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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
おまけ
39/39

わがままな彼女と激甘な彼氏

 今日は、ぴろりんと七回目のデート。

 私は全身鏡の前でくるりと回転すると、鏡に映っている自分をじっと見た。

 白いショートパンツに、フリルが可愛いフェミニンな肩出しトップス。


「肌、出しすぎかな? でも、今日は暑いし。いいよね。よし、これで決まり!」


 ぴろりんは真面目だ。高校を卒業したら即恋人モードになれると思ったのに、渡瀬さん呼びのままだし、丁寧な言葉遣いも継続中。


 二ヶ月前。美術館デートをした帰りの車の中で、


「恋人らしいイチャイチャした関係になりたい!」


 と言ったら、ぴろりんは困った顔をした。

 ぴろりんは答えず、私もそれ以上は言わず。話が流れた。


「あのときは三回目のデートだったから。早すぎたよね。今日こそは、恋人らしくなるぞ!」


 私はウキウキ気分で、家を出た。近くのコンビニまで歩く。コンビニが待ち合わせ場所なのだ。


 ぴろりんはすでに来ていた。車の外に出て、女性と話をしている。

 相手の女性の顔を見た途端、私はピキっと固まった。


 女性は三十代前半ぐらい。色白で面長の顔。ライトブラウンの髪と、パステルカラーが似合うスイートな雰囲気。

 いかにも癒し系といった感じの、柔らかい笑顔。


 ──ぴろりんの元カノの、内田夏帆だ。


「なんで会っているの?」


 泣きそうになっていると、ぴろりんと目が合った。

 一瞬、逃げようかと思った。けれど、すぐに思い直す。


 私は、ぴろりんの正式な彼女。逃げる筋合いはない。


 敵を蹴散らすべく、私は満面の笑顔で駆け寄ると、ぴろりんの腕に絡まった。


「お待たせ! この人、誰?」

「内田夏帆さんです。大学が同じだったんです」

「へぇー。初めまして。渡瀬友那です。裕史さんとお付き合いしています」

「お付き合い……」


 内田夏帆は引き攣った笑顔のまま、視線を泳がせた。


「彼女がいるとは聞いていたけれど、ずいぶん若いのね。驚いた。十代じゃないよね?」

「十八です」

「えっ……」


 内田夏帆は目を見開くと、震える手で髪に触れた。


「この前まで高校生だったとか?」

「そうです」

「もしかして、先生と生徒の関係?」

「まぁ、そうですね。でももう卒業していますから、問題ないです」


 内田夏帆は、傷ついたような目をぴろりんに向けた。


「……常識があると思っていた。十代に手を出すって、大人としてどうかと思う」

「彼女は特別だから」

「特別って、なに?」


 内田夏帆の責める言い方にムッとしたものの、ぴろりんが反論してくれるのを期待して、口を閉ざす。


「若いから、好きになったわけじゃない。十歳年上だとしても、好きになっていた」

「なにそれ。笑える」


 内田夏帆は引き攣らせた笑いをすると、怒りに満ちた目をぴろりんに向けた。


「運命だと思いたいんでしょうけれど、正直にロリコンだって言いなよ。がっかりした」

「失望していいよ。フラフラせずに、旦那と仲良くやりなよ」

「旦那〜っ!?」


 驚きすぎて、大声を上げてしまった。コンビニに入る家族が、こちらを見た。


「え? ええっ!? 内田さんって、結婚しているんですか!? それなのに、元カレに連絡したり、会ったりしているの? そっちこそ、常識ないじゃないですかー!」

「誤解しないで! 別居している!」

「わぁー、最低。次の男を作ってから、離婚する考えなんですね。うわぁー、依存心強すぎて引くー!」

「ご、誤解しないで! たまたま会っただけだから! じゃあね。もう二度と連絡してこないで!」


 去り際に吐き捨てていった、内田夏帆のセリフ。

 ジメッとした目で睨むと、ぴろりんはため息をついた。


「自分から連絡したことないです。内田さんは見た目はおっとりしていて優しそうですけれど、中身は全然違うので」

「へぇー、そうですか」


 内田夏帆の印象が180度変わった。見た目はウサギでも、中身はヒョウらしい。

 ぴろりんは、しつこい内田夏帆に迷惑していると理解した。

 それでも、おもしろくない。ムカムカがおさまらない。


 今日のデートは私の希望で、海を見て、近くでランチして──……と、計画を立てている。

 海に向かったものの、機嫌が直らない私に、ぴろりんは路肩に車を停めた。


「いつまで怒っているんですか?」

「……いつまで、丁寧な話し方を続けるつもり? いつになったら、友那って呼んでくれるの?」

「この流れで、友那って呼んだら喜ぶの?」


 悔しいことに、図星だ。険悪な雰囲気の中で呼ばれても、喜べない。

 自分の感情がままならなくて、私はポロポロと泣いた。


「だって、あの女、頭にくるんだもん! 嫌い!」

「機嫌が悪いのは、内田さんに対して?」

「……自分にも。機嫌が直せない。今日一日、無理かも」


 デートが中止になるんじゃないかと恐れていると、ぴろりんは私のシートベルトを外した。

 抱き寄せられる。


「内田さんには彼女が出来たことを伝えて、電話もメールもしてこないよう言っていた。今日会ったのは、本当に偶然なんだ。でも、嫌な思いをさせて悪かった」


 ぴろりんの胸には、魔法がかかっているんじゃないかと思う。イライラが消え、心が凪いでいく。


「それと丁寧語を崩せないでいるのは、防波堤のようなもので……。いろんな感情が流れ込んできそうで、怖かった」

「どんな感情?」

「独占したいとか、家に帰したくないとか……」

「いいよ!」

「だーめ」


 ぴろりんに鼻を摘まれる。

 私はすっかり機嫌が直って、ニコニコ顔でぴろりんに抱きつく。


「ぴろりんは優しいから、押せばいけると思われたんだよ。私以外の女と付き合っちゃダメだからね!」

「こんなに可愛い彼女がいるのに、他の人に目がいくわけがない。それよりも、ちょっと離れて」

「なんで?」

「なんでも」


 腕を掴まれて、ぴろりんの体から引き剥がされる。

 ぴろりんの瞳は熱っぽく、その視線の先は、服から出ている肩に注がれている。

 

「もしかして、ムラムラしている?」

「海に行くよ」

「答えてー!」

「ほら、シートベルトして」

「ヤダヤダっ! 答えてくれないなら、シートベルトしない!」


 駄々をこねる子供のようだけれど、ぴろりんの気持ちを知りたい。

 ぴろりんは困った顔で、目を擦った。


「渡瀬さんは普通にしていても可愛いのに、そんな格好をされたら、いろいろと思っちゃうじゃないですか」

「いろいろって、なあに?」

「いろいろ」

「それが知りたいんだってば!」


 シートベルトをしない私に焦れたらしい。ぴろりんは私を引き寄せると、顔を近づけた。

 唇があと五センチで触れるというところで、止まる。


「友那、海に行ったらキスしよう」


 名前呼び。しかも、キスしようって!!

 真面目で受け身なぴろりんが見せた大胆な一面に、興奮してしまう。


「我慢できなーい! ここでキスのリハーサルをするー!」


 恋人になってわかったこと。

 私はわがままで、ぴろりんは激甘。なんだかんだ言いつつも、ぴろりんは私の願いを叶えてくれる。

 私たちは海の五キロ手前で、キスのリハーサルをしたのだった。



これにて完結です。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

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