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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第六章 叶わなかった未来を今世で
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前世の家族との再会

 大学に入って、初めての夏休み。冴木先生とめぐみの故郷である、福島県昭和村を訪ねた。

 右を見ても左を見ても、山、山、山。

 昭和村は360度山に囲まれており、そこに田んぼの青々しい稲も加わって、視界が緑色で染まる。

 夏の強烈な日差しを浴びる緑色は暴力的なほどに鮮やかで、千葉市で育った私には刺激が強すぎる。

 私は両手で瞼を覆った。


「目がぁぁぁぁーーっ!」

「ムスカの真似?」

「さすがぴろりん。わかってくれると思った」


 先生が運転する車が、共同墓地の駐車場に入った。

 セミの群れが近くにいるらしく、脳に響くほどの大音量で鳴いている。

 先生は迷うことなく、及川家の墓へと歩いていった。

 

「めぐみって、本当にいたんだね」

 

 墓石に掘られた及川めぐみの名前を、一字ずつ丁寧に目でなぞった。

 線香をあげ、祈る。

 先生の実家の墓にも線香を上げてから、車に戻った。


「さてと、行きますか」

「すっごい怖いんだけど! ぴろりんの彼女に認めないって、反対されたらどうしよう!」

「言わないよ」

「でも、めぐみのお兄さんって怖そう」

「否定はしない」

「でしょー! 夢で見たもん! めぐみとよく喧嘩していたよね!」


 これから私たちは、めぐみの実家に行く。先生が、及川家に行こうと提案したのだ。

 前世の家族に会う。

 口から心臓が飛び出そうなほどの緊張をほぐすためなのか、先生はハンドルを握りながら、昔話をした。


「めぐみさんと真司さんは、食べ物のことでしょっちゅう喧嘩していた。真司さんが残しておいたアイスをめぐみさんが食べたとか、めぐみさんが隠しておいたお菓子を真司さんが食べたとか。唐揚げをどっちが多く食べたかで、喧嘩したこともあった」

「なにそれ! 食べ物への執着心が強すぎる!」

「兄弟がいると、食べ物争奪戦が激しいらしいね」

「一人っ子で良かった。唐揚げのことで喧嘩したくないよ。仲の悪い兄妹だったんだね」

「いや、仲良かったよ」

「えぇ〜?」


 喧嘩ばかりしていたのに仲が良いだなんて、信じられない。


 先生が運転する車が、及川家の敷地に入った。

 周囲の家は昭和を感じさせる農家の家なのに、及川家の家は新しい。

 私と先生が車から降りると、ビニールプールで遊んでいた子供三人が駆け寄ってきた。

 家の隣にある物置小屋から、熊みたいに体格のいい、髭面のおじさんも出てきた。

 さらには家の中から、中学生ぐらいの女の子と、赤ちゃんを抱っこしたおばあさんと、おじいさんも出てきた。

 人数が多すぎて混乱している私に、先生が紹介してくれた。

 熊みたいにデカい体をしたおじさんは、めぐみの兄の真司。子供が五人いて、長女の瑞穂は中学一年生。次女の真悠は小学五年生。長男の郁人は小学二年生。次男の拓哉は小学一年生。三男の斗真は二歳。

 おばあさんとおじいさんは、めぐみの両親。

 真司の奥さんは看護師。仕事のため、ここにはいない。


「大家族ですね……」


 五人も子供がいるなんてすごいと呆然としている私に、真司は豪快に笑った。

 真司は真っ黒に日焼けしており、頭には白いタオルを巻いている。目つきが鋭いため、見た目からして怖い。

 けれど子供たちの頭を撫でた自然な手つきに、子煩悩なのだろうと心が温かくなった。


 真司は先生の肩に手を置くと、ニヤリと笑った。


「彼女を連れてくるっていうから、楽しみに待っとたら! すげー若いじゃないか! しかも美人! おまえまさか、生徒に手を出したりしていないよな?」

「あーっ……」

「なんだその反応? 生徒なのか?」

「元、です。卒業してから付き合ったので、問題ないです」

「なにが問題ないだ! 問題ありありだぞ! おまえ、狙っていただろう! 友那ちゃん、裕史に変なことされなかったか!?」

「されていないです。狙っていたのは、私だし」


 真司の目が丸くなった。先生の首に太い腕を巻きつけ、締めあげる。


「こんな可愛い子に狙われたのかよっ! 羨ましいじゃないか! 詳しく話せっ!!」

 

 苦しそうな表情の先生には悪いが、懐かしさを覚えた。遠い昔に、似たような光景を見た気がする。

 真司が離れ、私と先生は荷物を取りに車に戻った。デジャブを感じたことを話すと、先生は懐かしそうに目を細めた。


「そういえば、似たようなことがあった。真司さんと喧嘩しためぐみさんが、僕の部屋に来たことがあった。漫画を読んでいたんだけど、そのうち僕のベッドで寝ちゃって。起こそうとしたちょうどそのとき、真司さんが様子を見に来た。起こそうと思って手を伸ばしていたのを誤解されて、さっきのように首を絞められた。あのときは本気で苦しかった。『妹に手を出すな!』って、怒られた」

「妹思いだったんだね」


 先生が、仲の良い兄妹だと話していたわけがわかった。

 めぐみと真司の好きな食べ物が同じだったからこそ、喧嘩が多かったのだろう。兄がいためぐみを、羨ましく思った。




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