リセット
ピピピッピピピッ
眠い目をこすり半分手探りの状態で目覚まし時計を止めた。
カーテンの隙間からまぶしい太陽の光がもれる。
いつもと変わらない朝だ。
洗面台に行き顔を洗って朝食をとる。
家族との会話は特にない。
朝食を終えると僕は自分の部屋に戻りテレビゲームのスイッチを入れた。
難しいロールプレイングゲームで僕は死にそうになるとすぐにリセットボタンを押す。
一回死んでしまうと装備などが無くなりレベルも1に戻ってしまうのだ。
しかしリセットをすれば死ぬ前にセーブした状態まで戻るので装備を失わずにすむ。
レベルも下がらず、元の状態に戻るのだ。
僕はリセットが好きだった。
例えどんな失敗をしてもリセットさえすれば、全てが元通りになるからだ。
しばらくゲームをやっていると友達の雄太から電話がかかってきた。
「今からうちで健二の誕生日会やるから来いよ」
なんでも友人達を集めて健二の誕生日を祝ってやろうと言うのだ。
僕はあまり気が乗らなかったが一応友達なので仕方なく行くことにした。
雄太の家につくとクラスのほとんどの人達が来ていた。
「遅えぞ高志〜」
「高志の席はここだよ」
僕は案内された席に腰をかけた。
プゥッ
一瞬よくわからなかった。
座った途端に僕のお尻あたりからオナラのような音が響く。
「くっせぇ〜、こくなよな高志〜」
「僕じゃないよ!」
慌てて否定すると隣の広美がクスクス笑いながら言った。
「プープークッションよ」
座るとオナラのような音を出すオモチャである。
僕は内心イラつきながらも笑って済ませた。
みんなでワイワイ騒いでいるといきなり大声で雄太が言った。
「ババ抜き大会開催〜」
突然ババ抜きが始まった。
僕は生まれつき運が悪くババ抜きは大嫌いだった。
この時は人数が多かったので四つのグループに別れてババ抜きを始めた。
負けた人はほかのグループの負けた3人とビリ決定戦をするのだ。
案の定、僕はビリ決定戦に残った。
2人は先にあがってしまい残ったのは僕と広美だった。
僕のカードは1枚、広美は2枚のカードを持っている。
僕がカードを引く番だ。
右と左、どちらかがババ。
僕は直感的に左を選んだ。
ババだった…
広美が僕のカードを選ぶ。選んだのはもちろんババでは無かった。
僕はやはりビリという結果になってしまった。
ただ単にビリだと言うならたいしたことは無い。
しかし恐ろしいのはこの後待っている罰ゲームだ。
みんなが口を揃えてバッツゲーム!バッツゲーム!などと叫んでいる。
罰ゲームの内容はみんなの前でカラオケを歌うというものだった。
カラオケと言っても機械があるわけではなく、ただ単に大声で歌うというものだ。
僕は人前で歌うのが大の苦手で、しかも歌える歌はアニメソングぐらいしか思いつかない。
「高志〜得意のアニソンいけ〜」
みんなが冷やかす。
なんでこんな事になったのだろう?
数時間前までは家でゲームをしながら何事もなく生活していたではないか。
何故僕はこんな所で歌を歌わされそうになっているんだ?
そうだ、リセットしよう。
そうすれば何事もなくまた1日が始まるはずだ。
僕は何故かそう思い頭の中でリセットボタンを押した。
ピピピッピピピッ
眠い目をこすり半分手探りの状態で目覚まし時計を止めた。
カーテンの隙間からまぶしい太陽の光がもれる。
いつもと変わらない朝だ。
あれは夢だったのだろうか?
とりあえず洗面台に行き顔を洗って朝食を取りにリビングへ向かう。
驚いたのは夢の中で食べたトーストと目玉焼きが用意されていたのだ。
夢じゃなかったのか?
僕は疑問に思いながらも自分の部屋に戻りテレビゲームを始めた。
しばらくすると友達から電話がかかってきた。
雄太だ。
「今からうちで健二の誕生日会やるから来いよ」
夢と同じ台詞だ。
いや、あれは夢では無く本当にリセット出来たんじゃないのか?
そんなことを思いながら雄太の家に到着した。
「遅えぞ高志〜」
「高志の席はここだよ」
僕は案内された席の座布団をめくった。
そこにはプープークッションがあった。
みんなは驚きながらしらけたように言った。
「なんで気付くんだよ〜」
「つまんね〜」
僕は心の中で笑いが止まらなかった。
今日これから起こることがわかるのだ。
この能力はきっと神が与えてくれた能力なのだ。
自分は選ばれた人間なのだと思うと笑いが止まらなかった。
「ババ抜き大会開催〜」
始まった。
最初は負けてしまったがビリ決定戦で広美と僕が残る。
僕のカードは1枚、広美は2枚のカードを持っている。
前回は左を引いてババだったが今回は負けない。
僕は右のカードを引き、見事に勝ったのだ。
みんなは僕が勝ってしまい不満そうだ。
僕が広美の罰ゲームを提案するとみんなはしらけたムードで言った。
「罰ゲーム?そんなのいいよ」
明らかに僕の時と違うみんなの態度に気分を悪くした。
その時、突然目の前が真っ暗になった。
ピピピッピピピッ
眠い目をこすり半分手探りの状態で目覚まし時計を止めた。
カーテンの隙間からまぶしい太陽の光がもれる。
いつもと変わらない朝だ。
何故?僕はリセットしていないぞ?
疑問を残したままリビングへ向かうと、やはりトーストに目玉焼きが用意されていた。
僕は不思議に思いながら自分の部屋に戻った。
しばらく考え事をしていると電話がかかってきた。
「今からうちで健二の誕生日会やるから来いよ」
「ごめん、今日大事な用事があるから無理なんだ」
僕は行っても何も楽しくないので断った。
考え事をしていてもしょうがないので僕はゲームを始めた。
時刻は午後4時。そういえば最初にリセットしたときや二回目に目の前が真っ暗になったのもこれくらいの時刻だった。
すると突然目の前が真っ暗になった。
ピピピッピピピッ
眠い目をこすり半分手探りの状態で目覚まし時計を止めた。
カーテンの隙間からまぶしい太陽の光がもれる。
いつもと変わらない朝だ。
僕は初めて自分の意志とは関係無く、この朝を繰り返していることに気がついた。
怖かった。ここから抜け出せないんじゃないか?
どうしたら明日は来るのか?
何もわからない状況で午後4時が迫って来た。
やはり同じ朝は繰り返された。
色々な手段を試した。
午後4時が来る前に寝てみたり、時計の針を戻したり。
どれも意味の無い行動だ。
人にも相談した。最初はもちろん信用されなかったが、その日に起こることを予言することでみんな信用した。
しかし周りの人間に何が出来る訳では無く、時間が来るといつもの朝に戻された。
何度この朝を繰り返しただろう?
僕は最後の手段に出ようとしていた。
ここは15階建てのビルの屋上。下を見ると目が眩む。
毎日同じことの繰り返しなら生きている意味など無い。
そう思った瞬間、僕は宙を舞っていた。
一瞬で地面が近づいてくる。
グシャッ
ピピピッピピピッ
眠い目をこすり半分手探りの状態で目覚まし時計を止めた。
カーテンの隙間からまぶしい太陽の光がもれる。
そこにあるのはいつもと変わらない朝だった。