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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第五章 生まれ変わって、会いに来た
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先生が好きです

 今日は卒業式。私立大学に無事に合格した私は、晴れやかな心持ちで卒業式にのぞんだ。

 今日で学び舎と別れを告げるとわかっていても、感傷的になれない。解放された気分のほうが勝って、涙はでなかった。


 教室に戻ると、最後のホームルームが始まった。

 担任の先生は、一人一人に手紙を書いてくれた。学級委員長が先生に大きな花束を渡し、生徒みんなで感謝の拍手を送る。

 最後は、全員で記念撮影。

 それも終わり、私たちは笑顔で先生と握手を交わした。

 

 高校生活は、今日で幕を閉じる。制服を着ることは、もうない。クラス会をしても、全員が顔を揃えることはないかもしれない。

 今日は、特別な一日。それでも、時間が経つごとに記憶は薄れていくだろう。みんなの顔が曖昧になり、フルネームを忘れ、思い出すことさえなくなる。忘れたくなくても、すべての瞬間を記憶に留めてはおけない。

 だからこそ、笑って泣いて怒って悲しんで。瞬間瞬間を精一杯生きていきたい。記憶が表層から落ちていって潜在意識に潜ってしまったとしても、それが種となって、茎を伸ばし、花を咲かせるだろう。



 北海道の大学に進学する澤田結愛と別れ難くて、教室に居残っていた。

 すると、麻衣がつつっと寄ってきた。


「ゆあっちは、私がもらった!」

「わっ!? 奪われた!」


 麻衣は結愛に抱きつくと、投げキッスを寄越した。


「幸運を祈っている」

「ありがとう!」


 冴木先生に告白することを、麻衣には話してある。

 私は今朝、社会科準備室を訪ねて冴木先生の机に手紙を置いた。


『放課後、新聞部の部室に来てください。大切な話があります。絶対に来てください。 渡瀬友那』


 私は居残っていた生徒らに別れを告げると、教室をでた。

 三階にある新聞部の部室に入ると、先生はまだ来ていなかった。机に鞄を置いた音が、静寂な空間に響く。

 

「来てくれるよね?」


 落ち着かずにそわそわしていると、廊下から足音が聞こえた。息を殺して、待つ。

 足音は部室の前で止まった。ドアが静かに開かれる。

 冴木先生を待っていた。だから、開いたドアの向こうにいるのが冴木先生であることを喜んでいいのに、逃げたくなった。


 先生の考えが変わっていたら、どうしよう。

 素敵な女性に出会って、その人と付き合うことになったと言われたら、どうしよう。

 恋人はいらないと言われたら、どうしよう。


 悪いことばかりが頭に浮かんで、怖くなる。うつむきがちに、唇を噛む。


「渡瀬さんって、僕がいない隙を狙って手紙を置くのがうまいですね」

「隠密行動が得意なんです。忍者の末裔かも」

「声が通るから、秘密の話ができそうにないですけれど」

「そうなの! 普通に話しているつもりなのに、離れた場所にいる人にも聞こえるみたい!」


 二人分の笑い声で賑やかになり、張り詰めていた空気が破られた。


 今日の冴木先生は素敵だ。冴えない冴木先生ではない。

 ミント地に紺色の斜線が入ったネクタイがおしゃれだし、タイト感のあるネイビー色のスリーピーススーツは先生をスタイリッシュに見せている。

 しかも前髪を斜めに払って額を出していることで、色気がでている。

 先生の今後が、心配になる。


「スーツを着るのは今日で最後にして、これからは緑色のジャージを着てください! ダサくなって! お願いっ!」

「どうして?」

「だって大人の魅力がムンムンで、かっこいいんだもん! モテモテになりそうでイヤだっ!」

「ははっ! ありえないです」

「ありえます。現に、私にモテモテです!」

「渡瀬さんは、視力いくつ?」

「両目とも1.5です」

「目が悪いわけじゃないなら、男の趣味が変わっているんですね」

「もぉーっ!!」

 

 私は頬を膨らませ、先生は楽しそうに笑った。

 笑い声が消え、私と先生は見つめあう。

 私はドキドキする心臓を宥めるために、深呼吸をした。

 

「冴木先生が好きです。私を彼女にしてください」


 


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