花火大会 7
「お~い、最後にでかい花火に火を点けるぞー」
長岡博が声を上げた。
実は、フィナーレを盛り上げるために、幹事たちは、一番派手な打ち上げ花火をいくつか取っておいたのだ。みんなが集まると、長岡と菊池が、一つ目の花火に点火をした。
「よし!」
急いでみんなの輪に入る。
全員が固唾を飲んで見守る中、シュウシュウと音を立てて火柱があがった。感嘆の声が湧き上がる中、花火はどんどん勢いを増し、光の噴水となって見上げるほどの高さになった。
誰もが、言葉もなく花火を見つめた。菊池も長岡も真由子も菜摘も香奈子も、クラスで一番落ち着きのない山下ですら、黙って花火を見つめている。
光の噴水に照らされて、明るく輝くみんなの顔を、千紗は見た。かつて同じ教室で学んだ仲間たち。晴れの日も雨の日も、暑い日も寒い日も、笑ったり泣いたり怒られたりしながら、一年間一緒に過ごした仲間たちだ。
最初は見知らぬ同士だった。ぎくしゃくとした船出だった。思いが上手く伝えられず、もめた日もあった。無防備なままに、みっともない姿もさらした。
でも、いろんな出来事を一つ一つ乗り越えるたびに、少しずつお互いを知り、少しずつ心が近づいていった。
そして、やっとクラスらしくなってきたと思ったら、もう別れの季節になっていたのだ。
あの時の仲間が、またこんな風に集まれるなんて、思っても見なかった。けれど、確かに今、こうしてみんなで一緒に花火を見つめている。そう思うと、目の前の一瞬一瞬が、かけがえのない大切な時間に思えて、千紗は胸が苦しくなった。
時はどんどん流れ、今日という特別な一日も、たちまち押し流されて、遠くへ行ってしまう。手を伸ばしても、捕まえる事が出来ない一瞬一瞬を前にして、自分に出来ることと言ったら何だろう。たまらないほどの懐かしさを抱えて、思い出すことだけなのだろうか。
だから千紗は、心から懇願した。ああ、神様。お願いだからこのまま時を止めて。今日を終わらせないで。一生懸命勉強するし、家の手伝いもするし、弟を泣かしませんから。だからせめてこの瞬間を、少しでも長く感じさせてほしい。
千紗は、不意にこみ上げてきた涙を押し殺し、瞳を潤ませた分は眩しすぎる花火のせいにして、ただひたすら、今のこの瞬間を心にしっかり刻みつけようと、花火を見つめ続けた。




