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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第三章 恋に、さようならとこんにちは
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恋心は青いままで

 タクシーの中。母は泣きじゃくる私を抱きしめ、一緒に涙を流した。


「絶対に許さない!!」


 どうして母がこんなにも怒っているのか、最初ピンとこなかった。だが、修哉に対する怒りなのだと気づいた。それくらい、私の頭も心も冴木先生で占められていて、修哉のことを忘れていた。

 家の前で待ち伏せされたことも、トイレを借りたいと嘘をついて家に入ってきたことも、強引にキスされそうになったことも、暴力を振るわれたことも、もうどうでもいい。思い出したくない。修哉を心から締めだし、記憶を消したい。


 家に着き、母は私が落ち着いたのを確認してから、一人で修哉の家に行った。修哉の両親を交えて、四人で話し合ってくれた。

 修哉は最初、否定したらしい。だが母が、


「マンションにある防犯ビデオを見れば、あなたが無断で侵入したことも、友那を無理矢理に家に入れたこともわかるんですよ。あなたが否定するなら、警察に訴えます」


 そう突きつけると、すべてを白状したそうだ。



 土曜日の夜。私は炭酸水、母はワインを飲みながら、リビングで語らう。


「もう二度と友那に近づかないと約束させたから。部屋の鍵も友那の電話にも手をつけていないみたいだけれど、信じられない。全部変えましょう」

「うん。本当に仕事を休むの? 大丈夫?」

「有給を使っていなかったから、ちょうどいい」


 殴られた左顔面に、あざができた。切れた唇の端も、痛々しいことになっている。

 そういうわけで私は、しばらく学校を休むことにした。母は、二日間の有給を取った。

 仕事人間の母が、私のために休みを取ることが申し訳ない。しかし母は働きすぎなので、ゆっくり休んでほしいとも思う。


「迷惑をかけて、ごめんなさい」

「まっ、お母さんも友那も、男を見る目がないよね。自分の父親に似た人を彼氏に選ぶっていうけれど、友那もそうだったなんて。あの人のどこが好きだったの? 人間的な温かみに欠けた人よね。顔で選んだ?」

「顔もいいとは思ったけれど、一番は頼りになるところかな。俺について来いっていうのが、頼もしく思えた」

「友那は、おとなしくついていくタイプじゃないでしょうに。気が強いし、頑固なんだから。融通が効く心の広い男がいいと思う」

「今度からはそうするー」

「いい? 俺について来いっていうのは、後ろからついてくるのを求めているんであって、前に出るのを許さないんだからね。つまり、女の自立を快く思っていない。俺の生き方に合わせろと要求してくる。私の人生は、あんたのためにあるんじゃない! あーっ、あの人のことを思い出して、腹が立った! 友那、いい? 少々物足りなくても、手を繋いで隣を歩いてくれる優しい男がいいんだって。機能的な冷蔵庫男より、温かい炊飯器男がいいんだって」


 母は、離婚した父のことを思い出したらしい。ワインを一気飲みすると、また並々と注いだ。顔が赤い。


「お母さんの失敗を友那は間近で見たんだから、糧にしなさい。あ、もう遅いか」

「今度は失敗しませーん!」


 母は簡単明瞭に話す人だが、酔っ払うと話が長い。しかも「機能的な冷蔵庫男より、温かい炊飯器男」というように、よくわからないたとえ話が多くなる。

 そういうわけで、引き上げようとソファーから立った。


「あの先生に、お礼をしないとね」

「あぁ、冴木先生ね。うん、そうだね。お菓子、あげようかな」

「真面目で、いい人そう。付き合うなら、ああいう人がいいわよ」

「……うん」


 冴木先生と付き合う未来なんて、ない。元彼女とやりとりをしているわけだし。それに私は高校生で、ぴろりんは学校の先生。おまけに、十五歳も年が離れている。

 絶望的だ。


「私を好きになってくれるわけない。……別にいいけど! 女子高生を恋愛の対象として見る先生なんて嫌だもん!」

 

 望みのない恋なんて、したくない。

 先生への恋心は熟することなく、青いままで──。


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