表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルギゾーク~The other side of...~  作者: 江村朋恵
第12話『王妃の微笑』
105/139

(105)【1】閃光(7)

(7)

 五年前、ゼクスは鬼獣に襲われかけていたユリシスを助けた際、その瞳の色に気付いた。

 当時のゼクスは十八歳──今のユリシスとそう変わらない年だった。十二歳のユリシスの目には大人に映っていたが……。

 元来研究者タイプではないゼクスは、研究すべき題目などはもちろんなく、各地を転々とする第五級魔術師だった。気分転換に鬼獣を狩り、気まぐれに人助けをしていた。

 今も第五級のまま昇級試験を受けていないらしい。

 ゼクスははっきりとユリシスに言う。

「紫紺の瞳の乙女という存在が歴史には何度か登場していて、それは、ある時から不吉の象徴と呼ばれるようになっていた」

 ユリシスは頷いてゼクスに続きを促した。

 ゼクスは、ユリシスと出会った事をきっかけに、紫紺の瞳の乙女というものを調べ始めたらしい。

 最初はあまり深い意味はなく、珍しい目の色もあったものだと、一体どういった理由があるのだろうとぼんやり疑問に思ったのが始まりだったという。

 何に“憑かれて”いるわけでもないのに紫紺の瞳であるユリシス……。

 確かに子供だと人に悪さをする霊の類に狙われやすい。だが、ユリシスは正気のままだった。何にも“憑かれて”いないままでいるのは、珍しいの度を過ぎている。

 紫紺色の瞳は遺伝的に無い色だ。本人の意識がはっきりあって“紫紺の瞳”……──有り得ない。

 調べていくに辺り、ある一定以上の情報が手に入らなくなった。分厚い壁がある事に気付いたそうだ。それは、ユリシスと出会って都に滞在していた三日間の内に把握したという。

 ゼクスは飛び出すように都を出て、資料では見つけられない真実を求めて旅を始めた。

 最初にフリューティム村を訪れていたらしい。

 ユリシスは驚いて故郷である事を告げると、ゼクスは至って真面目な顔で「ん」と頷いた。

 その後も村という村、街という街、遺跡という遺跡を巡ったそうだ。

 沢山の予備知識と、いくつかの確かな事実をつかんだとゼクスは言う。……その内容までは口にしないが。

 そして四ヶ月前、初めてメルギゾークの遺跡にやって来た。

 沢山の事を確信したそうだ。

 ゼクスのやってきた事は、ユリシスにとって漠然としすぎていてよくわからなかった。

 調査も一段落して遺跡を去ろうとしていたところに、ユリシスがやって来たらしい。

 頷いてゼクスを見たが、しっかりと目があってしまった。

「……」

 ゼクスはこちらをじっと見すぎだ。ユリシスは居心地が悪かった。

 わざと目線を外してユリシスは「それで?」と言った。

「ユリシスに都を案内したかったんだ。時間が足りなかったのかなぁ、よくわからないままに終わってしまったけど」

 残念そうに言った後、メルギゾークの地下へ二人で降りた事に言及しはじめる。ユリシスが気を失ったあたりの事だ……。

「気を失っちゃったのはね、一緒についてきてた精霊達や、間違えて一緒に落ちてきちゃった精霊達がユリシスの中に避難したせいなんだよ。あそこにはね、侵入者を阻む魔術が組まれていて、主食を精霊とするバケモノ……ていうのかな──飼われてる。遠すぎて上に逃げる事も出来なくなった精霊達は慌ててユリシスの中に逃げ込んだってワケ。そうすると今度は急な霊圧にユリシスの魂の器が耐え切れなくなったんだ。締め出したり拒否するなんて事は絶対出来ないもんだから、意識をダウンさせちゃったんだね」

「…………」

 ユリシスは文字通り頭を抱えた。

 すぐに、左手を額に当て、指で眉間の皺を伸ばした。

 ──私、たくさんの精霊に“取り憑かれ”ていた? それで気を失った?

 ユリシスが困惑する様子を見て、ゼクスが「アハハハハッハハ」と大きな声で笑った。

 こういうところで笑うのも、本当にわけがわからない。ユリシスは不機嫌な溜息をわざとらしく吐き出した。

 ゼクスは「はぁ……」と息を吐きだしながら笑いをおさめた。さらに一人で「ふふっ」と微笑うとユリシスを見てこう言った。

「ユリシス。君はねぇ、ディアナの生まれ変わりなんだよ」

「……はぁ……?」

「だから、精霊達を拒めなかったんだ」

 ゼクスは水の入っていた木製のカップを弄りながら続けた。

「青は精霊の色。赤が肉体の色。親から受け継がれるのが意識の色。これは、俺が見つけたというか──結構の数の魔術師が気付いてる事だけどね。それらは、瞳の色に現れるんだ」

「……目の色……?」

「ほとんどの人が意識を持ってるから、親から受け継いだ瞳の色をしてるんだ。鳶色の目の親なら鳶色の目の子供が生まれる、みたいにね。病気とか肉体的な疾患は例外だけど。でも、ある特定の魂の持ち主だけは、親から受け継ぐ意識の色を……なんていうのかな、持たないんだね」

 ユリシスは青が魔力の色だというのは知っていたが、そういう見方は初めて聞いた。瞳の色に影響するなんて話も初耳だ。

「ま、いずれわかるよ。でも、多分、強い呪いがあるから認識出来ないかも」

「呪いぃ?」

 ユリシスは椅子を鳴らして立ち上がった。

「私、呪われてるの? 何に??」

 頭の中に浮かぶのは『二十歳まで生きられない』という言葉。

 ゼクスは「あーー……」と言った後、弾けるように笑った。

 ユリシスはゼクスの笑いがおさまるのを待った。が、ゼクスはクスクス笑いながらこう言った。

「寝よっか。お勉強は、ちょっとずつね」

 ウィンクをしてゼクスは勝手にカンテラの火をフッと消し、ベッドに潜り込んだ。

「え!? ちょっとぉ!!」

 ユリシスは右足で床をダンと鳴らして「……もぉっ!」と息を強く吐き出した。

 思わせぶりな事だけ言って話を終わらせるなんて最悪だ。

 虫の声や獣の遠吠えが届く暗い部屋の中で、ユリシスは突っ立っていた。しばらくそうしていたが、部屋に差し込む月明かりを頼りにゼクスと反対側のベッドに入った。

 ──頭を抱えたくなる、ゼクスと話していると。

 もしかしたら、ゼクスの事、嫌いかも。

 こんなにヒステリックになるのだって、初めてだ。

 何度か溜息をついて、ユリシスは眠った。




『そうは言うけどね……君ののこしたモノがでかすぎてそう簡単にはいかないよ』

『────』

『ん~。俺の身にもなってくれよ。君は本当に相変わらずというか……』

『──……──……』

『確かに君には助けられたけど……乗り切ったのは俺自身だ。術描いたはいいけどそれほど精霊も集まらず、ほとんど自前の魔力と剣だけで床かち割ってさ……あの床だよ? 四十九階分の魔術に守られた床だよ? 魔力も底ついてるのに、精霊に対する感覚だってシャットアウトしたし、ただの人状態になるし、真っ暗でよくはわからんくなるし、かなりの高さから落っこちるし……魔術も魔力も無いのに……ふらっふらなのに剣だけで追ってきた泥連中まいて……俺じゃなかったら絶対に助けられなかったね! 逃げきれなかったね!』

『──……』

『君の状況も察するけどね……』

『──……──……』

『それは俺だって同じだけど……』

『────……』

 ぼそぼそと話し声が聞こえる。

 片方の声は小さすぎて聞こえない。かろうじて聞こえる声はゼクスのものだ。

 ──誰と話してるんだろう、何を話してるんだろう。

 そう思って目を開けようと思うが開かない。目を覚ましたいと思うのに、激しい眠気に捕らわれて、意識は浮かんでは沈む。

『俺は君とは違うの。俺なりに最善を尽くしてる』

 何かをとても真剣に話している。不機嫌そうな声音が混じる。

 ゼクスのこういう声は初めて聞く。

『じゃあどうしろって言うんだ…………あ~……………………もういい。もういいよ。わかったから。君の問題を先に解決しよう、そうしよう』

『キ──……や────……!』

『いやいやいや、もうごちゃごちゃ言わせない。俺の性格わかってるでしょ。頑固なの。目的の為なら、どんな遠回りになったって、どんなに時間をかけたって──貫く』

『……』




 翌日の昼頃、ユリシスは目を覚ました。

 ぼさぼさの髪に手櫛を通しながらベッドから上半身を起こした。

 窓からは明るい日差しが差し込んでいる。鳥の声もよく聞こえてきた。村の子供らだろうか、その声も。

 ゼクスの眠っていたはずのベッドを見たが、片付いていて本人は居なかった。

 テーブルの上に何かある。

 瞬きを繰り返しながらベッドから降りてテーブルに近寄った。

 白い布があって、めくると木製のコップにミルクと、同じく木製の皿に拳程の丸いパンが三つ置かれているのが見えた。布を完全に取り払うと、皿の下に紙を見つけた。

 手に取り、二つ折りの紙を広げる。

『お寝坊さんのユリシスへ。

 先にヒルディアムに戻ってる。

 晩にはユリシスの家を訪ねるから、それまでには帰るように!

 追伸

 泊めてくれた村長さんにユリシスからもお礼を言ってね』

「……晩にはって……ていうか、宿じゃなくて村長さんの家だったの……?」

 デタラメな男だなぁと思いながら、ユリシスはミルクのコップに手を伸ばした。表面に膜が張っていて、上唇に張り付いた。それを舌で舐め取って飲み込んだ。

 晩までになんて、魔術を使わなければ絶対に無理だ。ここがどこらへんかは知らないが、無茶もいいところだ。

 ──……そのくらいなら出来ると思われたのかな……。

 ユリシスは食事を済ませ、簡単に身支度をして部屋を出た。

 手紙の通り村長や村の人に挨拶をして立ち去った。その際にヒルディアムの方向を尋ねると地図をくれた。軽く飛んで数時間といったところ。

 昨日、村に来てすぐゼクスが話をしていたネフィアさんにも会った。挨拶をしたが「置いていかれたんだ、やっぱ彼女じゃなかったかぁ」なんて言われてしまう。ゼクスのデマカセに振り回されたくない事もあってユリシスはその話を聞かなかった事にする。

 ──きっと、なんとかの生まれ変わりという話もデマカセ……。

 ユリシスは溜息を吐き出す。

 生まれ変わりなんて現象、物語の中だけだと思っていた。

 自分が何者かを知りたくて訪れたメルギゾークの遺跡で会ったゼクスに言われてしまった。

 きっと調べて確認しなければ納得はしないんだろうなぁと、自分の事ながら他人事のように思った。

 ユリシスの背中にネフィアさんは「やっぱゼクスは誰にも落とせないかぁ。飲んだ時チラッと聞いたとこじゃあ、一途に誰かを想ってるみたいだったもんねぇ~……」という独り言を残した。

 ──そんな情報が欲しいわけじゃないのに……。

 なんでそういう事ばっかりみんな話すのだろうか。雑音が多くて嫌になる。

 村を出て飛行の術を描きながらユリシスは一人呟く。

「イライラしてるね、私」

 考えもまとまらない。

 何をしたいかも定まっていないから、言われるままだ。

「しっかりしなきゃ……!」

 両手で頬を力いっぱいバンバン叩いた。頬がジーンと痛む。この感覚が気持ちを忘れさせない。

 空へと舞い上がり、ユリシスはすぐにはヒルディアムへ向かわなかった。

 昨日まで歩いていた闇の道のある山へ向かった。

 快晴の空を飛ぶのは心地よい。風も柔らかく、鈴のような声が聞こえそうなほど精霊らが跳ね踊っている。

 闇の道の、ほんの入り口にユリシスは降り立った。この辺りはまだまだ精霊が溢れている。

 洞穴には入らず、闇の前に仁王立ちで立つとフーッと息を吐き出した。

 顔を上げ、闇の向こうに右手を伸ばした。

「ギルが死んだ」

 ポツリと呟く。

「ギルの遺体が無くなった」

 目は闇だけを睨む。

「……狙われる理由はわからないまま……」

 一瞬だけ目を伏せたが、奥歯を噛み締めて顔を上げた。

「術の制御が、時々ダメみたい」

 さっき飛んだ時は平気だったが──。

「原点を求めてみても何もわからない。自分が何を望んでいるのかもわからない」

 したい事をすると言っておきながら、何もしない。したいという欲求が、欲というものが沸いて来ない事に気付いた程度だ。

 だから、ゼクスに言われるまま、付いて行くまま……。

「生きている精霊……特別? 私の中に精霊が隠れる? 精霊を拒めなかった? 親から受け継がれる意識の色? それをもってない? だから、紫紺の瞳? だから、ディアナ? だから九代目の女王?」

 独り言なのに、声のトーンが次第にあがっていくのがわかる。気持ちを抑えられない。ゆっくりと、ふー、ふーと深呼吸をした。

 だが、闇に伸ばす手に勝手に魔力が集まっていく。

 憤りがそこへ──。

 視認しながら、あえて無視をした。意識して集めた魔力じゃない。

 これが制御できないという一つの証拠か。

「……それが、狙われる理由? それで……」

 フッと自嘲する。

「ギルが死んだ? やっぱり、どうしようもなく、私が原因?」

 集まっていた魔力に集中した。意識して密度を上げていく。

 眼前に掲げた手の平から青白い光が辺りに放たれている。

「あげく、呪いだって」

 魔力に意識を凝らしながら、心は努めて穏やかにする。

 じわりと冷静さが戻ってきた。

「どいつもこいつも好き勝手言って……私は……」

 前方に掲げていた右手に、左手を添えた。

「私はもう……」

 手の平の青白い魔力──魂の力が光を発して熱くなる。この熱が頼りだ。

「──隠れない!!」

 言葉と共にユリシスの魔力が前方に解き放たれ、閃光が闇の道を貫いた。

 キンという高い音と共に、細く凝縮された強い魔力の糸が闇の向こうまで照らす。キラキラと青白い魔力の残りかすが散らばった。

 やっと見えてきた。

「まず言い返せるだけの立場を手に入れる」

 ユリシスは力強く言った。

「第五級魔術師資格はいるかな。受験期間ってどうだったかな。調べないと……。術をいくら使っても、何も言われない立場にならないと動きにくいよ。あと……ネオに話して総監に会わせてもらおう。色々聞かないと。アルがギルの遺体の事を調べているだろうから、これも聞かないと。あと……」

 わからないままでいる方がいいと言った人がいた。カイ・シアーズだ。

 確かにわからないまま、このままぼんやりとしてた方が安全なのかもしれない。

 王都ヒルディアムに近付かなければ狙われる事もないだろう。実際、ヒルディアムを離れてからは襲われなかった。

 ──でも。

 ギルバートが死んでしまった事実や、死なせてしまったという意識は、自覚は消えない。

 例えば、このままこの村で一生を過ごしたら、身は安全だし、心も時間とともに平穏を取り戻すかもしれない。

 でもそれは、全部止めてしまう事。

 ギルバートの死を有耶無耶にしてしまう事……。

 そんな事は自分で許さない。わからないままでなんかいられない。自分のせいでもかまわない、はっきりさせたい。

 ──わからないままでいる方がいいだなんて……。

「なんであんな事を言ったのか、聞き出す」

 過去は変えられない。

 ギルが死んだ、遺体がない、狙われてる、呪われてる!?

 変えられない事実、色々な情報や事態やらが次々沢山降ってくるんだ。

 わからないでいた頃の自分の自覚や意識、その状況は……取り戻せやしないんだ。

 ユリシスは両手をゆっくりと胸に当て、上半身を丸めて拳をぎゅっと抱き込んだ。

「がんばれ、私。一つ一つ、いこう」

 顔を上げ、魔力の光が既に呑まれた闇の道を見た。

 どんなに闇が強くても、きっと──。

 そして、飛行の術を描き、そこを後にした。




 ゼクスは“その壁”をじっと見つめていた。

 手を伸ばして触れる。ひんやりとして冷たい。

 壁の高さは大人の背丈の十倍程。久呪石の灯りが煌々と照らす部屋に、ゼクスは一人で立っていた。

 ゼクスの手が触れる場所だけ、壁画は雑に塗りたくったように潰れている。周囲は部分的に壁画を残し、絵の描かれた石の大半が床に落ちている。

「貴女は本当に……大変なトラブルメイカーだね」

 簡単に術を描く。

 潰れてねじれた壁がじんわりと歪み、ブレながら揺らいでいる。

 文字が、蘇る。

『存在という存在を総べる女王にして、至上の魔術師ディアナ』

「あなたの右腕も大概だね。俺の身になってみろというのだ」

 ゼクスはハァと溜息を吐き出した。

「後始末は、いつも俺の仕事だ」

 それ以上の文字を復元しようとはせず、ゼクスは術を消した。

「いいか、別に」

 軽い声で呟くと、そこを立ち去る。

 外への洞窟と繋がっている壁には穴が開けてある。近付くと洞窟にくぐり出た。

 洞窟側に立って、すぐにその穴を魔術で塞ぐ。

 ここに来た時、穴を開ける際、魔術でペリペリと剥がしたセキュリティの魔術もさらりと修復した。

 暗い洞窟の中で、腰に下げた剣の柄に魔術の明かりを灯した。それを頼りに外へ出る。

 夕闇が近付いており、太陽が西の空でオレンジの強い光を放っている。

 一面の草原が、オレンジに染まっている。ゼクスの長い黒髪も紅く染まる。

 洞窟を出て数歩進んだが、ゼクスは歩みを止める。

「誰の命令なのかなぁ? 第五級の魔術師風情をマークするなんて、暇な忍びもいたものだ」

「……」

 草むらが小さく揺れる。

 音も無く、姿も見えない。

 ゼクスからは二十歩程西。視線だけを動かした。

「まだいるでしょ。何の用かなぁ…………姿を見せる気はないみたいだねぇ」

 しばしの沈黙の後、姿がないまま声だけが聞こえる。

「奥で何をしていた?」

「俺の質問に答えてないよ。何の用?」

「…………」

「……ん~。会話にならないな。面倒だからやりあいたくないんだ、手をひいてよ。俺、王妃側の人間じゃないから、いいでしょ別に」

 揺れた草むら辺りで、やはり音も無く黒い影が一つ、立ち上がる。

「……どこまで知っている?」

「そこまで詮索するの? ……そうだね。知りたかったら先に答えてくれるかな。ギルバートという人の遺体をどこへやったか」

「……それは、我々のみならずアルフィードという魔術師も追っている」

「なんだ、まだ見つけられていないのか。アルフィードという名も聞いた事があるなぁ。この人も第一級魔術師だったっけ」

「…………」

「まぁいいよ。ギルソウという人に伝えて。『結局目的は同じなのだから、あまり目くじらをたてるな』って」

「どういう意味だ」

「君が知る事じゃないね」

 結果的に、ゼクスは黒い影を追い払う事に成功する。

 ゼクスの言葉に草むらの中から残りの二人が立ち上がり、この場を立ち去った。都、王城の方へと駆けて行く。暗躍するのは黒装束の忍び──。 

 一人になって、ゼクスはつぶやいた。

「──『人はその紫紺の瞳を災厄と忌避し、呪いと定めた』……か。厄介だね……」

 以前、ギルバートが術で潰して消したはずの文字をゼクスは冒頭だけ蘇らせた。その続きを諳んじていた。

 故人の思いは、積み重ねられたそれらは消えない。良い面も悪い面も含めて。

「……『いかに優れ、その英知でもって、メルギゾークを、世界を救ったかも知らずに』……ね」

 ゼクスは王都を振り返り、白亜の城を目を細めて見つめた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
copyright c 2001-2021 えむらともえ
※無断転載厳禁※ サイト連載からの転載です。

匿名感想Twitter拍手ボタンFanBox(blog)
───
ここに掲載されている物語は完全なるフィクションであり、実在するいかなる個人、団体とも関係ありません。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ