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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第六章 叶わなかった未来を今世で
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二十年後の花火

 及川家の居間に通された。三年前に新築したらしい。めぐみの部屋は当然ながらなく、懐かしさを感じさせるものもない。

 寂しく思いながら、めぐみの母が出してくれたスイカを食べる。

 するとふと、『帰ってきた』という不思議な感覚に襲われた。

 

 ──そうだ。私は帰ってきた……。


 太陽が降り注ぐ夏の暑い日。母が切ってくれたスイカを、めぐみも食べた。その思い出は、魂に刻まれている。

 昭和村もそう。昭和の原風景が残っている村だといっても、私はそもそも昭和時代を知らない。それでも、懐かしさを感じた。


 及川めぐみは確かにここにいて、そして、私は帰ってきた。

 前世の家族に、心の中で(ただいま)と再会を告げる。


 スイカを食べた後。先生と一緒に、仏壇のある和室に入った。

 仏壇に飾られている写真に目を留める。


「あの女の子が、めぐみ?」

「うん。友那もめぐみさんも、人の心を和ませる良い笑顔だよね」


 写真の中のめぐみは、制服を着ている。きのこみたいな髪型が野暮ったくはあるが、笑顔が可愛い。

 先生は毎年ここに来ているので、子供たちと仲が良い。遊ぼうと誘われて、和室から出て行った。

 一人になった私は、めぐみの写真と向き合う。


「夢をたくさん見たのに、顔をちゃんと見るのは初めて。他人って感じがしないね。って、当たり前か。前世の私だもんね。私たち、笑顔が似ていたんだね。ぴろりんにね、私がめぐみの生まれ変わりだって、いつ気がついたの? って聞いたんだ。そしたら四月の時点で、似ているって思っていたんだって! でもね、似ているだけで、生まれ変わりだとは考えていなかった。生まれ変わりが頭にチラついたのは、ミンミンゼミの鳴き真似をしたときなんだって! ウケるよね!」


 めぐみと話をしていると、前世の母が様子を見に来た。

 誘われて、居間に戻る。二時間ぐらい、みんなでおしゃべりを楽しんだ。

 めぐみは、家族と仲が良かったのだろう。記憶はなくても、楽しい時間がそれを教えてくれた。

 

 私はまた来ることを前世の家族に約束して、先生の車に乗り込んだ。

 前世の両親と兄が手を振ってくれ、子供たちが敷地を出たところまで走って追いかけてきてくれた。

 温かなものが胸に突きあげてきて、私は頬を拭った。


「ぴろりん。連れてきてくれて、ありがとう。会えて良かった」


 大好きだった人たちが幸せに過ごしていることを、この目で見ることができて本当に良かった。両親の顔に笑い皺があったことが、とても嬉しい。

 



 夜、散歩に誘われた。及川家の近くで車から降り、歩く。

 先生の足取りから察するに、どこかに向かっているらしい。けれど、いくら聞いても、目的地を教えてくれない。

 外灯がないため、夜本来の暗さを知る。すぐ横を川が流れているのだが、河童が水面から顔を出していても、暗くて見えないだろう。

 先生が持っている懐中電灯だけが頼り。

 

「暗くて怖い。ねぇ、どこに行くの? 怖い。暗すぎない? 怖いんだけど」

「友那って、怖がりだね」

「そうだよ! 文化祭のときに、麻衣にお化け屋敷に誘われたけれど、全力で拒否したもん!」

「めぐみさんと肝試しをした山がすぐ近くにあるんだけど、行ってみる?」

「絶対に気絶する! ねぇ、怖い話はやめよう。お化けが出たらどうするの?」


 先生と手を繋いでいるだけでは足りず、体を寄せる。

 お化けはいないかキョロキョロと辺りを見回していると、突然、空が明るくなった。少し遅れて、大きな爆発音が響く。


「わっ!?」


 次々に光の花が重なっていく。


「めぐみさんと一緒に見るはずだった、村の花火」

「これが……」

「二十年前。この場所から、花火を見るつもりだった」


 二十年前に叶わなかった約束を、果たすことができた。

 私と先生は潤む瞳で見つめ合い、それから花火を見上げた。

 花火の合間に聞こえてくるのは、川のせせらぎと虫の鳴き声。夏の終わりを感じて、切なさに浸る。

 先生は花火を見ながら、繋いでいる手に力を込めた。


「生まれ変わってくれて、ありがとう。めぐみさんが亡くなって、苦しかった。何をしても、誰といても、寂しさが抜けなかった。けれど友那のおかげで、毎日が楽しくなった。すごく幸せなんだ。ありがとう」

「私も! 一緒にいられて幸せ!!」


 私に注がれる、先生の優しい眼差し。ゆっくりと唇が塞がれる。キスの合間に響くのは、好きだという愛の囁き。

 先生は四月一日になったその瞬間に、告白の返事をメールでくれた。エイプリルフールの冗談ではないことを示すために、四月二日も、好きだとメールをくれた。

 私の彼氏は真面目で、最高に優しい。



 十五歳で亡くなった、前世の私へ。

 好きだった男の子との花火の約束、二十年後に果たすことができたよ。

 幼馴染としてではなく、恋人という最高の形で花火を見ることができた。

 めぐみがぴろりんに会いたいと望んでくれたから、今がある。私の隣にぴろりんがいるのは、あなたのおかげだよ。ありがとう。




 ◇◇◇終わり◇◇◇



ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

本編はこれにて終わりになります。

この後、おまけの話が二つあります。

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