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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第三章 恋に、さようならとこんにちは
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雨の月曜日でも気分は上がる

 月曜の朝が憂鬱だった。日曜の夕方から、「明日は学校か。だるぅー」とテンションが下がっていた。

 それが変わった。理由は二つある。


 一つは、修哉に振り回されるのが心底嫌になった。

 変わってくれるかもしれないと期待していたが、付き合って一年三ヶ月。この人は変わらない。逆に、相手に変わるよう求める人だということがわかった。

 そういうわけで、修哉に会わなくていい月曜日が好きになった。

 会いたくないだなんて、恋愛の末期症状である。


 もう一つの理由は、冴木先生の歴史の授業があるから。

 先生はボソボソとした話し方をするが、声質が良いので聞きづらくはない。

 先生はたまに、人物の小ネタを挟んでくる。それがおもしろい。昔の人も、現代人と同じような悩みや訴求を抱えていたことを知った。

 歴史を学ぶことで過去と繋がり、未来を変えていくことができる。そんな歴史を学ぶ意義も知って、歴史の授業が好きになった。

 そう思っているのは私だけではないようで、他の生徒も「冴木って冴えていないわりに、授業おもしろいよな」と話している。

 

 さて、月曜日の朝。

 私は鼻歌を歌いながら、鏡の前に立つ。雨の日はボブの毛先がピョンと跳ねてしまう。それをアイロンで真っ直ぐに伸ばす。それから眉を整えて、リップを塗る。


「よし、オッケー!」


 自分でいうのもなんだが、私は綺麗な顔をしている。目がぱっちりとしていて、まつ毛が長い。肌は毛穴の目立たない、つるつるたまご肌。

 スタイルの良さと、人懐っこい笑顔が自慢。辛口の母でさえ、「友那は笑顔がいい」と褒めてくれる。

 玄関で靴を履き、下駄箱の脇にある全身鏡で制服のチェックをする。


「制服もオッケー、笑顔もオッケー。では、行ってきまーす!」


 母は十五分前に出勤している。私は誰もいない部屋に向かって、挨拶を投げる。

 今日は一日中、雨予報。そういうわけで、自転車ではなくバスで学校に向かう。

 窒息しそうなほどのぎゅうぎゅう詰めのバスに揺られながら、腕時計を何回も確認する。


「混みすぎ。間に合うかな」


 雨のせいで、道路が普段より混んでいる。しかも乗客は傘の雫を払ってから乗ってくるので、バスが出発するまで時間がかかる。

 冴木先生は、電車通勤。いつもと同じ時間に登校するだろうから、遅れてしまったら会えない。

 歴史の授業があるのだから、朝会えなくても問題はないのだけれど、なるべくなら朝の挨拶をしたい。


 学校前にあるバス停で降りると、窒息しかけていた体に酸素を送る。乗客の熱気を吸って温まった肺に、湿気の多い冷ややかな空気が入ってくる。

 駅から歩いてくる生徒の中に冴木先生はいるか探したが、見つからない。


「そうだよね。今の時間じゃ、学校に着いているよね」


 自宅の鏡の前で身支度を整えていたときの弾んだ気持ちが、風船の空気が漏れていくみたいに、シュルシュルと萎んでいく。

 雨はスニーカーのつま先を濡らしてしまった。下駄箱でスニーカーを脱ぐと、靴下まで滲みている。


「はぁー、やっぱり雨の月曜日って憂鬱」


 最悪な気分で廊下を歩いていると、冴木先生がいた。目が合う。


「おはようございます」

「わっ!? 先生のほうから挨拶された!」

「驚くことではないと思うけれど」

「だっていつも、私のほうから挨拶しているんだよ! 先生からなんて初めて!」

「そうでしょうね。渡瀬さんはいつも後ろから来るんですから」

「あ、そっか」


 歩いている冴木先生に、自転車に乗っている私が気づく。最初に挨拶をするのは、必然的に私。

 先生から挨拶してほしくて、提案する。


「いい考えがあります。先生、後頭部に目玉をつけてください。で、私が近づいたら振り返って、おはようって言ってください」

「なにを言っているんですか。妖怪じゃないんですから」


 先生は呆れているが、私はにやけてしまう。

 かまってもらえたことが嬉しいだなんて、もしかして……恋の初期症状?

 


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