表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第五章 生まれ変わって、会いに来た
32/39

ぴろりんというあだ名

 私は新聞部の後輩五人に声をかけた。


「文化祭最後の花火、部室で見ようと思う。私はね。来てもいいし、来なくてもいいよ」


 一年生三人と二年生の原は「来れないと思う」との返事。

 心の中で(やった!)と、ガッツポーズしたのも束の間。

 二年生の石渡は、顔を輝かせた。


「僕は絶対に行きます!」

「あ、そう……。でも、無理しなくていいよ。後片付けで忙しいようなら、来なくても大丈夫だよ」

「いいえ、行きます!!」

「そう……」


 麻衣に失意の報告をすると、なぜか麻衣も顔を輝かせた。


「好きな先生と花火を見るって! 一人で青春するなー! 私も邪魔しに行く!!」

「勝手にどうぞ」


 石渡が来る時点で、先生と二人になれないのだ。三人になろうが四人になろうが、どうでもいい。

 二人で花火を見ることは叶わなくても、同じ空間で花火を見上げることができることに満足しよう。

 

「邪魔ものが二人いるが、冴木先生の隣は死守するぞ!」


 そんな意気込みのもと、文化祭二日目を楽しみにしていた。

 週間天気予報では、二日目の降水確率は80パーセント。


「週間天気予報だし! まだわからない!」


 だがその後、降水確率は100パーセントに跳ね上がった。


「こうなったら、てるてる坊主に希望を託すしかない!」


 生まれて初めて、てるてる坊主を作った。マンションのベランダに下げて、奇跡を祈る。


 文化祭一日目は、快晴。

 来場者が多く、文化祭は大盛況。クラスの出し物である、二択ウルトラクイズカフェも盛りあがった。


 二日目は、大雨。降りしきる雨と、低い気温。

 文化祭の来場者が少ない。暇を持て余した暁斗が、ぼやく。


「学校の誰かが、黒いてるてる坊主を作ったのかも。それか、雨を降らせる呪文。『ウンババ、ウババ、ウンバババ』を唱えたか」

 

 暁斗ファンの一年生女子三人が「ウンバババって、なんですかぁ?」と、綿あめのような甘くて高い声で笑った。

 

 お昼に、雨のため打ち上げ花火を中止するとの校内放送が流れた。

 私は買ってきた焼きそばを持って、新聞部の部室に入る。


「私もめぐみも、ぴろりんと花火を見られない運命なのかな……」


 部室には誰もいない。私は焼きそばを食べ終えると、窓の近くに椅子を運んだ。

 休憩時間はまだあるが、催し物を回る気分になれず、降り続いている雨を眺める。


「ぴろりんと花火が見たかった」


 夏休みに、先生におんぶされたとき。意図して、「渡瀬友那だって、ぴろりんとの思い出がほしい」と言った。

 あだ名を出すことで、私が及川めぐみの生まれ変わりだと気づくことを期待した。


「だけど、どうなんだろう? 裕史だから、ぴろりんってあだ名なんだよね? めぐみだけじゃなく、いろんな人が呼んでいたかも。高校とか大学でも、ぴろりんって呼ばれていたりして? もしかして、元カノもぴろりんって呼んだ?」


 暁斗は、みんなからアッキーと呼ばれている。本人も「アッキーと呼んで」と言っている。

 それと同じように、先生も元彼女に「ぴろりんと呼んでください」と言っていたりして……。

 どうなのだろうと唸っていると、部室のドアが開いた。


「冴木先生!? どうしてここに!?」

「北山さんから、渡瀬さんがいじけて部室に引きこもっているから、励ましてあげてほしいと頼まれまして。なんで、いじけているんですか?」

「さすが親友! わかっている!」


 麻衣は、冴木先生との恋を応援すると言ってくれた。口だけでなく、こうやって先生を呼び出してくれるあたり、さすが友情に厚い女。

 いじけていたのは本当だが、先生が現れたことで笑顔になってしまった。

 麻衣の気遣いに応えるべく、唇を尖らせ、悲しげな声音で話す。


「雨のせいで花火が中止になったので、いじけているんです」

「そんなに花火が見たかったんですか?」

「はい。ぴろりんと花火が見たかったです」

 

 眼鏡の奥にある先生の目が、スゥーっと細まった。


「どうして、ぴろりんって呼ぶんですか?」

「変ですか? いろんな人から、ぴろりんって呼ばれているんじゃないんですか?」

「いいえ。僕のことをぴろりんと呼ぶ人は、一人しかいない」


 部室に降りた静寂を、窓の外から響いてくる雨音が打ち破る。

 私は鼓動が早くなったのを感じながら、続きの言葉を待った。

  

「及川めぐみさんです。ぴろりんは、めぐみさんがつけたあだ名。渡瀬さんは、めぐみさんの生まれ変わりなんですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ