表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Twinkle Summer   あたしが千紗だ、文句あるか5  作者: たてのつくし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/57

花火大会 2

 千紗はだんだん不安になってきた。

 菊池の奴、急に来ないってことないよな。もしそんなことになったら、そしたらもう、どうしたらいいんだろう。千紗が、心の中であれこれ思い悩み始めた頃、やっと大通りをこちらに向かってやってくる、菊池の姿が見えた。

 ブルージーンズの上に白のポロシャツを着ている。その姿だけで、もう千紗は息がとまりそうになってしまう。


「菊池、遅~い! ほれ、ダッシュダッシュ」

 千紗とは異なり、なんの屈託もない真由子は、菊池に向かって大声をあげた。それを聞いて、渋々菊池が走り出した。手に持ったバケツが、ぶらぶらと揺れている。

「おい~す!」

 菊池は、みんなに向かって陽気に片手を上げた。

「家を出てから、バケツ忘れたことを思い出してさ。もし忘れたなんてことになったら、野村に殺されるだろうから、慌てて取りに戻った」

「どうせ、家を出たのも遅かったんでしょ」

「遅れたって、ほんの十分じゃん」

「十五分です」と真由子が厳しい声で訂正したが、菊池は意に介さない。


「それより野村さー、ほんとにバケツなんかいんの? 学校の使っちゃえば、よくない?」

「それはだめだって昨日も言ったでしょ。勝手に使ったのばれたら面倒だもん」

「ばれないって」

「ああ、もう、うるさいなぁ。ほれ、あんたのせいで時間過ぎてるんだから、行くよ」

 勢いよく袋を持ち上げると、真由子が先頭を切って歩き出した。


 ショッピングビルに着くと、特に急ぐ必要もない四人は、本屋をのぞいたり、おもちゃ屋を冷やかしたり、意味もなく中をうろうろした。

 偶然、婦人物の下着売り場の前に来たときは、菊池と長岡が肩を組んで何やらクスクス笑うので、女子二人でぐいぐい押して通り抜けた。パソコン売り場では、菊池と長岡がけっこう気を合わせて商品を吟味していたし、洋服売り場では、千紗と真由子がなるべく変な服を見つけては、お互いにすすめ合って笑った。


 ただ商品を見るだけのことが、こんなに楽しいなんて。千紗は驚きながら思った。もともと、買い物になんぞ大して興味の無かった千紗は、一階のベーカリーくらいしか、来たことがなかったのに、今日はまるで、遊園地にでも来ているかのような楽しさではないか。

 あんまりにも楽しいので、ついうっかり、本日の大切な用件を忘れそうになったくらいだ。


「それにしても、花火はどこで売っているんだろうな」

 と首をかしげる長岡博に、残りの三人がハッとなった。しまった、忘れてた。

「おもちゃ屋じゃない? だって、遊ぶものでしょ」

「でも、さっきのおもちゃ屋にはなかったよ」

「ここがデパートだからかも。スーパーのおもちゃ屋ならあるんじゃない」

「じゃ、隣のビルだな。確か、三階に連絡通路があったよ」

「ねえ、でも、そこにも花火売ってなかったら、どうしよう。どうする?」

 走り出しながら、千紗が聞いた。

「多分、コンビニに花火セットがあるよ。割高な気がするけど」

 長岡が素早く答える。


 隣のビルにあるおもちゃ屋に花火を見つけて、四人はほっとした。しかもその店には、小さいながらも花火コーナーが作ってあって、まあまあの品揃えだった。

 女の子達が様々な色や大きさの手持ち花火を選ぶと、男子も負けずに、煙幕やヘビ玉、ロケット花火や爆竹などを買い物かごに放り込む。一番盛り上がる打ち上げ花火も、もちろん買う。


 途中で合計金額を計算し、予算に少し余裕があるので、千紗達が手持ち花火を増やそうとすると、菊池達が負けずに爆竹を増やそうとする。

「爆竹なんて、こんなにたくさんいらないよ」

 と、千紗が抗議すると、

「いいじゃん。これないとつまんないよ」

 と菊池。


「爆竹の何がそんなに楽しいの? 音がうるさいだけじゃない」

「それがいいんじゃん。ゴリエが、ギャアギャア言うのが面白いんじゃん」

「そりゃ、ゴンちゃんのリアクションは面白いけどさ」

 と、真由子が笑うと、長岡博までが「あっはっは」と笑い声を上げた。

「まったく、男子ってみんな本当にばかだね。っていうか、真由ちゃんまで何よ」

 千紗があきれて声を上げると、三人そろって大笑いした。


 その後、四人はあれこれ迷ったが、打ち上げ花火を増やして会計を済ませた。お金は、幹事が一人二千円ずつ出し合って払い、今日の参加人数で割って、最終的な金額を決めることになっている。

 その面倒な会計を、真由子が進んで引き受けてくれた。真由子は、そのための小さなノートとペンも持参していた。


「あと、ろうそくがいるよ」

「ライターもいるんじゃない」

「ああ、そいういうのは、あたしが家にあったのを持ってきたから、大丈夫」

 真由子の一言に、残りの三人が一斉に、

「さっすが~」

 と唸った。

 これだから真由子の言うことには、菊池でさえ逆らえないのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ