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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第五章 生まれ変わって、会いに来た
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恋を叶えさせて

 窓から差し込む、明るい春の日差し。柔らかな光を浴びながら、先生はまつ毛を伏せた。


「本当に、僕でいいんですか?」

「はい」

「生徒が教師に憧れを持つのはよくある話だし、渡瀬さんの場合は前世のことがある。前世に引きずられて、未来の可能性を狭めてしまうことはしたくない」

「なにが言いたいんですか?」


 先生は言葉にするのをためらっているようで、唇を引き結んでいる。憂いを帯びた表情は、悩んでいることを示している。

 気持ちが変わって、私と付き合いたくないのでは……と怖くなる。


「私のこと、嫌いになった?」

「そうじゃないです! 渡瀬さんと一緒にいられたら、どんなに幸せだろうと思う。明るくて素直だし、可愛い。大学に行ったら、たくさんの出会いが待っている。僕よりも素晴らしい男性に出会うかもしれない。遊ぶな、なんて束縛する気はないです。十五歳で亡くなっためぐみさんの分まで、人生をめいいっぱい楽しんでほしい。制限することはしたくない」


 先生は真面目な話をしている。それなのに私は、先生の「明るくて素直だし、可愛い」とのセリフを脳内再生するので忙しい。

 教師という立場が原因であるのだろうけれど、先生は今まで一度も可愛いと言ってくれたことがない。初めての可愛いに、胸が躍る。


「渡瀬さんは若いし、僕とは十五歳も年が離れている。いい人ができたら、我慢しなくていいです。心が変わっても、別にかまいませんので……。なんで笑っているんですか」

「だって、可愛いって言ってくれた! すっごい嬉しい!」

「あのですね、大切な話をしているんですが」


 先生が不機嫌になったので、私は慌てて表情を引き締めた。

 先生は喪失と絶望を経験したからこそ、新しい恋に臆病になっている。めぐみを失ったのに、その生まれ変わりである私までも失ったら、先生はひどく苦しむだろう。心が変わっても別にかまわないとのセリフは、傷つかないための自衛。

 けれど私は、前世めぐみだったから。手から抜け落ちてしまった幸せを、今度こそ掴みたい。


「先生、目をつぶって」


 先生はためらいを見せながらも、瞼を閉じた。

 私は先生の胸に飛び込むと、背中に手を回した。胸に顔を当てると、心音が聞こえてきた。動きが早い。

 緊張と不安を感じているのは、私だけではなく先生も。同じであることに、頬が緩む。

 

「先生、言っていたよね。めぐみとは結ばれる運命じゃなかったって。私がここにいる意味、わかったよ」


 私は顔を上げると、先生の目をまっすぐに見た。


「ぴろりんに会いたくて、生まれ変わって来ました。前世で叶わなかった恋を、叶えさせてください」


 先生の榛色の瞳に、みるみる涙が浮かぶ。それを隠すかのように私を抱きしめると、「ありがとう」と先生は掠れた声で囁いた。

 先生の腕の中はあたたかくて、脳が痺れるほどに良い匂いがする。


「私のこと、好き?」

「はい」

「ちゃんとした言葉で言って」

「まだ三月ですから」


 私は唖然とし、不満で頬を膨らませた。


「まさか、三月いっぱいは高校生だって言わないよね?」

「正解。四月になるまで、おとなしくしてください」

「ヤダヤダーっ! 我慢できない! キスして!」

「しません」

「して! いますぐにここで!」


 先生は私の体を離すと、呆れた顔をして眼鏡のズレを直した。


「学校でそんなことしません」

「もぉっ、真面目すぎる! 四月一日になったその瞬間に、好きってたくさん言って!」

「エイプリルフールだけど、いいの?」

「うわっ、そうだ! なんかイヤっ!」

 

 頭を抱える私を見て、先生は笑った。

 その後、私と先生は連絡先を交換した。嬉しい反面、好きと言われないことへのモヤモヤ感が募る。

 そこで、先生を椅子に座らせた。飛び跳ねるようにして、後ろから抱きつく。


「大好きですっ!!」

「ここ学校なんですけれど」

「ねぇ、嬉しい? ドキドキする?」

「…………」

「ねぇねぇ、今どんな気持ち?」

「可愛いことをするのは遠慮してください。我慢するのが大変」

「そうなの? 我慢しているの?」


 先生の顔を覗き込むと、目元がうっすらと赤くなっている。

 私はキス待ち顔を作ると、人差し指で唇をつついた。


「学校で女子高生とキスできる最後のチャンスです。内緒にしますから、どうぞ」

「しません!」


 デコピンされて、私は痛さに唇を尖らせた。


「ケチー!」

「そういう問題じゃないです。まったくもう。一つ年上だろうが、十五歳年下だろうが、君には一生勝てないんだろうな」

「嫌?」

「……嫌じゃない」


 私たちは笑いながら、新聞部の部室を後にした。

 


 


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