卒業まで、あと半年
夏休みが終わり、二学期が始まった。二学期のメインイベントは、十月に行われる文化祭。
私のクラスは大学を受験する人がほとんどなので、クラスの催し物にやる気を出さないだろうと考えていた。
だが、甘かった。将来はイベント会社で働きたいという、村上暁斗。お祭り好きの、北山麻衣。楽しいこと大好きな、澤田結愛。
この三人がリーダーになって、二択ウルトラクイズが楽しめるカフェをすることに決まった。
放課後の教室。ポンポンを作る麻衣の横で、私は帽子にハテナマークのフェルトを縫いつける。
「なんで私が、ヘンテコ帽子を作らないといけないのだ!」
「友那って、裁縫が上手だね。良い奥さんになれるって、冴木先生にアピールしてあげようか?」
「よろしく! 絶対に言って!!」
二択クイズに正解するとポンポンを持った部隊が喜びのダンスを舞い、不正解だと槍を持った悪魔部隊が不正解者を突くことになっている。
私は小道具係。ネットで安く買えるものは注文し、お金がかかるものは手作りした。
準備が終わり、小道具係から解放されたと思いきや。村上暁斗が、司会者が被るシルクハットに『?』マークをつけてほしいと言ってきた。
そういうわけで、私はフェルトを切り抜いて作ったハテナマークをシルクハットに縫いつけている。
「暁斗め! 末代まで呪ってやる!」
「ねぇ、一回アッキーと付き合ってみてよ」
「なんで? 一回って、意味がわからないんですけど」
「だって、アッキーってチャラ男だよ? 去る者を追わない主義のアッキーが、友那を好きだと言って追いかけているんだよ。超おもしろいじゃん!」
「おもしろがらないで! 私は迷惑!」
「まっ、冗談はさておき……」
麻衣は体を寄せると、ポンポンで口元を隠しながら囁いた。
「このモテ期を利用して、冴木先生を嫉妬させちゃおうよ」
「うわっ!? なんていう小悪魔発言! 麻衣って、そういう人間だったの!?」
麻衣は完成したポンポンを振りながら、
「小悪魔ではありません。私は愛の伝道師です」
なんて、おちゃらけている。
暁斗が、二択クイズを考えていたグループの輪から抜けてきた。
「呼んだ?」
「呼んでいない」
「おかしいな。俺の名前が聞こえたんだけど。照れてる?」
「照れていなーい!」
村上暁斗は顔が良く、口もうまい。そのうえ足が早く、陸上中距離で有名私立大学の推薦枠を掴み取った。
その暁斗に、二学期が始まってすぐ告白された。
「加瀬先輩と別れたって本当? だったら、俺と付き合ってよ。勉強の邪魔にならないようにするからさ」
断ったにもかかわらず、噂が広がった。
暁斗ファンの女子たちから「アッキーを振るなんて生意気!」と睨まれている。付き合ってもいないのに敵対心を向けられるなんて、理不尽すぎる。
暁斗は私の前に座ると、ファンの子たちが歓喜の悲鳴をあげそうなイケメンスマイルを浮かべた。
「好きって、十回言って」
「スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
「俺もゆうちゃんのこと、スッゲー好き」
「ふーん」
「もう一回。好きって十回言って」
「スキスキスキスキスキスキスキスキスキ」
「キスしたいの? いいよ、キスしよう」
「麻衣! こいつのこと、川に流して!」
「オッケー。桃に入れて流すわ」
「桃太郎じゃん!」
暁斗は不服そうに唇を尖らせた。
「ゆうちゃんって、塩対応すぎない? 好きの裏返し?」
「無駄話はいいから、鬼ヶ島に行けー!」
「うわっ!!」
暁斗に針の先を向けると、暁斗は驚いて椅子から転げ落ちた。周りの生徒から笑いが起こる。
文化祭なんて、めんどくさい。そう不満を漏らしていた生徒たちも、居残っている。
みんな、わかっている。卒業まで、あと半年。けれど、三学期は学校に来る日が少ないので、全員が顔を合わせる時間はカウントダウンに入っている。
なんでもないような一日でも、三年生にとっては貴重な時間。
冴木先生の顔を見られるのも、冬休み前まで。それを考えると、鼻の奥がツンとする。
ハテナマークがついた帽子が完成した。暁斗に手渡し、裁縫道具を片付ける。
「ゆうちゃん、ありがとう。お礼に一緒に帰ろう」
「それ、お礼になっていない。今度、飲み物を奢って」
私はクラスメートに帰りの挨拶をすると、自動販売機で紙パックの飲み物を六つ買った。
階段を駆けのぼり、三階にある新聞部の部室を目指す。
夏休みに、冴木先生に告白した。
「恋人を作らないでください。私が高校を卒業するまで、待ってほしいんです」
先生はどう思っただろう。怖くて、聞けていない。




