雨の月曜日でも気分は上がる
月曜の朝が憂鬱だった。日曜の夕方から、「明日は学校か。だるぅー」とテンションが下がっていた。
それが変わった。理由は二つある。
一つは、修哉に振り回されるのが心底嫌になった。
変わってくれるかもしれないと期待していたが、付き合って一年三ヶ月。この人は変わらない。逆に、相手に変わるよう求める人だということがわかった。
そういうわけで、修哉に会わなくていい月曜日が好きになった。
会いたくないだなんて、恋愛の末期症状である。
もう一つの理由は、冴木先生の歴史の授業があるから。
先生はボソボソとした話し方をするが、声質が良いので聞きづらくはない。
先生はたまに、人物の小ネタを挟んでくる。それがおもしろい。昔の人も、現代人と同じような悩みや訴求を抱えていたことを知った。
歴史を学ぶことで過去と繋がり、未来を変えていくことができる。そんな歴史を学ぶ意義も知って、歴史の授業が好きになった。
そう思っているのは私だけではないようで、他の生徒も「冴木って冴えていないわりに、授業おもしろいよな」と話している。
さて、月曜日の朝。
私は鼻歌を歌いながら、鏡の前に立つ。雨の日はボブの毛先がピョンと跳ねてしまう。それをアイロンで真っ直ぐに伸ばす。それから眉を整えて、リップを塗る。
「よし、オッケー!」
自分でいうのもなんだが、私は綺麗な顔をしている。目がぱっちりとしていて、まつ毛が長い。肌は毛穴の目立たない、つるつるたまご肌。
スタイルの良さと、人懐っこい笑顔が自慢。辛口の母でさえ、「友那は笑顔がいい」と褒めてくれる。
玄関で靴を履き、下駄箱の脇にある全身鏡で制服のチェックをする。
「制服もオッケー、笑顔もオッケー。では、行ってきまーす!」
母は十五分前に出勤している。私は誰もいない部屋に向かって、挨拶を投げる。
今日は一日中、雨予報。そういうわけで、自転車ではなくバスで学校に向かう。
窒息しそうなほどのぎゅうぎゅう詰めのバスに揺られながら、腕時計を何回も確認する。
「混みすぎ。間に合うかな」
雨のせいで、道路が普段より混んでいる。しかも乗客は傘の雫を払ってから乗ってくるので、バスが出発するまで時間がかかる。
冴木先生は、電車通勤。いつもと同じ時間に登校するだろうから、遅れてしまったら会えない。
歴史の授業があるのだから、朝会えなくても問題はないのだけれど、なるべくなら朝の挨拶をしたい。
学校前にあるバス停で降りると、窒息しかけていた体に酸素を送る。乗客の熱気を吸って温まった肺に、湿気の多い冷ややかな空気が入ってくる。
駅から歩いてくる生徒の中に冴木先生はいるか探したが、見つからない。
「そうだよね。今の時間じゃ、学校に着いているよね」
自宅の鏡の前で身支度を整えていたときの弾んだ気持ちが、風船の空気が漏れていくみたいに、シュルシュルと萎んでいく。
雨はスニーカーのつま先を濡らしてしまった。下駄箱でスニーカーを脱ぐと、靴下まで滲みている。
「はぁー、やっぱり雨の月曜日って憂鬱」
最悪な気分で廊下を歩いていると、冴木先生がいた。目が合う。
「おはようございます」
「わっ!? 先生のほうから挨拶された!」
「驚くことではないと思うけれど」
「だっていつも、私のほうから挨拶しているんだよ! 先生からなんて初めて!」
「そうでしょうね。渡瀬さんはいつも後ろから来るんですから」
「あ、そっか」
歩いている冴木先生に、自転車に乗っている私が気づく。最初に挨拶をするのは、必然的に私。
先生から挨拶してほしくて、提案する。
「いい考えがあります。先生、後頭部に目玉をつけてください。で、私が近づいたら振り返って、おはようって言ってください」
「なにを言っているんですか。妖怪じゃないんですから」
先生は呆れているが、私はにやけてしまう。
かまってもらえたことが嬉しいだなんて、もしかして……恋の初期症状?




