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Joker

いらないモノはゴミ箱に

作者: 佐智

 今日は委員会の日だった。

 この学校では全員参加が基本だから、月に一回授業の一部として委員会の時間が入る。

 第三月曜日の六限目。

 クラスメイトが委員会の教室に向かっていく中、僕は教室の窓から外を眺めていた。

 空気な僕は、何の委員会にも入らなかった。もしかしたら、先生が気づいていたかもしれないけれど、全ての委員会が定員を満たしたので何かを言われることはなかった。

 こうして、僕は月に一回のんびりと過ごしている。情報集めに歩き回ることもあるけれど、今は仕掛ける時期だからその必要もない。


 三十分もすると、何人かは教室に戻ってきた。だんだんざわめきだす教室に僕は苛立ちを覚えて、イヤホンを耳にさす。

 それから数十分後、六限終了のチャイムが響いた。先生が生徒数を確認し始める。

「学級委員はまだいないか?」

「いませーん。まだ終わってないと思います」

 そんな先生と生徒の会話を聞いて、僕は荷物を持って立ち上がった。

 祐樹も学級委員だ。名実ともにクラスの中心人物。

『六限終わったから帰ろう。荷物は持ってきておくから。校門で』

 そう祐樹にメールをすると、祐樹のクラスに向かった。

 僕は臆病者だから真面目なふりをするけれど、正式な授業時間以外に縛られる気はない。六限終了のチャイムが鳴ったら、もう僕がここにいる意味はないのだ。教室という囲いのせいで、祐樹と離れる必要なんてなくなる。

 祐樹のクラスについたら、僕はまっすぐ祐樹の席に向かった。

「おつかれ。学級委員長かったな」

「祐樹、今日アレ食べに行こうぜ」

 僕は祐樹の鞄を手にとると、すぐに廊下に向かう。

「昼休み約束したよな? もう俺腹減ったー」

「てか、祐樹どこ行くんだよ? まだ終わってねーけど」

 ああ、何か耳障りな音が聞こえる。

 早く祐樹に会いたい。

 僕は歩く速度を速めたけれど、あっさり片腕を掴まれてしまった。

「無視すんなよ。どうしたんだよ?」

 僕は無言で抵抗したけれど、運動部らしき男子に力が叶うはずがなかった。

 それでも僕はこんな奴らとしゃべりたくなかったから、睨みつけた。

「お前、双子の奴?」

 僕は小さく頷く。

「……名前は?」

「ユキ」

「は? お前の名前を聞いてるんだけど」

「ユキだよ」

 僕はイライラしながら答えた。早くしないと、祐樹の方が先に着いてしまうかもしれない。

「どうしたんだよ?」

 そんな時、もう一人男子が首を突っ込んできた。

「こいつ、双子の奴なんだけど、頭おかしい。ユキだとかほざきやがる」

「……。お前、なんで祐樹の鞄持ってこうとしたんだ? 自分がユキだから?」

 心底馬鹿にしたような目で僕を見下ろしていた。よくもまあ、仲の良いオトモダチと同じ顔をそんな目で見れるもんだ。

「餓鬼だな。お前は祐樹じゃねえし、祐樹はお前のもんじゃねえ。お前がいくら一緒に帰りたいからって、今日は俺らが先約だから。諦めな」

 勝ち誇ったように笑みを浮かべる男子に、俺はため息をついた。

 祐樹もめんどくさい嘘をついたみたいだ。

「言いたいことはそれだけですか。祐樹が待ってるんで、さよなら」

「なっ、お前の耳は腐ってんのか!」

「あなたたち低脳と一緒にしないでください」


 そう言い終わった途端――


「ははは、ずいぶんキレやすいんですね」

 僕は無様に床に転がっていた。

 痛いなあ。

 僕は泣きそうだった。殴られたことではなく、他人に触られたことに。

 キモチワルイ。

 きっと頬は真っ赤だろう。祐樹になんて言い訳をしよう。

「気が済みました? 先約云々は祐樹本人に確認してください。さよなら」

 殴った男子に笑ってみた。ああ、目をつぶったから涙がこぼれてしまった。

 男子は何故か固まってしまい、僕は今度こそ誰にも邪魔をされずに校門に向かった。



 校門についたら、やはり既に祐樹が待っていた。

「ごめん」

「優季!」

 心配してくれていたのか、思い切り抱きしめられる。

「どこ行ってたの? 僕、すぐ抜けてきたのに」

「祐樹の荷物取るのに時間かかって……。ごめんね」

 僕は祐樹に鞄を渡そうと体を離すと、みるみる祐樹の顔が怒りに歪んだ。

「誰がやったの?」

「祐樹のクラスメイトにちょっとね」

 祐樹の手が僕の頬を優しく撫でる。

「名前は?」

「知らないよ、そんなの」

「まあいいや。潰しとくよ」

 僕はそう返事した祐樹に笑った。

「わざわざ祐樹の手を煩わせる必要なんてないよ」

「僕の気が済まない」

「……止めてね」


 くす。


 心の中で笑う。

 本当は殴られないように避けることだって出来た。

 でもそうしたら、祐樹が怒らないでしょ?

 クラスメイトを道具と見てるからって、やっぱり優しくするのは気に食わなかったから。

 僕がクラスメイトのせいで怪我をすれば、祐樹は絶対怒る。そうすればクラスメイトへの態度も変わるだろう。

 まあそんな僕の気持ちも分かっていたんだろうけど。だから本当は何か手を打つつもりだったはずだ。僕が傷つくことを何より嫌がる祐樹のことだから。

 ただ、僕の我慢の限界が少し早く来てしまっただけで。

 きっとクラスメイトと完全には縁は切ってくれないだろうけど、僕の為ならまた我慢をしよう。




 次の日、僕を殴った男子は学校に来なかったらしい。


 くすくすくす。

 一応僕は止めたよ? 一応ね。

 だからどうなったかなんて、知らない。

 ――だぁれも知らないよ。



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