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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第四章 冴木先生の心にいる人
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元カノ疑惑

 中三の私は純情だったから、柳先生は実里も深山先生も好きで、二股をかけたのだと思った。

 けれどその後、知識が増えた。若い子にモテたいという願望が多くの男性にあることを知った。そうしたら、柳先生の見方が変わった。

 柳先生は最初から、実里と恋愛をする気なんてなかった。思わせぶりな態度をとって、反応を楽しんでいただけ。モテたかっただけ。

 実里の純粋な好意と年上男性への憧れを利用して、先生と生徒という境界線上で遊んだのだ。

 

「最低な大人」

「お待たせー! 遅くなってごめん! って怒っている? これでも急いで来たんだけど。眼科が混んでいて……」


 麻衣が謝りながら、テーブルの反対側に着席した。


「違う。麻衣に怒っているんじゃなくて、柳蒼眞先生。偶然、ここの窓から見えた」

 

 私が中三に上がる前に、柳先生は隣の市にある中学校に異動した。その中学校には麻衣がいた。そういうわけで、麻衣は柳先生を知っている。世間は狭い。

 麻衣は水を飲むと、キラッと目を輝かせた。

 

「柳先生ね。ふーん……。わいせつ罪で懲戒免職になったこと、知っている?」

「えぇーっ!? なにそれ!?」


 驚きで身を乗り出した私の反応に、麻衣は満足そうに口角を上げた。


「生徒に手を出して、その後、離婚したらしい」

「えっ……いつの話?」

「半年ぐらい前かな」


 パスタ屋のガラス窓から柳先生を見たのは、二十秒もない。当時の面影はあるものの、やつれていた。細身の体がさらに細くなっていた。どうやら、懲戒免職と離婚で痩せたらしい。

 呆然とする私に、麻衣は得意げになっていた表情を消した。片手に持っているコップに視線を落とす。


「相手の女の子が処分や公表を望まなかったみたいで、柳先生の学校名も名前も年齢も、新聞には載らなかった。だけど、『好きな気持ちが突っ走って、周囲の人たちを傷つけてしまい、申し訳ないことをした』って、書いてあった」

「相手の女の子って、麻衣の中学の子?」

「うん。後輩から聞いたんだけど、音楽準備室に鍵をかけて、抱きしめたりキスしたりしていたらしい」


 音楽準備室に鍵をかけて二人で会う。実里と同じだ。

 深山先生と結婚して子供も産まれたのに、どうして傷つけることをするのか、怒りが湧く。

 

「最低っ!」

「本当だよね。先生と生徒の恋って、映画や漫画ならおもしろいけれど、それって虚構の世界だからいいんだよ。身近でやられると、気持ち悪い。未成年に手を出す大人って、精神構造がおかしいと思う」

「うん……」

 

 歯切れが悪くなってしまったのは、冴木先生が好きだから。

 祝福されない恋愛なんて嫌だ。悪く言われたり、気持ち悪いという目で見られたくない。

 先生を好きな気持ちが、倫理観を前にして揺れる。


「ねぇ、麻衣。もしも、学校の先生を好きになったとするじゃない? 高校を卒業したら、大丈夫だよね?」

「なに? 好きな先生がいるの?」

「そういうんじゃなくて!」


 つい、声が大きくなってしまった。しかも、若干上擦っている。

 怪しまれないために、麻衣の目をまっすぐに見る。


「もしもの話です!!」

「力強い目で見つめてきて、どうした? もしかして、冴木先生が好きとか?」

「なっ!? な、ななっ……」


「なんでわかったの?」と尋ねた私の声と、麻衣の声がもろに被った。


「テキトーに言った。あそこに冴木先生がいるから」


 麻衣が指差した先にいたのは、冴木先生。 

 店の奥にいたから気がつかなかったが、入り口近くのテーブル席に冴木先生が座っている。


「ん? 友那、なんか言った?」

「なんにも言っていません!! それよりも、先生の私服姿かっこよくない?」

「うん。若く見えるね」


 先生は、オレンジ色のTシャツとベージュのリネンパンツというラフな格好をしている。

 学校に着てくる服は、グレーや黒ばかり。けれど断然、明るい色のほうが似合っている。

 好きな人の私服姿がかっこいいというのは、大変に嬉しい。けれど、手放しで喜べない。

 だって、先生と一緒にいるのは──女。


「あの女、誰?」

「友那、顔が怖いよ。どうした?」


 先生と同じテーブルにいる女性は、三十代前半ぐらい。色白で面長の顔。ライトブラウンの髪を一つにまとめている。ミントグリーンのワンピースに白いサンダルという格好が、とても爽やか。

 ビタミンカラーが似合う私とは違って、女性はパステルカラーが似合っている。さらには優しい色が合うだけでなく、彼女は笑顔も雰囲気も仕草も、柔らかで可愛らしい。

 先生の好みのタイプは、癒し系うさぎ女子なのだろう。私のような肉食系犬女子でないことに悔しくなる。

 メニュー表を見ている麻衣の腕をつつく。


「麻衣の目から見て、あの二人はどういう関係だと思う?」

「ちょっと待って。頼むから」


 麻衣は片手を挙げて、店員を呼んだ。

 パスタを食べるどころじゃない! と叫びたいところだが、ここはパスタ屋。パスタを頼まなければならない。

 しかし、メニュー表を見ても脳に情報が送られていかない。


「友那はどうする?」

「……カルボナーラ」


 普段よく食べるパスタを適当に頼む。

 店員が下がるとすぐさま、同じ質問をする。


「あの二人、どういう関係だと思う!?」

「そんなに気になる?」

「気にならないという選択肢はない!」

「なにそれ」


 麻衣は呆れた言い方をしたが、目が輝いている。私が知らない情報を持っているとき、麻衣は目が輝く。

 

「もしかして、情報を持っているの!?」


 顔を突き出すと、麻衣は私のおでこをペチッと叩いた。


「なんで!?」

「ごめん。目の前におでこがあったから、つい。友那は、あの二人をどういう関係だと推測する?」

「私は……宗教の勧誘か、高額サプリの押し売り」


 冴木先生の元カノ、内田夏帆だとは絶対に認めたくない。私とはタイプが違いすぎる。


「宗教の勧誘でも、高額サプリの押し売りでもないんだなぁ。横を通ったときに、偶然聞こえたんだよね。女の人が『やっぱり、あなたが一番だってわかった。やり直せない?』って」

「…………」

「百パーセント、元カノだね」



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