近赤ちゃんを産んだそうだ。それと、昨日学校で全校集会があったらしい。どうやら生徒が亡くなったそうだ。だから今日は学校が休校でたまたま歩いていたら俺が今にも死にそうな顔をして、自殺しようなんて口走っていたから心配して声をかけてくれたらしい。


 何が驚いたって、この体格で高校生ってとこだ。

 他の話よりそれが一番驚いた。

 ありえない、どう見ても140cmくらいだぞこの子。

 ……なんて失礼なことを考えていると、喋り続けていた榊ちゃんが急に涙を流し始めた。



 「――でも、でもやっぱり自殺はダメだと思うんです……!友達に何も知らせずにいきなりいなくなっちゃうなんて、そんなの絶対にダメです……!!」


 「友達……」



 そういやいつだっけ、最後に友達に会ったのって。

 仕事に熱中しすぎて正直覚えていない。

 ……会いたいな、久しぶりに。



 「残された身にもなってください……!謝ることも出来ないんですよ、死んじゃったら……!!」


 「……ごめん」


 「な、何で謝るんですか……!」


 「君の辛い出来事を思い出させちゃったみたいだから、だからごめん」


 「ち、違うんです……!私は、私はただ、自殺なんて…自殺なんて……!!」



 少女はその後、泣き疲れて寝てしまった。

 それまでの間はずっと泣いていて、うわごとのように「ごめんね、助けてあげられなくてごめんね」と何度も何度も誰かに対して謝罪していた。

 少女が謝る相手が誰なのかはわからない。

 でもその謝る姿が鬼気迫るようだったのを考えると、大事な人だったんだろうと思う。

 ……もしかしたら俺も死んだら、誰かをこんなに悲しませてしまうのか?

 こんなに泣かれて、そして後悔させて、謝罪させてしまうのか?



 「……それは、嫌だな」



 仕事が辛くて、自分のことばかり考えていた。

 確かに俺が死ねば俺は楽だよ。

 もう何も考えずにすむんだから。

 でも、周りは違う。

 いろんな人に多大な迷惑がかかる。

 両親はもちろん、友達、会社の上司や後輩もそうだ。

 会社の連中はわからないけど、両親や友達は悲しむだろうな。

 泣いてくれる友達ももしかしたらいてくれるかもしれない。

 その姿を想像すると、何故だか自殺しようという考えが薄くなっていく。



 「……ありがとう」



 俺を止めてくれた榊ちゃんに、小さく呟いた。

 君と出会えてよかった。

 君と出会えていなかったら俺はおそらく死んでいたと思う。

 君が勇気を出して話しかけてくれておかげで、俺は死なずにすみそうだ。

 ……本当に、ありがとう。

 俺は少女の寝顔を見ながら、蚊の鳴くような小さな声でもう一度呟いた。






 「――――それじゃあ、今日はありがとう。ごめんね、用事とかあっただろうに」


 「い、いえ、いいんです!わ、私も、アナタとお喋りができてよかったです。今まで溜めていたものを全部吐き出したみたいに体が軽いです」



 これであの子にも顔合わせできる気がします、と空を見て言った。

 その顔はどこか清々しく、憑き物が落ちたような表情だった。



 「そ、それでは、私は今から駅に行く用事があるので、し、失礼します」


 「うん、気をつけてね。今日はありがとう」


 「は、はい!こちらこそありがとうございました!!」



 そう言うや否や、彼女は走り去っていった。

 駅に用事なんて、珍しい用事だな。

 何か待ち合わせでもあったのだろうか。

 もしそうなら凄く悪いことをした。

 今度あったら、何かお詫びをしよう。

 うん、そうしよう。



 「――さて」



 俺は携帯を取り出し、会社にこれからのことについて話がしたく、連絡した。

 言うことはもう決めている。



 「あ、課長ですか?お疲れ様です。はい、今日はすいません。あの、今から会社に出勤してもよろしいでしょうか?……はい、もう大丈夫ですので。はい、はい。それでは今から会社に向かいますので。はい、あ、それとですね――――これからのことについて少しお話をさせていただきたいことがありまして、よろしいでしょうか?……はい、ありがとうございます。それでは、失礼します」



 ――その日俺は課長と話し合って、会社を辞めることにした。

 辞めるのは半年後、それまでに後輩や新人にいろいろ教えることが増えたので今まで以上に忙しくなりそうだけど、不思議と嫌ではなかった、吐き気もしないし涙も流れない。

 凄く、清々しい気持ちだった。



 そんな、俺と不思議な少女のある一日の話。

 俺は忘れることはないだろう、人生の分岐点となるこの日を。

 この日があったから俺は変われた。

 榊 由希ちゃん。

 俺を救ってくれた女神だ。

 次会ったらお礼をしないとな。

 ……それにしても、あの子が謝っていた相手はいったい誰だったんだろう?

 話の流れから鑑みるに大事な知り合いが自殺しちゃったんだろう。

 救えなかったから、今日みたいに取り乱しちゃったんだろうな。

 ……ん?

 そういや昨日、昼頃に駅で人身事故があったって聞いた。

 聞いた話によると、女子高生が飛び込んだらしい。

 もしかして、あの子の知り合いって……いや、さすがにそこまで漫画みたいな話はありえないか。

 うん、今日もたぶん友達と待ち合わせがあったんだろう、うん。



 「――さ、じゃあ俺も頑張りますか」


……何か違う。


書きたかったのはもうちょっと違ったんですが、どうせなので投稿しました。


ページをめくってくださった皆様、ありがとうございます。


また別の作品で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ