表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルギゾーク~The other side of...~  作者: 江村朋恵
第10話『ある少年の野望』
93/139

(093) - (6)

(6)

「コイツに話は聞けないわよ、もう」

 チィーチィーと高い声を上げるのは籐の籠に入れられた薄茶色のネズミ。目は鋭い三角に尖り、黒衣の女魔術師ヘリティアを睨みあげている。

 ヘリティアはと言えば窓際の椅子に深く腰を下ろして腕を組み、余裕たっぷりに笑っている。

 ネオはヘリティア達の泊まっている宿について来ていた。もう少し事情を聞きたかったからだ。

 3階の窓は開け放っており、心地よい風が吹いてくる。夕飯の支度の匂いが鼻腔をついて、お腹が空いてくる。昨夜サンドイッチをかじったきりだった事を思い出してなおさら空腹は酷くなったが今は我慢するしかない。

 ミストをベッドへ横にして、リゼルに憑いていた魂の“思念”も引き剥がし終えていた。これはヘリティアが行った。ルヴィスは宿に戻るなり再び外に出て、あのネットリとした結界の要を全て壊して回ったそうだ。要には紺呪石が使われていたそうだ。

 それらを終えて全員そろった時には、ミストとリゼルも目を覚ましていた。もちろんリゼルは正気に戻っている。

 簡単に自己紹介も済ませた。

 第1級魔術師のヘリティアとルヴィス、そしてネオ。

 格闘娘のミスト、剣士リゼル、そしてネオは聞いて驚いたのだが、発明家ビーラグ。小動物を捕らえに行った時の動きは、ただの発明家には思えなかった。忍びを思わせる動きにネオには映った。

 籠から魔力を感じる事を考えれば、これは封印されているという事になるのだろう。この封印もヘリティアがいつの間にか施していたようだった。

「話をするのだとすれば、これを解き放って実体のない悪霊の状態に戻すか、誰かに憑け……降ろす位だけど……コイツも曲がりなりにも生前、上級の魔術師だったらしいから、どっちも危険。あ、生前魔術師ってわかっているのは、コイツと私達はちらっと話をしたからよ。あんだけの魔術……エネルギー吸収する結界張ったり、半ば暴走させた洪水の術使ったりする辺りから、察しはついていたかもしれなけれど」

 ネオは両手の平に乗る程度の大きさのネズミをじっと見た。

「……」

 見かねてミストが声をかけた。

「そんな、ガッカリしちゃう? こんな大馬鹿者の話なんて面白くもなんともないよ? 気にしなくっていいと思うよ?」

 リゼルも口をはさむ。

「俺も完全に取り憑かれる前に会話を聞いたけど、こいつはひどいかったぞ。己の事しか考えていない。人が自分のために何かするのは当たり前で、自分が誰かの為に何かをするのは、とんでもない事だと考えてるんだ。誰かの命は己の為? 理解出来ないしヘドが出る。逆だろが! 自分をかまわなくなった人々に腹がたっただと? 自分を崇めなくなった人々には制裁が必要だっただと? そんなふざけた理由で人の命を奪っていいはずが──っつうおおっおおっ……!」

 次第に熱を帯びていくリゼルは、開いていた窓からポーンと外へ放り出されてしまった。

「ナイスっ、ビーラグ」

 ニッコリ微笑んでヘリティアは大柄の男ビーラグに親指を立てた。ビーラグも「おうっ任せとけ」と言って笑った。

 ネオは慌てて窓に駆け寄る──ここは3階なのだ、怪我を……。

 下を覗き込むと、すっと立ち上がって服に付いた埃を払っているリゼルの姿があった。

 ホッとしたネオの背中にヘリティアは言う。

「正義感の塊なのよ、基本的に。熱血バカとも言うけれど。あれはとある国で英雄って言われてる男よ。大きくなりすぎちゃったから国を出たそうでね、力を伴う正義だから怖いっていうか、タチ悪いのよ~」

 ネオは瞬きをして、再び部屋を見た。

 ベッドに腰を下ろしてキャラキャラと笑うミストはネオとそう年が変わらないだろう。

 備え付けの椅子にゆったりと腰を下ろし、飄々として話す黒衣の女魔術師は自分より少し年上なだけ。

 一歩引いて落ち着いた様子で眺める白い法衣を来た青年魔術師も、年代はほぼ同じ。この二人の魔術師は自分より先に第1級魔術師に上がっている。

 剣を腰に二本佩いた──たった今、下に落とされたリゼルは英雄という事だ。大きな荷物を足元に置いた巨躯のビーラグは海賊のキャプテンのような格好をしている。正体は掴みかねるが、その大きな荷物を簡単に持ち運ぶだけの怪力を持っているわけだ。しかも素早い。

 都に居る事の多いネオには彼らの受けるような依頼、厄介事をこなした経験はない。今回に限っては成り行きのようだが、慣れた態で封印だとか、今日起こった津波に巨大結界……非日常的な事を「いつもの事」といった様子で語っている辺り、冒険者として経験を積んでいる証なのだろう。

「ネオ君はその大洪水を止めた魔術師の話を聞きたがってたわけだから、コイツは問題じゃないでしょ。ちなみに、コイツはこうも言ったわね。今回は『あの魔術師に復讐する為だ』とか。きっと、前回も溜め込んだ力で大洪水おこしたものの止められて、その腹いせね」

「でもすごいねー魔術師って。あっちにある大河を氾濫させた大洪水でしょ? そんなの止めちゃうなんてすごすぎっ」

 ミストは両手を叩いて称えている。

「あの大河の規模からすると、水の絡む自然の驚異として、相当激しいものだったと予測するが……」

 ビーラグは夕刻になって髭の生えてきた顎をなでさすっていた。

 半眼で頷きながら聞いていたヘリティアを見て、ルヴィスが溜め息をついている。ヘリティアは特に悪びれるというわけでもなく椅子に座り直し、ネオに問う。

「ネオ君、君、考えられる?」

 ゆったりとした言葉にミストもビーラグも注目した。

「今日の洪水は実に規模の小さなものだったわ。私の感覚からして、だけど。で、大の付く洪水を、止める、よ? 考えられる? 私だって簡単には出来やしないわ。魔力使い果たす覚悟──死ぬ覚悟がいるわね」

「え?」

 ミストとビーラグが目をパチクリとさせている。

 ネオは国民公園での火災を思い出した。自然の火だけではなかったにしても、その日居たオルファースの魔術師が総動員した。それでも、消し止められないかもしれないと思った。

 この現代において、自然の猛威の前では一人二人の魔術師の力など、無為に等しいのだ。

 前回、13年前の大洪水ならばネオは見た。

 今日見たものの2倍、いや10倍──比較のしようが無いほどの規模だった。

「死者が多く被害も大きかったし、その大洪水を止めたという魔術師が誰だったのかも、ここは都から離れていた事もあって報告が後手後手になって把握されていないんです」

 ネオの言葉に一つ頷いてルヴィスが言う。

「俺の記憶も定かではないが、確かに死者の数ばかりが報告されて誰が止めたという話は伝わってこなかった。俺や状況を理解する上級魔術師は気にしたものだったが」

「終わった後だったしね。悪さをしたわけでもないから、その野良師は放置されたってわけね」

「野良師?」

 ネオが問うと、ヘリティアは何度か瞬きして笑った。

「あ~ごめんごめん。冒険者の間じゃね、第5級魔術師資格を取るだけ取って、力がある癖に級を上げない魔術師の事を野良師と呼ぶのよ。結構、数、多いのよ? オルファースでは伝えも教えもしないでしょうけれど。そもそも都に居る魔術師は級を上げる事を目的にしている人が多いでしょ。で、第1級クラスの力を持つ魔術師はきっと、実数の倍以上いるわね」

 ヘリティアはニッと微笑った。貴族ばかりが上級魔術師の資格を取っているが、実際、同等の力を庶民出の連中も持っている。それを言っているのだ。

「とはいえ、探すとなると厄介だろうな。野良師というだけあって力がある事を隠している。力は力を招く事があるから、それを厭がって野良師になる者もいる」

 ルヴィスはそう言った。

「それにしたって、大洪水を止める程の力を持ったヤツなわけでしょ? 一人か二人、当てが無くも無いけれど……」

「何という魔術師ですか?」

 食いつくネオに、ヘリティアは肩をすくめた。

「若すぎるわよ、いくらなんでも。13年前でしょ、大洪水止めたの。だったら……ゼクスならまだ10代前半。まず無理ね。もう一人はその頃……確かよその国に居たって話だったような……」

「俺の国の戦争に参加していたはずだ、ロイだろ? ロイ・パーセティクト」

 下に落っことされていたリゼルが戻って来てドアを開けるなり言った。廊下で様子を伺っていたのかもしれない。

「そう、ロイよ。でも、それじゃあ無理よね、遠すぎるものね」

 ネオは気長に探すしかない気がしてきた。

「色々、ありがとうございました」

「いいのよ~、この位」

 話に区切りがついたのを見て、ビーラグが口を開く。

「そういえば、あの娘さんにリゼルは『取り憑かれているという状態ではない』と言っていたが、どういう意味だ?」

 ヘリティアとルヴィスが動きを止めた。

「僕も知りたい。知らない事がまだまだたくさんある事を知りました」

 ネオの言葉にルヴィスはおやおやと微笑った。

 立ち上がりかけていたヘリティアが再び椅子にふんぞり返った。

「まず、気軽に使っているけれど、魂というものの認識を改める必要があるわよ。知りたいならね」

 ヘリティアがいたずらっぽい微笑みを浮かべる。

「ネオ君、魂ってどう解釈してるかまず聞かせてもらってもいい?」

 試されているのかもしれない。魂を扱うのは宗教が多い。ネオは熱心なゼヴィテクス教徒でもないから、実を言えばよく知らない。

「……魂……生き物の命……でしょうか。それが肉体にある限り、生きているという……命」

 ネオの答えにヘリティアはうんうんと頷いた残りの三者を振り返った。

「はい、ビーラグとかミストとかリゼルとか、アンタ達も参加する?」

「……『とか』かよ」

 三人の声が見事にハモッていた事にネオは思わず笑ってしまった。

 ミストが怒ったという風でもなく「そこ、笑わない!」と言ったがネオは声を出して笑ってしまった。

 ──息あいすぎ……!

 ネオが笑いを収めている間に、ビーラグが口を開いた。

「そうだな、俺様は生まれ変わりというものを信じているから、命というよりは、命の源という事にしておこう。これは肉体があろうと無かろうとあるのだ、死んだ後は新しい肉体を求めるのだ、うん」

「うちはお父ちゃんがよく「魂だっ! 情熱だっ!!」って叫んでた。だから……ん~、心の事?」

「俺はネオ君と同意見だ。生きている命に宿っているもの。肉体が死ねば無くなるし、逆に魂のないものは生きていない」

 剣士リゼルの意見までを聞いて、ヘリティアはルヴィスを見た。

「いいわ。じゃぁ元神父──ゼヴィテクスの教義での魂は?」

 元神父のルヴィスは威儀を正して「んっん」と咳払いした。

「魂はその存在にとって絶対唯一の本質であり、エネルギー」

「……随分と簡略化してくれるわね」

 ヘリティアに文句を言われてもルヴィスは気を悪くした様子もなく、低い声で返す。

「細かく話した所で、これから君に別の説を言われるだけだ。別に、君の持論を批判する気も俺にはないけどな。俺は元ゼヴィテクス教徒で元神父の──魔術師なのだから」

 それを聞いてヘリティアはフンと微笑った。

「私はね、魔術師の観点から魂というものを眺めているの。そうして突き詰めていった後、思ったのは……魂というものをゼヴィテクス教義のまま受け入れてしまうと、納得のいかない点がいくつか生まれてくるのよ」

 話が長くなるのか、立ったまま話を聞いていたビーラグやルヴィス、リゼル、ネオにヘリティアは「まぁ座って」と促した。

 ビーラグは備え付けのテーブルに、ルヴィスは二脚あった椅子の一つに。ネオはミストと反対側のベットに腰を下ろした。リゼルは「立ったままでいい」と言った。

 ヘリティアは封印された籠の中で暴れるネズミを指差した。

「たとえばコイツ。生前のうっぷんから大洪水をひきおこしたり悪さをしたりする。だけど。生前というけれど、その生ったってたった1個前でしかないんじゃないの? ビーラグの言う生まれ変わりがあるなら、その前、さらに前のうっぷんやらはどうなるわけ?」

「……あ~……さ、さぁなぁ……」

 ビーラグは目線を泳がせた。

「まぁ……いいわ。何も期待していないから。魂という単語は、生前と死後を繋ぐものとして生まれてきたものだと私は解釈してる。つまり、生まれ変わりはある」

 ビーラグが偉そうに鼻で笑った。

「魂は、延々、生死の繰り返しについてまわっている。命ある存在の中に宿る。なのに、繰り返しているくせに、コイツは、たった1個前の事しか覚えていない」

 ヘリティアはネズミを顎で示した。

「それは、魂が一個前の人生しか覚えていられないから?」

 ネオの確認にヘリティアが大きく頷く。

「そう。だけど。私たちは、良い行いをすると良い魂になって『生まれ変わったら幸せになれるわよ』だとか、悪い事ばっかりしていると『生まれ変わったら不幸になる』とか、因果応報を教えられてない? 地域によっては御伽噺で魂を裁く所まであると伝えるものもある。魂が1個までしか覚えてられないとか、もっと覚えられるかもしれないとか、諸説ある。でも、全部、誰か本当だと確認した?」

 一堂を見回し、続ける。

「それに、コイツの魂……悪霊と言われる魂は、限りなく精霊に近いわよ」

「……え……」

「つまり、既存の価値観や常識は、ちょっと考えれば不可侵の教義はグダグダに矛盾しているという事になるの。だからそこからは考えを改める必要が出てくるわけ。だから、今までの魂に対する考えを、出来るなら、真っサラにしてもらえるかしら? そうでないと、ついて来れないわよ?」

 そう前置きしてヘリティアは続けた。

「私達の周囲に居る精霊達は、意識を持っていない、と教えられている。でも、意識を持っていない割に、精霊達は自分の好む術師を選ぶ。それはなんで?」

 ヘリティアはネオを見ている。

「…………」

 応えられずにいるネオを微笑って見てから、ヘリティアはすぐに真面目な顔をした。

「この実体を持たないコイツ、悪霊という魂は、私達が普段魔術を使う際に助力を願う精霊に酷似している。細かい点はいつか事例集めて論文でも出すわ。で、こいつは、うざったい程、我をもっている。そこまでではないけれど、精霊達が好き嫌いするようにね。で、なんで?」

 結局、ネオは首を左右に振り、間にルヴィスが入った。

「ゼヴィテクス教において、仕事として清魔師がある。が、この場合、清める対象は人に悪さをする精霊だ。人の魂に悪影響を及ぼす精霊が周囲に取り憑いた時、それを清める。そこの悪霊も、この概念から言えば──メライニだったか──彼女の周囲に居たという事になる。これを清めてこそ清魔師だ。一方、俺がゼヴィテクス教を追放された理由の一つとなった退魔師としての仕事があるが、人に取り憑くとされる魔、悪霊といわれるこれを追い払う事。この時の魔、悪霊は清魔師の言う所の人の魂に悪影響を及ぼす精霊と同義だ。違うのは、人の魂に文字通り取り憑く為、人の魂にも手を伸ばし、引っぺがして魔を退けるという点だ。ゼヴィティクス教は魂を『その存在にとって絶対唯一の本質』という聖なるものとしている為、そんな退魔の仕方をする退魔師という存在を否定している。故に、退魔、つまり人の魂にも触れる輩はゼヴィテクス教から破門にされる。俺としては、清魔も退魔も有りだと思っている。周囲に取り憑くのも、魂に直に取り憑くのも有りだと」

「……話がちょっと逸れているわね、ルヴィス」

 ルヴィスは「そうか?」と眉を上げた。

「話を戻しましょ。コイツも悪霊の一種だけど、生前の記憶と意識があるわ。そして、やはりこれもさっきから言っているとおり、精霊と非常に近い」

 ネオは彼らの語る断片から、結論を導こうとする。

「……つまり、魂と精霊は……」

 悪霊=精霊の図式があるとする。魂が肉体から離れて何らかの理由で悪霊になる。イコールで、精霊、悪霊、魂が結ばれるのではないか。

「でもそこが問題。人の魂のエネルギーが精霊的エネルギーであるとするならば、人からも精霊の気配を感じるはず。でも、ないわね。人──実体を持つものの気配と、実体を持たない精霊の気配とでは明らかに異なるわ。これは、魔術師にしかわからないかもしれないけれど」

 ヘリティアの言葉にミストは首をかしげながら言う。

「まぁ、どっちも匂いはするよね。肉があるかないかの違いはでも、わかるかなぁ」

「匂いって……」

 ヘリティアは頬をぴくりとさせながらも、気を取り直し続けた。精霊に匂いがあるなんて初耳すぎる。

「……話があっちこっちいってしまってるけど、まとめると、精霊には意識がない、つまり記憶もない。割りに好き嫌いする。一方、悪霊の類は意識と記憶がある、生前肉体のあった頃の記憶と共に。記憶が薄れて意識だけって輩が多いけど。そして、魂。意識も記憶もある。そして精霊、悪霊とは異なる気配。こうして並べるのもどうかとは思うけれど」

 ネオはつぶやくように言う。

「……肉体のあるなしで気配は異なるが、魂と精霊、悪霊は同じ?」

「そっか! 生まれ変わるまでの間、魂は精霊になるんだ? 悪い魂は悪霊になっちゃう! これでどう? どうどう??」

 ネオの言葉にミストが反応したが、ヘリティアは首をゆっくりと左右に振った。

「私も最初はそう考えたけどね……それだと……“記憶”はどこに行くの? それにコイツは村の──メライニに取り憑いていた。メライニの魂に取り憑いたとして、彼女本人の魂だってあったはずのに取り憑かれていた間の記憶は無く、心は当時のまま成長していない。私は昇天──彼女の魂は無くなっていると思ったていたのよ。精霊……この悪霊が完全に乗り移っていたし、瞳の色も紫だったから……」

 ヘリティア「その辺りはまた考えて、調べ直さないとね」と小さな声では呟いて、少しだけ、間をあけた。今回の事例と考えあわせて発言しているのだ。

「メライニの記憶が無かったのは、意識を悪霊に乗っ取られた事から来ているんだと思うのね」

 目線は床に向かい、顎を親指で支えて人差し指で唇をなぞっている。集中しすぎて周りに対して話しているというより、独白に入っている。

「メライニには意識がなかったのだから、その間の記憶は無くって当然。これは悪霊に取り憑かれた人すべてにいえることだけど。悪霊の方には、取り憑いていた間の記憶は、大抵あるわ。すぐ忘れるみたいだけど。悪霊のランクによるけど。意識のある魂には記憶がある。意識を乗っ取られている間の魂には記憶がない。意識がないとされる精霊には記憶がない。意識がありそうな悪霊には記憶がある。どう説明? 同じ?」

「ぇ~~~????」

 ヘリティアはミストを真剣な顔で見ているが、焦点はそこではない。勘違いしたミストが動揺している。

「……魂は意識と記憶から出来ていると思うのよ。肉体が死ぬと魂の意識は止まり、記憶だけの存在になる。でも意識がないから魂はただ、記憶……出来事を記録しているだけの存在になる。それが、精霊なり悪霊になるのだと思う。肉体が死んでも意識が焼きついている記憶が悪霊だとすると記憶を持つ意識だから納得が多少できる。何代も転生して魂に記憶が積み重なっても、一つの生の記憶に基づく意識が魂に焼きついているなら、他の記憶なんてただ記録を見ているに過ぎないのだと思う」

 ぎゅうっと目を細めてミストのいる辺りを見ている。

「思うのだけど、まだ資料不足でレポートにも出来ないわねぇ。例外として年経た精霊に意識がちゃんとあるって事と、その上位である神獣やら、神格のあるものやらは意識を持ってるという事。はぁ~……どう書けっていうんだろうね、もうっ」

「愚痴かよ」

 リゼルが真面目な顔をして突っ込んだ。

「ちょっと待て、俺様の答えってどこだ?」

「ん?……ああ、リゼルが取り憑かれているとかいないとか?」

「おう」

「ゼヴィテクス教のこの点には私、同意しているの。魂はその存在にとって絶対唯一の……云々って点ね。その悪霊は既にメライニに取り憑いていたから、リゼルにまでは無理って意味よ。メライニは……ルヴィスが清魔しようとして不可能だった辺りからして、直接魂に憑かれていたって所かしら。ルヴィスがあんだけやって行動不能にしか出来なかったワケだしね。ちなみに退魔には憑かれている人間の魂まで破壊する危険性があるから、ルヴィスは嫌がったのよ、きっと。相手が女の子じゃね、ぬるくもなるわ。で、魔術でも出来るのよ、思念を相手の意識に取り憑かせて意識を奪い、操るってのは。まぁ、ほとんど呪術だけど。危険だけど」

 つまり、呪術で行動を縛られ、操縦されていただけという事。

 色々知る事は出来たが、ネオの本当に知りたかった事にはたどり着けなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
copyright c 2001-2021 えむらともえ
※無断転載厳禁※ サイト連載からの転載です。

匿名感想Twitter拍手ボタンFanBox(blog)
───
ここに掲載されている物語は完全なるフィクションであり、実在するいかなる個人、団体とも関係ありません。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ