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二十年後の約束  作者: 遊井そわ香
第三章 恋に、さようならとこんにちは
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修哉とのデート

 五月最後の日曜日。白い雲と青い空のコントラストが美しい、絶好のお出かけ日和。

 今日は、彼氏とデート。カレーイベントに行く約束をしている。


 私は自分のために目玉焼きを作り、食パンにいちごジャムを塗って食べる。

 母の分は用意しない。母は、そのときに食べたいと思うものを食べたいそう。

 母は、心理カウンセラーとして病院で働いている。仕事に力を尽くしている結果、「休みの日はしゃべりたくないし、人と関わりたくない。一人の時間が欲しい」と部屋に引きこもっている。


「働くって、大変」


 平日は患者のために心を使い、休みの日に自分を取り戻す。そんな母の生き方を否定するつもりはないけれど、しんどいだろうと思う。


「私は、仕事よりも自分の時間を大切にしたいな。休みがたくさんあって、残業がなくて、でもお給料のいい会社。そんな会社、あるかな?」


 食品会社で働きたいという夢はあるが、不確定。絶対にこの仕事に就きたいという強いものではない。

 とりあえず大学に入ってから決めようという、中途半端な受験生である。


 朝食を終え、着替える。歩きやすいように、黒のオールインワンの上に紫色のTシャツを着る。リュックを背負えば、ラフな格好のできあがり。

 待ち合わせは十時半だが、修哉は遅れてくるだろう。付き合って知ったのだが、修哉は時間にルーズだ。

 私は家を出ると、のんびりと歩き、待ち合わせ駅に十時三十五分に着いた。


「あっ、修哉!」


 付き合って、一年二ヶ月。初めて、修哉が先に待っていた。珍しいことがあるものだと、笑顔で手を振って駆け寄る。

 だが、手前で笑顔を消した。修哉の目つきが険しい。


「今、何時?」

「えぇっと、十時三十五分」

「待ち合わせ時間は、何時何分だっけ?」

「十時半」

「なんだ、わかってんじゃん。なんで遅れて来たの?」


 なじる言い方に、たじろぐ。どうして責められているのか、わからない。

 修哉はいつも十五分ほど遅れてくる。けれど私はいつだって、笑顔で許してきた。それなのに、私は五分の遅刻も許されないの?


「遅刻して来ることが多いから、今日も遅いのかと思って……」

「だから、今日は早く来たんじゃん」


 ──そんなの知らないよ。早く家を出たのなら、メールをくれたら良かったじゃん。そしたら私だって、早く来たのに。


 そう、言い返したい。でも、言えない。修哉は怒ると長い。私が悪いとは思わないが、喧嘩にならないために謝る。


「ごめんなさい」

「はぁー……」


 修哉は大袈裟なため息をつくと、改札に向かって歩きだした。


「買いたいものあってさ。渋谷に行こう」

「……うん」


 カレーイベントに行く約束をしていたよね? 

 言葉は喉元まできている。あとちょっとの勇気で、口から出る。でも、あとちょっとの勇気が出ない。

 修哉は俺様だ。従うぶんには優しいけれど、違う意見を出すと機嫌が悪くなる。


 なんで、こんな人を好きになってしまったんだろう。

 親友の北山麻衣に言わせると、男を見る目がなかったとの一言に尽きるらしい。だが私に言わせると、付き合う前は良かった。

 修哉はリーダーシップがある。頭が良くて、自信家で、皮肉屋で、世界を斜め上から見て嘲笑している。語彙力が豊富なうえに独自の視点を持っているから、修哉が書く記事は読んでいて面白かった。

 麻衣は「我が強くて、短気。顔は良いけれど、付き合ったら大変そう」と難色を示していた。

 でも私は、気難しい修哉を理解して受け入れられるのは私だけって自惚れていた。


「さっきはごめん」


 揺れる電車。出入り口の手すりに掴まって外を眺めていると、修哉が謝ってきた。


「早く起きてさ。暇だったから、早めに家を出たんだ。友那が時間通りに来ると思っていたから、腹が立った。俺、短気だよな。ごめん」


 二十分もしないで機嫌が直るのは、初めて。反省してくれたことが嬉しくて、笑顔で許す。


「ううん、大丈夫だよ! その代わり、お昼奢ってよね」

「オッケー。公園に行く約束だったよな。次の駅で降りよう」

「え……。覚えていたの?」

「カレーが食べたくなってさ。そういえば、カレーイベントだったなって。どれ食べようか、迷うな」


 反省したのではなく、カレーが食べたくなったから、私の機嫌をとるために謝った。そういうことらしい。

 強い不満が胸に渦巻く。修哉は結局、自分のことしか考えていない。渋谷に買い物に行こうと言われて、気持ちを切り替えた私のことなんて少しも考えていない。


「あっ!」

 

 カーブで電車が大きく揺れた。修哉の腕が伸びてきて、私を抱きしめる。

 よろけずに済んだのはありがたいが、電車内での抱擁は恥ずかしい。


「大丈夫だよ。離して」

「もうすぐ電車が止まる。友那は危なっかしいから、このままでいよう」

「でも人前だし。恥ずかしいよ」

「気にすんなって」


 まただ。私の気持ちを無視して、自分の意見を押しつけてくる。

 修哉は、私の耳元で囁いた。


「友那は可愛いから、心配なんだ。男友達なんて作っていないよな?」

「うん」

「俺のこと、好き?」

「うん」

「はっきり言えよ」

「……好き」

「俺も友那のこと、好き。浮気したら絶対に許さないから」

「うん」


 修哉は独占欲が強い。嬉しかった時期もあったけれど、今は苦しいだけ。


 

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